断章のグリム 13 (電撃文庫 こ 6-27)

【断章のグリム 13.しあわせな王子(下)】 甲田学人/三日月かける 電撃文庫

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「……可南子さんには、気をつけた方がいいわ」
彼女の過去を知り、二人が下す決断は──!?


 きっと、浅井は自殺したんだとおもう。
 私は呪い殺されるなんてやだ。
 ぜったい耐えられない。
 だから死ぬことにする。さよなら。
 病院で首を吊って死んでいた少女が残した手紙。そこには、自分たちがいじめていた浅井安奈からの復讐が匂わされていた。いまだ解明できていない謎の死を遂げた安奈と、生き返りの彼女を連れて
逃亡を続ける多代亮介。二人を追ってクラスメイトたちに接触を図る蒼衣と雪乃だが、徐々に“生き返り”の鍵を握る可南子への不信感も増していき──。

か、勘弁してくれぇ。今回のクライマックスの凄まじい惨たらしさは常軌を逸してる。怖いとかグロいとかいうレベルじゃない。これまで自分は阿鼻叫喚、地獄絵図なんて言葉を安易に使ってきたけれど、これが本当の地獄絵図だ。これこそが阿鼻叫喚の地獄絵図だ。イヤだイヤだイヤだイヤだ、こんなの絶対見たくない、ましてや巻き込まれたくなんて絶対ない。呪われるのがイヤだととっとと自殺して逃げてしまったあの女子高生が正しくすら思えてくる、その選択こそが正解だったのだと思いたくなる。あんな地獄に巻き込まれるくらいな、それこそ死んだ方がマシだ!!
パニックホラーだって、ここまで物凄い有り様を描いてしまったものはないんじゃないだろうか。以前、一度だけ雪乃が町ごと焼き払ったときはそこまでしなくても、と思ったものだけど、今回ばかりは丸ごと犠牲者もろとも焼き払っても仕方ない、いやそうしないといけないと思わされる代物だった。これ、ほんとに巻き込まれた人は悲惨だよなあ。だって、何にも今回の一件には関係無いんだよ。ただ、その場に居ただけで、なんでこんな惨たらしい最期を迎えなきゃいけないんだ? 死んだ方がマシ、殺されたほうがマシみたいなことになるんだ? 報いも何もあったもんじゃない。理不尽というのもおこがましい。
さすがにこれは、この惨劇を起こした輩に同情なんて湧きようがない。どんな理由があったとしても、どんな想いがあったとしても、絶対に認められない。狂ってる、狂ってやがる。<葬儀屋>の能力によって知性を破壊され発狂してしまったあの少女の方が、はっきりと発狂していると明言されている彼女の方が、まともに見えてしまうのって何なのだろう。狂ってるってどういう事なんだろう。

葬儀屋・瀧と可南子の過去といい、今回のラストといい、むごたらしく救いようのない顛末が多すぎて、いつにも況して精神的なダメージが大きかった。
瀧と可南子、二人の物語を見ていると、雪乃が瀧を騎士の中の騎士と目標に定めていたのは、きっと彼の本質を誤解していた結果で、同時に無意識に理解していた結果だったのかもしれないなあ、と思う。瀧は、決して雪乃が考えるような騎士の中の騎士なんかではなく、ただただ不器用に地獄のような現実に流され続けていただけで、それは考えようによっては泡禍を抱えた騎士という存在の中では、正気を保ったマトモな人間だったのでしょう。そこが、同じく数少ないまともな人間である雪乃のシンパシーを誘ったのかもしれない。
今回の一件で雪乃が瀧と可南子に激烈なまでの拒否反応を示したのは、瀧と可南子の関係に自分と風乃の関係を透かし見てしまったからだと作中でも言明してるんですが、きっと雪乃にとって諦め受け入れ流される瀧と彼に偏執的な愛を傾ける可南子、二人の関係は自分の決してなりたくない未来絵図だったんだろうなあ。

なんで、雪乃はこんなにもまともなんでしょうね。こんなイカレた世界の中で、ヒトをやめて純粋な泡禍を狩る騎士になりたいと願いながら、どうしようもなくまともなヒトであり続ける彼女が痛ましくすら思えてくる。
今回、雪乃のセリフの中に、さり気無く「委員長」の名前が出てきたときには泣きそうになりましたよ。ほんの一言、彼女の名前を出した理由や想いなどなにも語られず、通り過ぎるように呟かれた一言なのに、激烈なまでのショックでした。ああ、雪乃は、委員長のことを、<ヘンゼルとグレーテル>の潜有者だった媛沢遙火を殺したことを、騎士になって以降の彼女にとって唯一の友人だったかもしれない彼女を殺したことを、ずっとずっと忘れていなかったんだなあ、と。傷の一番深いところにずっと抱えているんだなあ、と。
彼女を殺した事を忘れずにいることこそが、彼女が自分のなりたいモノになれない証左だというのに。

そして、ついに一線を超えてしまった蒼衣。いつか起こると規定されていた彼の能力の暴走。すべての悪夢を消し去る悪夢。
何かが、決定的にして致命的な何かが入り混じっていく。現実と夢の境目を乗り越えてくる。繋がってしまう。
そろそろ、この物語もクライマックスだという。嫌だな、いやだ。ほんとうに、怖い。

甲田学人作品感想