平安鬼姫草子―神ながら神さびせすと (電撃文庫 く 7-1)

【平安鬼姫草子 神ながら神さびせすと】 黒狐尾花/さらちよみ 電撃文庫

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時は平安、所は京。鬼の血を継ぐ少女と、その兄である若き陰陽師の物語。

“姫殺し”と呼ばれる『怪異』が起こる京の都。希代の陰陽師・安倍晴明がその原因を探る中、若く未熟な陰陽師の少年・坂上鈴城は、左近衛府に所属する少年・源頼親を誘い、独自に『怪異』捜査を始める。二人が無謀な行動に出たその裏には、鈴城の従姉妹、鬼の血を受け継ぐ少女・結鹿の嫌疑を晴らしたいという想いがあった。果たして、『怪異』"姫殺し"には、妖と人間が織りなす『愛』が深く関わっていて……。切ない陰陽奇譚、登場。

【陰陽ノ京】の影響でか、自分の中で晴明のイメージって、胡散臭い中年のおっさんで固まっているので、美貌で年齢不詳の安倍晴明が出てくるとかなり面食らってしまうのがいささか困りものなのだ。なにしろ、世間一般で出回っている晴明のイメージは人から逸脱したような美貌の青年だからして。
でも、此処で出てくる晴明も、いささかそういう定番とは少し違っているんですよね。なるほど、そう来たか。年頃の少年少女が主人公の物語で、安倍晴明というキャラクターは人間離れしているほど扱い、というよりも物語の上での立ち位置が難しいので、これにはなるほどと手を打たされた。これなら、人間から逸脱してても嫌味なく皆を見守り積極的に手助けられますしね。

さて、この話読んでて思ったんですけど、少年系レーベルだと平安時代モノってそれこそ件の【陰陽ノ京】くらいなものなのですけど、少女系レーベルに眼を向けると意外とこの時代を舞台にした話って多いんですよね。わりと、あちらの空気と相性があうのでしょうか。
なんて事を思ったのは、この作品自体、少女系ライトノベル的な空気を色濃く感じさせるものだったんですよね。何しろ、妹系の儚げで可憐で優しいヒロインを、何人もの美形お兄ちゃんたちが寄ってたかって可愛がり、可愛がり、可愛がり、可愛がり過ぎで死んでしまうんじゃないかと心配になるくらい可愛がるという、凄まじいまでの妹萌え、兄馬鹿小説だったのでありますよ(笑
いやまあ、このヒロインの結鹿嬢がそれはもう、掌の上に載せるか懐の内側にしまって隠してしまいたくなるくらい健気で可愛らしい女の子であるので、猫可愛がりするお兄ちゃんたちの過保護ぶりも全く以て共感出来てしまうんですけどね。「俺の妹を可愛くないなどという輩を皆殺しにしないはずがない」とでも言いたくなるようなお兄ちゃんたちの妹狂いっぷりは微笑ましい限りである。
そのお兄ちゃんたちがまた早々たる面々なのだ。この時代屈指の武将・源頼光とその四天王に弟・頼親。坂上田村麻呂の末裔たる坂上鈴城と来た。しかも、そのほとんどは妖かし混じりの異能もち。はっきり言ってチート軍団である。一応、鈴城以外は全員歴史上実在した人物。鈴城も、父親はググると名前出てくるんで実際の血統なんですよね。
平安ものをそんなに読んでいるわけじゃないんですけれど、この時代の雰囲気は良く出ているように思います。この時代に生きている人の日々の生活習慣や家の間取りや佇まいなど、平安時代の風俗はかなりしっかりと描けてるんじゃないでしょうか。それが正しいのかはわかりませんけど(苦笑
でも、こういうのって雰囲気が大事だからなあ。神は細部に宿るとも言いますし。
そして平安伝奇モノに一番重要な、幽冥とした妖しの空気と、カミとヒトとの近しい交わり、そして暗く燃え上がる男女の情念。これらも隙なく物語の根幹をなすように紡がれているのはポイント高いですよ。実際、タイトルとあらすじを見て期待したものを、十全に近い質の高さで繰り出してくれたように思われます。良作。