羽月莉音の帝国 4 (ガガガ文庫)

【羽月莉音の帝国 4】 至道流星/二ノ膳 ガガガ文庫

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世界一の原子力企業ウェスタンユニオンを手に入れるため、その親会社EEにTOB(株式公開買付)を仕掛けることになった……というか莉音やアクアス立花社長にけしかけられた俺。だがEEは世界第14位の超大手総合家電メーカー。資金のアテもないのに本当に買収できるのか? そう思いながらTOBを発表すると、マスコミやネットでは革命部バッシングの嵐、嵐、嵐! しかしあまりに不自然。どうやら今回の革命部批判、ウラで誰かが糸を引いているようだ……。虚を突く買収戦略へと疾走する経営ラノベ第4弾!


硬直化した日本の構造的問題を、ひっくり返すのが不可能だとは思いません。活力ある社会を取り戻したい。そんな願いが、本シリーズ執筆の動機の三%くらいを占めていたりします。
これはあとがきに記された一節であるのですが、三%ってまた微妙な数値ですよね。消費税より少ないよ?
希望よりもむしろ絶望や諦観をうかがわせる数値。理論的には可能だとしても、不可能ではないのだとしても、実際的には難しいとされるものは幾らだってあるわけです。その願いは、信じたいという思い、否定したくないという願望に近いものなんだろうなあ、と本編を読んでいるとなんとなくそんな気がしてくる。
行き詰まりを打破するために生み出された存在の前に立ちふさがるのは、その手綱を握るのはローザだったり海胴だったりという個人の意思ではあるんだけれど、最終的に実際的に本当に彼らの野望を妨げようとするのは、日本の社会の在り方、みたいな描き方がされているとね。そういう風にみえてくる。
面白いのはこの人、大衆や民意という集団意識に対して欠片も期待していないんですよね。みんなが幸せになる、という結末をみんなが一緒に考えて良いと思った方法でもって達成する、ということを全くと言っていいほど信じていない気がする。衆は愚である、と考えているとまでいうとそこまでは言い過ぎか。ただ、絶対的な正しさがあるなどと信じていないし冷めた目で見ていると言っていい。そういうものだと割り切っている、或いは諦めている。これは、別段自分を特別視しているというわけではないですよ、念のため。作中で、巳継が自分と関係ない事だったら同じように踊らされていただろう、みたいな事を言っているように、たとえちゃんと自分ではわかっているつもりでも、大衆の一部という立場に立たされたときそこから逸脱した目線で物事を見るというのは至難の業と言ってもいい。こういう事を書いている自分だって、衆と個を分け隔てて社会の物事を見ることなんてとてもじゃないけど無理だ。
それができてしまうのは、その物事に対して恐ろしいほど確固とした信念を持った人でなければ、容易に世間の空気の撹拌に巻き込まれてしまう。
だからと言って、そんな衆に乱されない揺るぎのない信念を持つ人間が、だったら素晴らしい人間なのかというと、ここで他人には及びもつかない、理解もできないような、凝り固まった信念の、ここは妄執と言ってもいいかもしれない、それくらいの頑なな信念の持ち主として海胴総一朗という巨魁を登場させることで、白黒はっきりさせることを濁していると考えられる。
どう思うかは、自分で考えろってことですね。
逆にいうと、作者にもはっきりさせられる答えを手に入れられてないのかもしれないなあ。衆を愚として糾弾して悦に入っていられるようなら、色々と楽だったんでしょうけどね。まあ、その場合この作品が面白くなっていたかどうかは怪しいものだけど。
でも、ちゃんと受け入れなきゃいけない部分と向き合っている限り、真っ正直に正対してい続ける限り、どこかで現実と正しさの壁に突き当たっちゃうんですよね。核開発はともかくとして、革命部がどうもダーティーな方ダーディーな方へと流れていっているのは、結局は真っ当なやり方ではどこかで行き詰まるか、ルール無視で願望がリスクなしで実現する荒唐無稽で綺麗事の夢物語になってしまう、からなんじゃないだろうか。
この作品、荒唐無稽じゃないの? と思うところがあるかもしれないですけど、むしろ荒唐無稽にしないようにしようとした結果、こんなんなってると私は思ってるんですけどね。

さて、個人の方に眼を向けると、ついにバカが究極的なバカをやらかしてしまって、アチャー、なんですが……さて、あれは、恒太は本当にただのバカなのか。
いえ、実は深い考えがあって、とは言いませんよ。ただ、本当に何もわかってない厨二病の愚者なのか、というとそうは思えないんですよね。以前、莉音が危険に巻き込まないために恒太と沙織、柚を遠ざけようとしたとき、恒太が必死に莉音の企みから外さないでくれと懇願した時の姿を思い出すとね、あの時の姿こそが彼の本当の姿なのではないかと思うのです。
莉音は、そして最近に至っては巳継もまた堂々と世間と渡り合い、痛烈な世論のバッシングにも屈さず毅然と立ち向かい、余人の及ばぬ輝きを放っています。翻って恒太はというと、小さなショッピングサイトこそ任され、時々役に立つ言動や発想で助けとなり、事務面での働きなど評価はされていますが、表舞台に立って活躍している二人に比べると、どうしても地味ですし、恒太本人は自分の在り方に忸怩たるものを抱えていたのではないでしょうか。そんな劣等感を覆い隠す幕として、自分を守るための鎧として、あの現実をまるで見ていないような言動を繰り返している。ところが、それのおかげで余計に恒太の評価が危ういものになってしまうという悪循環。莉音と巳継は恒太の才能を認めてはいますけど、彼の言動もあって全幅の信頼を置いているとは口が裂けても言えないような姿勢でいるんですよね。銀行の件に関しても、恒太の発案にも関わらず、恒太については責任が及ばないところから徐々に勉強させよう、という方針で居る。
これは恒太のありさまを見てると、そりゃ当然だと思いますし、とてもじゃないけど責任ある立場になんかできない、と思うのは仕方ないと思います。経営者として当然の判断です。親友であり幼馴染という立場としても、大切な人の事を思っての事としてはまったく当然のこと。
むしろ、ちょっとずつでも仕事を任せようとしている姿勢は、健気なほど恒太の事を考えてるな、とすら思います。
信頼することと信用することは全く別である、とはよく言う文句でありますけど、莉音たちの恒太に対する考え方はまさにこれだったんじゃないでしょうか。
そして、恒太にとってはそれが我慢ならなかった。それが、この巻の最後の暴挙に繋がったんじゃないでしょうか。
彼は、表面上の言動から想像出来るような馬鹿愚かではないかもしれませんが、結局のところ馬鹿愚かです。こいつは、自分のプライドを守るために、一番裏切っちゃいけない人たちの、信用どころか信頼まですら裏切ってしまったのですから。
こいつはこのままな限り、やっぱり好きにはなれないなあ。

あとがき読んで気になったんですけど、海胴の経歴のモデルになった人。有名人じゃないんですか? 松下幸之助レベルとは言わないですけど、普通に知名度あるものだと思ってたんで、ピンと来る人はまずいない、とか書いているので面食らったんですよね。
……あれ? マジで今の若い人は知らないのか?
なんか、唐突にライトノベルの読者層のメインの年代と自分がもう結構歳の差あるんだ、という事実を突きつけられたみたいで微妙にショックだったんですけど(苦笑

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