伝説兄妹! (このライトノベルがすごい!文庫) (このライトノベルがすごい!文庫)

【伝説兄妹!】 おかもと(仮)/YAZA このライトノベルがすごい!文庫

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才能はなく、お金もなく、だが働きたくない。ないない尽くしのダメ大学生・柏木は、食糧を求めて入り込んだ山の中で、奇妙な遺跡を発見する。遺跡の中で出会った少女が持つ、凄まじい詩の才能を目の当たりにした彼は、彼女をデシ子と名づけ、妹として自分の家に住まわせ始める。柏木の目的は、彼女の詩を自分のものとして売りさばくことだった。目論見は成功し、一躍大金持ちとなる柏木だったが、謎の美女が彼の前に現れ……。

他の方の感想を見ると、主人公たる柏木への感情が軒並み悪い、というかその嫌われっぷりがすごいなあ。
あれ? こいつに言い知れぬ可愛げ、愛おしさのようなものを感じてしまっている私はかなりの異端?
確かに、奴はどうしようもない下劣なゲス野郎です。人間性は劣悪で、人格は破綻しており、頭は悪く考えなしで愚か者で救いようがありません。自己本位的で尊大で卑劣で、卑賎で、卑しい人間です。自分よりも才能のある人間に嫉妬し、それらを踏みつけることに快感を覚える最低の人間です。矮小で卑小で保身ばかり気にする器の小さな人間です。ホメるところなんて一つもありません。本当に一つもないのです。皆無です。絶無と言っていい。
でもね、彼も自分がそんなどうしようもない人間だということを、誰よりも分かっているのです。誰よりもわかっていて、誰よりも呆れ果て、絶望している。
この柏木という男を私が愛おしいと思うのは、そんな自分の有り様を誰よりも自覚しているくせに、それを受け入れて開き直ることも、決然と拒絶して違う人間になろうと努力することもせず、中途半端にダラダラとそのどうしようもない有り様を続けてしまっている所なのです。
自分に仕方ない、仕方ない、と言い訳しながら、一生懸命目を逸らしながら、他人から見たら馬鹿みたいななけなしのプライドを必死に抱え込み、周りの人間の軽蔑しきった視線を見ないふりをしながら、悲しく寂しく虚しい気持ちをひたすらに押し殺しながら、居丈高に声を張り上げ、みっともなく自分を騙しながら生きようとする、その姿。
バカです。アホです。愚かです。救いようのない間抜けです。
でも、だからこそ、嫌悪できない。憎めない。いや、ここはこいつのことを素直に嫌悪出来ていたら、と思わなくもない。ここで私が彼に感じてしまった愛おしさというのは、結局のところ哀れみと、共感と、優越感のようなものから湧いてくる、柏木の性質と恐らく似通った卑小なそれに基づくものだろうから、だ。
ふと、最近、ジャンプで連載中の【めだかボックス】にて、ある最低人間たちが呟いていたセリフが脳裏をよぎってしまった。
「自分より下種(マイナス)な人間がそばにいてくれるという事実ほどやすらぐことはない」
言うなれば、柏木に感じる感覚というのは、このセリフのようなものなんだろうなあ、と思うと、いささか凹んでくる(苦笑

ただ、彼がもし、本当にデシ子を金を生み出す道具としか思っていなかったのなら、デシ子を利用して儲けた金に有頂天になり、図に乗るような輩なら、軽蔑しか生まれなかったでしょう。
でも、柏木はデシ子の才能をさらに妬み、同時にその嫉妬によって奪い取った財に対して、虚しさをいだいていくのです。
中途半端な男です。卑劣さを貫き、矮小さを受け入れ、下劣であることに自信を持てたら、彼はもっと楽に生きられただろうに。彼は卑小な人間であるが故に、自分の最低さに耐えられない人間でした。
彼の中途半端さと、本当に求めているものは最初から最後まで一貫していて、だからこそ彼の行動はブレまくっている。ブレながら、非常にその軌道は分かりやすいものになっている。
彼はきっと、自分の中の虚しさを埋めるためには、デシ子の元に赴かなければならなかったのだ。彼の中の良心や、優しさというのは虚しさを埋めるための本能に過ぎてもいいのかもしれないけれど、でも人間が持つ善性というものは、多かれ少なかれ自分の内側を救済するものである以上、非難には値しないはず。
彼は、ずっとあがいていた。みっともなく、前に進まず、その場に蹲ったまま身動きせず、周りには迷惑を振りまくだけの有り様だったとしても、あがいてはいたのだ。柏木に、なぜ友達という存在が、大塚や明津、池野中という人たちが、辛うじてでも居たのかは、その辺に理由があるのかもしれない。

彼はきっと本質的には何も変わっていないし変われないのだろうけれど、自分の中の虚しさを埋めるためのやり方を覚えた以上、周りからすれば多少はマシな人間になれるのかもしれないなあ、羨ましいことに。
まあ、彼は同時に度し難いほどバカで、物覚えが悪く、自分に都合の悪いことも、時に都合の良いことすら忘れてしまうアホで、頭の悪い考えなしなので、同じ愚かなことを度々繰り返すことになるのだろう、ざまあみろ。
でも、周りの人達から本当に見捨てられることは、もう無いんだろうなあ。
やれやれ(苦笑