桐咲キセキのキセキ (GA文庫)

【桐咲キセキのキセキ】 ろくごまるに/渡会けいじ GA文庫

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 bk1

 月光の下、どこまでも続くラベンダー畑。白いワンピース姿の幼い少女。その少女を抱きしめたとき、僕はようやく世界と噛み合った――。

 桐咲キセキ。
 やっと出会えた翠色の瞳の美少女。
 彼女は今、僕の前にチェーンソーを持って佇んでいる。桐咲一族の次の当主を決めるための、不可解かつ複雑怪奇な闘い――メデュース――に勝ち残り、アルカナムの秘密を知るために。病院に幽閉された母の病いの原因を知るために。

 そして僕――遊撃部長K――は、メデュースにおけるキセキのパートナーになることを選択した。
 謎に満ちた世界をひもとけ!

?非?世界ファンタジー遂に開幕!

大好きだーーーーッ!!

あああ、枯渇していたろくごまるに分が満たされていく〜〜。こればっかりは、どんな名作家の名作だろうと、傑作だろうとなんだろうと、埋めることの出来ないスペースだもんなあ。これだけは、ろくごまるに以外じゃ埋まらない。
伝説の【封仙娘娘追宝録】の完結以来、まさか出るとは思っていなかった新作にして新シリーズである。氏の作品は刊行されているものについては【食前絶後】と【封仙娘娘追宝録】の二作しかないので、これが三作目。いったいどんな代物になっているのか、封仙娘娘追宝録が実質十年以上前に始まったシリーズなので、現在のライトノベル界隈の中でいったいどんな作品を仕立て上げてきたのか、それはもう楽しみで仕方なかったんですよね。
不安は奇妙なくらいになかった。だって、あんな何年ものブランクをまるで感じさせずに、封仙娘娘追宝録であんなとんでもない結末を持ってこれる人だもの。これはもう、信仰入ってますよ? 信者でございますよ?
案の定、この新作も「ろくごまるに」以外の何ものでもなかったさ! 食前絶後を除けば、中華ファンタジーテイスト以外の舞台は初めてだっただけに、違和感みたいなものはあったのだけれど、繰り広げられているこの惚けたキャラクターたちによる頓知のきいた内容のおはなしは、紛れもなくろくごまるにワールド。いやあもう、馴染む馴染む。余人には真似の出来ない、あのふざけているのか本気なのか、わけがわからない独特奇妙なテンポの掛け合いは酔っ払え、と命令されているかのごとく染み渡ってくる。この幸福感をまた味わえるとはなあ。うれしいなあ、うれしいなあ。
でも、まだこれでもエンジン全開フルスロットルって感じじゃないんですよね。まだまだ大人しい。慎重に様子を見ながら、これで大丈夫ですか? いけますか? と遠慮している節が伺える。メデュースの各戦のやり方も、随分常識的というか大人しいですもんね。もっと、素っ頓狂で想像の埒外みたいな勝負方法を仕掛けてくると思っていただけに。
その慎重さを期した分、ストレスでも溜まっていたんだろうか。登場キャラのうちの一人が、自分の立ち位置を完全に無視して最初から最後までオールで暴走してるんですよね。胡散臭い謎の河内人、という作者成分をこね回して造形したみたいな、純度百%ろくごまるに! みたいなキャラクターになっちゃってるし。
おいおい、藤堂夢月さん、あんたヒロインの桐咲キセキの親友Aという脇役でしかないだろう、配置的に。なのに、存在感が他のキャラクターからも完全に突き抜けて無双状態になっちゃってるんですが(爆笑
別にヒロインや主人公を差し置いて大活躍をしているというわけじゃないんです。特別な力を秘めているわけでもないし、絶体絶命の窮地をちゃぶ台返しするようなひらめきを見せるわけでもない。ハッキリ言って、特に何もしていない。何の役にも立ってないし、特別イイ事を言ったりするわけじゃない。本筋の脇から、ワーワーと騒いでいるだけなんです。
しかし、この騒ぎっぷりがどうしても無視できない。もう、おもしろすぎて、無視なんか出来るかーー!! 彼女が喋ってる内容、行動のあまりのぶっ飛びっぷりに、もう自分、彼女が登場して喋ってるシーンはオールでひっくり返って大笑いし続けてましたよ!
もう、なんなのこの人!? 何者なの?という疑問が不適当に思えてくる。強いて言うなら、こいつ、いったい何で出来ているんだ?
あまりにもキャラクターが特殊すぎて、既存のカテゴリーから類似のキャラが思い浮かばない。他のキャラクターを例にあげて、こいつに似たようなキャラなんだよ、というのが出来ない。敢えて言うなら、封仙娘娘追宝録の静嵐刀だろうか。あの身も蓋も無さは幾許か似ているような気もするけれど、夢月のハチャメチャさと比べるとまだ大人しい。
ろくごさんのキャラは、どのキャラも安易な属性分け、ツンデレとか腹黒とか、そういう分かりやすい分類が難しい、というか出来ないんですが、それにしても夢月はあまりにも突き抜けてて独立性が強すぎる。もはやろくごまるに類夢月属とするしかないぞ(笑

と、先述してゲームの内容が大人しい、常識的だ、と言ってしまったが、何何どうして、やっぱり最後は毎度おなじみ、クリア不可能の無理ゲーを、小粋なとんちで軽やかにひっくり返す知略の限りを尽くした策略戦に。知略知謀を「とんち」呼ばわりするのは、この人くらいだよなあ(笑
そして、毎度同じく、目の前の事件ではなく、作品の構造自体に謎を仕込むやり口も健在だ。ぶっちゃけ、今回は前振り回とすら言い切っていいかもしれない。
遊撃部長Kの正体。桐咲キセキの矛盾。未だ語られぬ過去の謎。彼と彼女の関係の不可解。
まずは謎がある、その大前提が明らかになり、悪魔の存在が証明され、世には未知があふれた上でそれらは論理的に立ち向かえるものだと実証された。
またぞろ、前作のような途方も無い大仕掛けに匹敵するようなものが仕込まれているのではないか、と想像しただけで、ゾクゾクとワクワクが止まらない。

思い出の彼女を守るのだ、と格好良く決意と覚悟を決めながら、密かに今回ほんとにまるで何もしなかった主人公のKくん。やったことといえば、クローズドサークルにおける完全犯罪を、身も蓋もないぐだぐだな方法で台無しにしてしまう、というミステリー史上、皆が一度はやってしまいたいと思いながら出来なかった事をあっさりやってしまったという暴挙くらいで……あれ? けっこう大層な事をしてますか?
いや、その余計な一件はともかくとして、本筋ではなんかカッコいいことを言いながら、別に何もしなかったKくん。次回こそは、キセキの度肝を抜くカタチで活躍して、いいアピールをして欲しいものである。……まあどうせ頑張っても、突拍子も無くとんちんかんで素っ頓狂な事になるんだろうけどな。この作者が話を書くと、たとえそれがどんなキャラでも、素っ頓狂で何故か感動的な顛末になるんだし。怪奇だな、うん。