ニーナとうさぎと魔法の戦車 (スーパーダッシュ文庫)

【ニーナとうさぎと魔法の戦車】 兎月竜之介/BUNBUN スーパーダッシュ文庫

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第9回SD小説新人賞大賞受賞作!
少女は戦う。戦車とともに。
吹 っ 飛 べ 戦 争 !

戦災によって放浪の身となった少女・ニーナ。
ある日、彼女は結婚式会場から食事をくすねようとしているところを見つかってしまう。
警察に突き出されることを覚悟したニーナだったが、魔動戦車とともに現れた少女たちによって赦される。
彼女たちこそ、戦争が生んだ災厄・野良戦車から街を守る私立戦車隊…通称・首なしラビッツのメンバーだった。
そこに野良戦車の襲撃を知らせるサイレンが鳴る。
かつて戦車に乗っていたニーナ。そして砲手がいないラビッツ。
ラビッツの戦車長・ドロシーはメンバーたちに向かって言い放った。
「たった今、新しい砲手が見つかった!」
第9回SD小説新人賞大賞受賞作、堂々登場!!
昨今これほど真っ向から純然たる正義を訴えようとする作品は珍しい。近年の「正義」と呼ばれる概念に対するスタンスというのは、その拠り所のアヤフヤさや一方的な見方にえぐり込み、価値観の多様性や善悪の彼岸という視点から物語ることで、正義という概念への疑問や否定を訴えるものが圧倒的に多かったですからね。
しかし、正義とは果たして糾弾されるべき概念なのか。勿論、他を否定し排斥するような正義は疑問視されて然るべきでしょうし、狭量な価値観に支えられる正義ほど質の悪いものはありません。
ですが、正義感、という言葉が肯定的に使われるように、人という存在には普遍的に共有できる正義の概念があるはず。
この作品は、その普遍的な正義を高らかに訴えようとする作品と言っていいのではないでしょうか。
人を傷つけてはいけません。人を殺してはいけません。復讐はいけません。戦争はいけません。
当たり前のことです。これらは人が社会を構成するうえで当たり前に共有する事が求められるものです。いや、人が人らしく生きるために、と言ったほうがいいでしょうか。
ですが、それをこんな風に真剣に主題として扱おうとする作品は、やっぱり珍しいんですよね。
人間というのは捻くれたところがあって、正論というのは何故か素直に受け入れたくないものだったりするんですよね。このようなテーマにしても、ついつい綺麗事だのお為ごかしだのと、眇め見てしまうものがある。もし、この作品が当然であり正論であろう話を、上から目線で押し付けるようにこれ見よがしに語るような話だったら、やはり同じように綺麗事だと受け付けなかったかもしれません。
でも、この物語の中でこの普遍的な正義を訴えようとする少女たちは、想像を絶するような暴虐に踏みにじられ、人としての尊厳を奪われ続け、土に塗れ、血の海に這い蹲り、泥を啜って生きてきた人たちでありました。主人公たるニーナなど、わずか12歳の幼い子供です。それが7歳のころから戦車に乗せられ、無理やり戦わされ続けてきたという幼子の過去としては凄絶すぎるものを持っているのです。
物心付いたときから、戦うことを強いられ、道具として扱われてきた彼女にとって、世界は地獄であり憎悪すべきものでしかありませんでした。戦争とはその象徴であり、戦車に乗る大人たちはその地獄の体現者でありました。人の愛も優しさも知らずに育った彼女を救ったのは、ドロシーたち首なしラビッツ戦車隊の面々でしたが、本当の意味で彼女の心を救ったのは、彼女を人間に戻してくれたのは、ドロシーたちが教え与えてくれた、まさにこの普遍的な正義だったわけです。
戦争に参加する人間を憎むのではなく、戦争で使われる兵器を憎むのではなく、戦争そのものを憎み戦う。
ニーナだけでなく、彼女を受け入れてくれたドロシーたち首なしラビッツのメンバーたちも、それぞれ筆舌しがたい過去を、戦争によってうけた傷を未だに血を流しながら持ち得ています。彼女たちはその傷を癒すため、新たに自分たちと同じような傷をつけられる人を減らすために、かつての戦争の残り香であり負の遺産である野良戦車と、ひいては戦争という悪と戦い続けることで、正義を訴え続けているわけです。
さらに傷つき、血を流し、戦死者を出しながら……。

もっとポップな話だと読む前は思ってたんですけど、読んでみるとこれが相当にシビアな話で驚かされましたね。メンバーの過去だけでなく、現在進行形でかなり血みどろで痛ましい展開が繰り広げられますし。戦争は終わらず、未だ渦中にある、と。
ただ、シリアスな話ばかりでなく、メンバー同士の掛け合いなど非常に楽しげで和まされるシーンも多いのはポイント。まあ、そういう笑える温かいシーンがあるだけに、余計に容赦無い血みどろ展開がキツいことになってくるのですけど。
残念だったのは、というかこれは残念というべきなのかな、ある意味仕方ないのかもしれないけど、彼女らが戦うべき戦争という概念に対して、それを体現する純然たる悪者、快楽として戦争を肯定する者、分かりやすい悪役を出してしまったのは、勧善懲悪としては正しいけど、戦争そのものと戦うというテーマとしてはややも安易でどうだったんだろう、と思わないでもない。じゃあ、どういう展開に、盛り上がるクライマックスに、納得出来る決着にもって行けたんだ、というと難しいんですけどね。そもそもが答えが出せないテーマでもありますし。

戦争という概念へのスタンスとしては、ちょうど同じく9月に出た電撃文庫の【小さな魔女と空飛ぶ狐】と比べ読みしてみると面白いかもしれない。テーマが比較的に似通っているにも関わらず、アプローチと着地点が面白いくらい正反対なのがまた興味深い。