【夢の上 1.翠輝晶・蒼輝晶】 多崎礼/天野英 C・NOVELSファンタジア

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夜の王に「夜明け」を願い出た夢売りが取り出したのは、六色の宝玉。封じられし夢の結晶。夢は語り始める――結晶化した女の『夢のような人生』を。夢を見ない男の『沈黙の誓い』を......


ため息が出てしまう。やっぱりこの人、すごいなあ。もう、ハイファンタジーという領域での第一人者と言っていいくらいなんじゃないだろうかと思ってしまう。
此処で描かれるのは、二編の物語。幾多の苦難に見まわれながらも、苦しみも辛さも理不尽も笑って踏み越え、愛する人と手をとりあって走り抜けた短い人生を、素晴らしい人生だった、幸せな一生だった、全力で生き切った悔いのない人生だったと言祝ぐ女性の物語。
そして、愛する女性への想いを胸に留め、彼女が彼女らしく生きることをその影で支え続けることを誓った、沈黙する男の物語。
どちらも切なく、決して大団円のハッピーエンドとは言えない結末が待っているのですけれど、それでも渦中にいる人達は、哀しみや苦しみに心を掻き毟られ、切なさに惑い、叶わない想いに苛まれながらも、全力で愛する人のために、想い人がその人らしく生きられるように、全霊を尽くすことで自らの人生に満ち足りた想いを抱いていくのです。
彼らの生きざまは、視点が変われば不幸と呼ばれるものかもしれません。でも、彼らはその道を自ら選び、その選択に胸を張り、満足を得て居るのです。
愛するということは、決して一般的な視点から見ての幸せが得られるものではないのかもしれません。それでも、当人たちはそれを幸福と呼ぶのでしょうか。
わかりません。
でも、代わりに泣いてくれる人がいるなら、きっと救われるのかな。

それぞれの短編は独立して、主人公も異なっているのですが、同じ世界観の同じ時系列上にあり、登場人物もまた重なっていきます。
【煌夜祭】で、【“本の姫”は謳う】の各作品で見せてくれた、クライマックスでそれまで紡がれていた幾多の物語が、パノラマが広がるような何倍にも広がり、すべてがダイナミックに結びついていくあのカタルシスは、必ずやこのシリーズでも見られることでしょう。
既に「夜の王」と「夢売り」の会話は、二人が夢利きによって語られる物語に深く関連した人物であることをうかがわせ、この世界の秘密と彼らの置かれた状況が、すべてを紐解く鍵となっていることを予想させています。【煌夜祭】と似たこの幕間劇は、いかなる大ドンデン返しの素を担っているのか。
全三巻だそうですが、こう明らかに名作決定、な作品は待ち遠しいを通り越して逆に待つことに余裕が出てくる不思議。でも、多崎礼さんっていつも全部書き切ってから本にしているっぽいので、あんまり待たされる事はないんですよね。その分の安心感もあるのかもしれない。