真月譚月姫 9 (電撃コミックス)

【真月譚月姫 9】 佐々木少年 電撃コミックス

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「月は翳り、夜は終わる。――――さよなら、愛しき化身よ」

ロアとの最終決戦。ああ、懐かしい。原作ゲームをプレイした時の、あの熱くも静かな、狂おしくも切なくてたまらなかった興奮が蘇ってくる。
幻想伝奇数あれど、そうだこれほどに滅び行く、消え去りゆく者たちの儚い美しさを、自分たちの終局を受け入れた上で、最期まで愛する人と共に在ろうと、生きようとする姿を描ききった作品を私は他に知らない。TYPEMOONはこれ以降も素晴らしい作品を送り出しているし、それらの作品を私も大好きなのですけれど、何故かやはり【月姫】は自分の中では特別だったんですよね。
原作をプレイしたのも随分と昔で、この特別感の理由はなぜなんだろうと分からないままだったんですが、改めてこの【月姫】という作品を漫画という媒体で再構築した傑作を読むことで、自分は【月姫】の何に魅入られたのか、今なお魅入られ続けているのかを思い出させて貰いました。
アルクェイド、アルクェイド。自分の終わりのすべてを、志貴のために費やそうとする太陽が似合う吸血鬼。ロアなど既に眼中になく、ただただ愛に満ち、愛に満たされて、幸せそうに死んでいく彼女の笑顔のなんと美しいことか。
そして志貴。死にゆく身体にのたうち回りながら、それでもひたすらにアルクェイドを想い、アルクェイドの元へと駆けつけようとする男。
純粋に、本当に純粋に、彼らはただただお互いを想い、求め、愛するだけの究極のラブストーリーが此処にある。【空の境界】でもそうだったんだけれど、私にとって奈須さんという人の描く物語は、伝奇作品という以上に恋愛モノとしての部分に心震わされるところがあるんですよね。アルクェイドシナリオは、まさにその一つの究極。
それを、佐々木少年という漫画家は最初から最後まで見事に昇華してみせてくれたわけだ。素晴らしかった。すごかった。あのクライマックスを目の当たりにした時の情動を、再び此処に改めて感じさせてもらえることになるとは。
泣きそうになるほどすごかった。

一つ、驚嘆させられたのがアルクェイドの切り札である「空想具現化」である。これ、原作をプレイしたときはいまいちどういうものか具体的なイメージが湧かなかったんですよね。
というよりも、空想具現化と呼ばれる現象についてなされた解説と、ロアの身に起こった現象にだいぶギャップというか、格差があったように見えたんですよね。とんでもない能力の割に、ロアが食らった攻撃はわりと平凡だったみたいな。
だけれど、この漫画において描かれた演出は、その齟齬を見事に埋めてくれた、空想具現化というのがどれほどとんでも無い代物なのかを如実に実感できる、ビジュアルイメージとしては究極に近い素晴らしい演出だった。確かに、ここで描かれているようなものが空想具現化という能力だとすれば、そりゃあ誰も太刀打ちできないわ。ちょっと他の魔術や特殊能力と桁が違う。
なるほど、これこそが「空想具現化」だったのかーー。

再認識というと、シエル先輩のパーフェクトな脇役っぷりがやはり際立っていたなあ。この人、勿論メインヒロインとしてのシナリオも十分光ってたんだけれど、他のヒロインルートで脇役に回った時の輝きは比類がないんですよね。女性としてもサポート役としても憎まれ役としても、可愛いし美人だしカッコいいし惚れそうだしと、まるで隙がない。
……未だにこの人がのちのち隙だらけのキャラクターになってしまうのか不思議なくらいw
原作やった時からそういう評判出てたわけですけど、この人はほんとに「先輩」ポディションが似合う人だわ。

完全に本巻が最終巻だと思い込んで読んでいたので(帯にちゃんと最終巻じゃなくなっちゃいましたー、と書いてあったのにまるで目に入ってなかった)、終わらなかったときにはひっくり返りました(笑
いやあ、ページが無くなりそうになってるのに話がぜんぜん終わらない流れにはかなり焦りましたけどね。なんか打ち切りみたいな終わり方になっちゃうんじゃないのかこれ!? と。
おかげでひっくり返りながらも心底安堵の溜息をつくことになったのですが。
なんにせよ、もう一冊、この傑作と付き合えるというのは嬉しい限りです……終わったら終わったで、一旦戻って遠野家ルートいきませんかね?

シリーズ感想