スノウピー2  スノウピー、憤慨する (富士見ファンタジア文庫 や 5-1-2 スノウピー 2)


【スノウピー 2.スノウピー、憤慨する】 山田有/狐印 富士見ファンタジア文庫

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怒って、怒られて人は成長するのです!? 僕だって成長したい!
「十日後に、銭湯に行くわ」と彼女は宣言した。スノウピー。雪の精みたいな女の子。苦手なお湯を、十日間かけて克服するらしい。僕も会話をがんばろう! だけど僕の熱意は女性陣に空回りで!? 女の子って、難しい!

あれ? この主人公くんって名前が無かったっけか。所謂、「僕」で表記され固有名詞が出てこない主人公。とはいえ、意外と固有名詞を教えてくれない主人公のほうが、自己主張の強い個性的な主人公であるケースは多いんですよね。本作も、わりとその傾向が強い。
ヒロインたちも大変魅力的な本作なのですが、主人公くんも負けず劣らず興味深い人材なのである。
彼の特徴を言うなれば、幼い、とするのが一番近いのではないだろうか。幼い、というのはこの場合、純朴で俗世に穢れていない無垢な人間である、という事である。兎に角、捻くれていないんですよね。とても真面目に、自分に対しても他人に対しても真摯に生きようとしている。
彼は、自分が他人の気持ちがわからない、理解することの出来ない欠陥のある人間だと思い込んでいて、それは大まかに置いて正しいのである。彼はどうしても空気を読めないし、他人の気持ちを正確に推し量る事ができない。普通、人は幼い頃からの他人とのコミュニケーションの経験を積み重ねることで、経験則として他人の気持ちを慮る、というスキルを獲得ものなんだけれど、何故か彼はその経験則が欠落してしまっているようなのだ。
でも彼は、少なくともスノウピーと出会い、可香谷ユリと身近に接するようになってからの彼は、自分の持つコミュニケーション能力不全を理由にして、言い訳にして、他人と距離を置いて孤立を深めようとする、言わば楽な道を選ぶことをハッキリと拒絶しているのです。むしろ、積極的に他人の気持ちがわかるような人間になりたい、と彼なりに様々な試行錯誤を重ねながら一生懸命自分以外の他者に近づこうと努力するのです。
勿論、他人の心の動きを察することのできない、理解出来ない彼は失敗を繰り返します。
彼なりに一生懸命考え、自分の身の回りで繰り広げられる様々なコミュニケーションの様子から、彼なりの他人と仲良くなり、心をつなげられる方法を導き出し、実行するのですが、コミュニケーションの本質を理解出来ていない彼は、他者のそれを参考にしてもその表層しか捉えられずに、彼の本来の意図からすると完全にズレてしまったやり方を、正しい方法と勘違いして、他者と心の距離を縮めるどころか、余計に溝を深めてしまうような失敗をしてしまうのです。
トライアンドエラー。本来なら、まだ確固とした人格や人間関係が形成されていない幼少時代に行われるべき試行錯誤を、高校生にもなってからやらなければならないというのは、やはり大変なことであり、傷つくことも多いのです。
それでも、彼はあきらめないんですよね。落ち込み、傷つき、自分に愛想を尽かしそうになりながらも、彼はひたむきに、他人と親しくなりたいという欲求に従います。それは純朴な一途さであり、幼いが故の真っ直ぐさであり、無垢であるが故のよどみない健やかさなのでしょう。そして、それこそが彼を魅力的な人物として成り立たせている。
スノウピーは彼のことを再三、愚かだと評しているけれど、彼はきっと正しい愚者なのでしょうね。スノウピーも、愚かという表現を決して罵倒として使っているわけじゃなく、むしろ彼のことを遠まわしに認める表現として、それを使っているようだし。

そして、彼の心の在り方は幼いけれど、それは彼が精神的にも幼い、という事とはイコールではないのです。彼は、当然のように年頃の若い男の子なのです。
自分以外にはその素顔を見せなかった可香谷さんが、一番親しい友人であるじゅりん君と趣味の一致から意気投合して、急に仲良くなってしまったのを目の当たりにしたとき、彼は普通の善良な人間の在り方として、友人が可香谷さんの事が好きなのなら自分は友達として応援してあげるべきなのだろう、と頭ではそう考えながら、心が何故かその考えにブレーキを掛け、彼は自分の理解不能な心の軋みに混乱し、苦しむことになります。
彼は人の心がわからない欠落した人間かもしれないけれど、同時に人並みの心がちゃんと普通に存在する人間であることが、嫉妬や独占欲という当たり前の人の心を持った男の子であることが、ここで強烈に示されるのである。

トライアンドエラーを繰り返し、繰り返し、何度も失敗し、自分を見失いそうになりながら、でも彼の周りにはとてもたくさんの、彼のことを考えてくれる、想ってくれる人たちがいて、ちゃんと彼に怒ったり、彼のことを心配したり、助けたり、やるべき事を教えてくれたりしてくれるわけです。
そうやって、色々な人達に助けられながら、彼は失敗の中から人の心を知っていく、分かるようになっていく。
そのおはなしは、人が一段一段、階段を登っていく姿は、とても心をあったかくしてくれる物語なのである。

そういえば、スノウピーがこの世界にきてやろうとしていることは、この好奇心の塊のような娘が望んでいるのは、人間観察だったんですよね。そりゃあ、この主人公くんはとびっきりの題材だわ。

そんな主人公くんの周りを賑やかす他の登場人物たちも魅力的なんだわ。スノウピーにしても可香谷さんにしても、これでもかというくらいに心引きつけられるような引力を持っている。
可香谷さんなんて、近年稀に見る純粋無垢なツンデレさんだもんなあ。
不意打ちに私服を誉められて、真っ赤になって慌てふためいて思わず、バカバカと怒りながら
「ばかっ! ありがとう! バカ!!」「ありがとうばか!」
素直なんだか素直じゃないんだか(笑
この娘、照れ屋さんですごくツンツンしてるんですけど、そのツンが並みのツンデレさんと違って、気持ちの誤魔化しや否定、拒絶、にはなってないんですよね。ツンツンしながら、同時にものすごく素直にその時の気持ちを表現しているのです。上述のは一番分かりやすいパターンだったけど、それ以外でもツンツンした態度をとっている時でも、というかそういう時こそその前後や、時にはツンツンしている言動態度の最中に、素直な本音や想いを表に出してるんですよね。
もう、だからか、この娘、可愛くて仕方が無いんだ。

そして、メインヒロインであるところのスノウピー。今回のサブタイトル、「スノウピー、憤慨する」これ考えた人は素晴らしい。今回、スノウピーは憤慨するんですが……うん、憤慨するんですよ。この憤慨するスノウピーが、とんでもないことになってて。もうどうしようかと思いましたよ(笑
この娘も一巻から独特な不思議少女だったんだけど、いやーかわいいわ。ほんと、スノウピーかわいい。
このメインの三人を中心に、スガモさんやじゅりんくん、兄貴やフローン、ヒノリカといった面々で繰り広げられるどこか惚けた独特のテンポの会話、掛け合いが、あーーー楽しかったなあ。
これは、ちょっと癖になりそう。大変、面白かったです。
表紙に可香谷さんを加えた担当さん、グッドジョブ。うん、彼女は人気になって然るべきだよ。