ハロー、ジーニアス (電撃文庫 ゆ 3-1)

【ハロー、ジーニアス】 優木カズヒロ/ナイロン 電撃文庫

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期待の新人が贈る、さわやか天才×青春ストーリー!

「キミを我が第二科学部にスカウトしたい」
 陸上の特待生として入学したものの脚を故障した竹原高行に唐突な勧誘の声がかかる。勧誘主の海竜王寺八葉は常識外れの優れた頭脳をもつ“ジーニアス”だったが、無謀な色仕掛けをしたり、実験に没頭するあまり風呂にも入らない、行動も常識外れの女子だった。
 仮入部した第二科学部で彼女に振り回される高行。彼を勧誘した海竜王寺の真意は、そして二人の関係の行方は!?

あーーー、いいなあ。これはイイなあ。自分の生き方について、目を逸らさず真摯に向き合おうとする若者たちのまっすぐな風を感じる。向きあうというのは、考えるということ。感じるままに、というのも大切だけれど、感じたものがいったい何なのか、人はキチンと考えるべきなんですよね。人は考えることによって成り立つ生き物なんだから。
その意味において、此処に出てくる若者たちは、皆自分について良く考えている。思考停止や放棄に逃げていない。特に高行は他の全てを投げ捨てて自分の人生を賭けてきた陸上を怪我によって失い、大きな挫折を得ている最中。打ちひしがれ、絶望の中に佇みながら、それでも彼はずっと考えているんですよね。
これからどうしよう、という次のことに対してじゃないんです。
自分の人生に、これまでの生き方とこれからの生き方に、自分はどう責任を取るか。それを真剣に考えている。
それを人は青春というのかもしれないし、もしくは生き様という言い方をする場合もあるのかもしれない。何にせよ、彼は自分に対して無責任である事を許していないのです。その一点を以て、私はこの竹原高行という人物をカッコイイと思ったんだなあ。
一方のヒロインの八葉も、感性と感情で動いているように見えて、彼女もまた自分のジーニアスとしての出生と、自分の生きざまについて常に思慮していました。彼女は、彼女なりの答えを見つけて既に動き出しているので、彼女の中に自分の在り方について考える苦慮というものが見えにくく、歓喜を迸らせながら突っ走る行動力についつい目を奪われてしまうのですが、やがて彼女もまた高行と同じ種類の人間である事が分かってきます。いや、もしかしたら最初から高行は彼女も同類なのだとどこかで察していたのかもしれません。彼が、既に決断を下しながらも彼女の傍に最後に寄り添う事を選んだのは、はたして自分の選択に確信を得たかったのか、それとも同類の生き様に自分の欲する生き様を見つける可能性を感じていたのか。
いずれにしても、これまで孤高を通して自らの存念を通してきた彼らは他者との繋がりを実感することで、それぞれが陥っていた挫折や閉塞を打ち破るきっかけを手に入れる事になります。でも、その繋がりは馴れ合いや妥協の産物ではなく、お互いの生き様を理解し認め合うことで叶ったもの。誇りある融和であり、想いが昇華し結びついたものだと言えるのでしょう。

決して感情的にならず、どちらかというと淡々とした調べで綴られていく文章。しかし、その筆調は決して無機質というわけでもなく、むしろ穏やかながらも情緒豊かにすら感じられます。
今現在を形作る懐かしい思い出を語るようにしながら。静かに、でも楽しそうに。思い出ながら過去でなく未来を語るように。人の想いを丹念に、丁寧に、一つの物語へと編纂していく。
涼やかに薫る風を感じるような空気感が素晴らしい、若者たちの青春小説でした。
これは、当事者である十代よりも、自分みたいな想いを残した中年未満にこそ直撃かもしれないなあ。