無限のリンケージ 4 ―サムライ・インパクト― (GA文庫)

【無限のリンケージ 4.サムライ・インパクト】 あわむら赤光/せんむ GA文庫

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「四年、か……待たされる身は辛かったぞ、ラーベルト・カイガン」

 次戦の対戦相手であるハルト・ミウラは、そんな言葉をラーベルトに投げかけてきた。
 戦う価値のある相手としか試合をせず、しかもデビューから九年間無敗を誇る『無冠の帝王』ハルト。シャクナゲ門下の大先輩にして、切断力場の第一人者ガットゥサイをもスタッフとして擁する強敵に、ラーベルトたちは厳しい戦いを覚悟する。

 一方、コーチのオデットは夜の街路で一人の少年と出会う。シガード・ギクセン。グーシン帝国第四王子の名前を持つ彼の目的とは!? 新たな嵐が、惑星アスラに吹き荒れる!

サクヤは……その歳で表と裏の顔を使い分けるのか。いや、今がまさに裏表を使い分けだした端緒の時期に当たるのだろう。
ラーベルトやベックス、セシリアたち身内に見せる屈託の無い少女として、自らの才に自信と誇りを抱く偉大なる天才技術者としてのサクヤが、決して親しい人達には見せない、裏取引や危険にして大胆な駆け引きを冷然と執り行なう交渉者としての裏の顔。そのギャップにはかなりドキドキさせられる。この娘は、良い悪女の才能がある。
尤も、彼女の行動原理は表も裏も全く同じで、すなわちラーベルトのためという意味では一貫している。表のサクヤは、傍らでラーベルトの脆い心を支え、技術者としてラーベルトが全力で戦える術を与えることで、もう充分なくらいラーベルトを助けているのだけれど、恋する少女であるサクヤは、それだけでは自分が彼のために全力を尽くしているとは考えなかったのでしょうね。チームスタッフの中で唯一ラーベルトの秘密を共有し、彼の目的を助けると誓った身として、彼女は現場スタッフとして果たす役割を超えて、ラーベルトが考えるやり方を超えて、彼の望みを叶えようと奔走しているわけだ。なんて健気で献身的な、と思う一方で、きっとアーニャへの対抗心もあるんだろうなあとも思えるわけで……この負けず嫌いめ(笑
とはいえ、サクヤの動き方は大したもんだと思うんですよね。完全に表と裏を使い分け、切り替えて、身近な人達に違和感どころか一切気取られていないんだから。健気だろうと恋する少女だろうとなんだろうと、彼女が一端の「女」であることが窺い知れる。

そんな彼女やラーベルトたちにとって、今回は完膚無きまでの敗北であったのは、物語全体においても一つのターニングポイントになるんだろうか。今までは負けはあっても、試合の上での仕方のない負けや、状況によるものであって、万全の対策を取り、必勝の体勢で挑んだにも関わらず返り討ちにされたのは、今回が初めてだったんですよね。ラーベルトは勝利への執念で、サクヤは純粋な技術力で、言い訳の使用のない無様な敗北を喫してしまう。
負かしてくれた相手が、バーギャンのような好漢だったならここまで悔しい事はないんですけどね。相手のハルト・ミウラは狷介を拗らせてしまったような、歪んだ人物。チームのコーチであるオデットの兄弟子であり、もしかしたら意味深な関係になり得たかもしれない相手。ここで彼を打ち倒す事は、ラーベルトの最終目的も含めて、様々な問題が打開に向かうターニングポイントでもあっただけに、この負けは本当に痛いんだよなあ。
ただ、このハルトが当面の試合における壁としてではなく、ラーベルトの目的である故郷を救うことに深く関わってきた事は、かなり意外な展開だった。
新たに現れたシガード王子。ラーベルトの故国を滅ぼした国の王子である彼が、いったいどういう目的を持っているのかもわからないし。ただ、登場した場面をあんな風にした、ということは単純な敵ではないっぽいんですよね。ラーベルトからすると憎悪の対象なんだろうけど、肝心の滅ぼされた側の国の姫であるアーニャは、シグの事を悪く思ってないようだし、シグの方もアーニャにメロメロっぽいし。なにより、あんな姿を見せられたら、好感しか抱けないよなあ。可愛いじゃないか。
そもそも、彼の目的ももしかしたらラーベルトたちと決して敵対するようなものではないようにも思えるんですよね。ただ、単純に味方というのも、ちょっち怪しいところがあるし。ハルトとオデットの関係を思うと、彼の発言というのは物騒ですもんね。なんとか、穏当な形でまとまって欲しいところなんですが。
なにより、負けたラーベルトとサクヤの復活の矛先が、どこへ向けられるべきなのか、まだ提示されてないので、なんにせよ次だよなあ。恐らく、急展開が待っているだろう次巻こそが実質のターニングポイントか。

あわむら赤光作品感想