C3‐シーキューブ〈10〉 (電撃文庫)

【C3 シーキューブ 10】 水瀬葉月/さそりがため 電撃文庫

Amazon
 bk1

 ン・イゾイーが転校してきたのも束の間、世間はバレンタインの季節に。渦奈にあれこれ扇られたフィアをはじめ、おのおの願望まる出しなチョコお渡しシチュエーションの妄想をふくらませるが!?
 そんな折、研究室長国の日村素直が教師として学校に復帰してくる。しかも、彼は思わぬ人物を伴っていて──。
 さらには一同の前に蒐集戦線騎士領の騎士が立ちはだかる。「実にグッデスト!」とか変な言い回しを操る彼女は、しかし《最強》の呼び声もある強敵だった!
 バレンタインも大変な第10巻!

そ……そうだよなあ、奴はそういう人間だったよなあ。その本性を知っているはずの自分ですら危うく騙されるところだった。況してや、一時的に戦闘の現場で行き会っただけで直接的に面識のない春亮たちからすれば、疑うほうが難しい。
しかも、今回の仕掛けはかなり巧妙だったんじゃないだろうか。何か変だ、というのは感じていても、違和感は漠然としたままでなかなか焦点を得なかったんですよね。振り返ってみると、伏線となる部分はかなり明確に提示してあるんだけれど、全体図を浮かび上がらせるような異常な点については、より目立つ違和を放つもののそれ自体では全体の構図が見えないようになってる伏線を、囮というか目に付くように配置していて、うまいこと迷彩になってるんですよね。ついつい疑念はそちらの方に頭を捻るカタチになってしまって、細かいところに目がいかないようになっている。
ついでに言うと、良く言われる語句「バレないように嘘をつくには、嘘の中に幾つかの真実を混ぜておくこと」、というのを奴はまたうまいこと実践しているんですよね。あとになってみると、真実に対する嘘の部分の悪辣さや卑劣さが際立つわけですが。
まさか、恥知らずにもそこまで臆面も無くいけしゃあしゃあと嘘をつけるとは思わないじゃないですか、錐霞にしたってあれほど警戒していたにも関わらず、仕掛けそのものには殆ど気づけなかった。最後の最後で、一番肝心な所を見抜いたのはさすがというべきか、それだけ奴に与えられた心の痛みが強かったということなのか。どちらにしても、またも裏切られたというわけだ。
きっつい話ではあるけれど、彼女にとっては踏ん切りをつける話でもあったんだろうなあ。不思議なことに、いつも錐霞に未来への示唆を与えるのはフィアなんですよね。春亮も、錐霞に大きな影響を与えているけれど、フィアはそれ以上に錐霞の心に、光を当てているのを考えると、恋のライバルとしては錐霞はちょっと頭の上がらないところが出てくるかもしれないな。
まあ、今のところ自分の気持をはっきりさせたのは錐霞だけで、フィアはまだ心がそこまで成長しておらず、このははちょっと今回えらいことになってしまったわけで……。
いや、あの宣戦布告はかなりの勢いで開戦冒頭大戦果! になりそうだぞ?

一方で、なんやかんやとえらいことになってしまったこのはさん。いやはや、彼女の抱えていた秘密については、正直かなり驚かされた。あの設定については揺るぎのない大前提のもの、として受け止めていたので、これ下手するとこのはに限らず、色々と前提が崩れてくるところが出てくるんじゃないだろか。
妖刀・村正の呪いが強すぎる、という可能性も考えられるけど、今回フィアが見ていた過去の悪夢、拷問具としての彼女の記憶をみている限り、フィアが今、前向きに生きているのが信じられないくらい、本気でエグい使用実跡なんですよね。これまでもチラチラと触れられてはいたけれど、ここまでグロかったか? と焦るくらいに。
彼女の過去を知ってしまうと、今のフィアの真っ直ぐすぎるくらいまっすぐな、他人の歪んだ心をすらたたきなおしてしまうような希望には、改めてフィアの強さを思い知らされる。
人のグロテスクな悪意をこれでもか、とばかりに剥き出しに曝け出し、突きつけるような話なだけに、それを踏まえて、善意が人の心を救い、人の気持ちを強くするのだ、ということを正然と告げる内容は、やっぱり読んでいて気持ちがいいですよ。

口絵にもあった錐霞の妄想は、他のと比べても妙に生々しく、というかあのイラストはエロすぎです、自重(笑
ああ、錐霞さんは脱がされたい願望を常に抑圧しているのですね、わかります。

作者作品感想