さくら荘のペットな彼女〈2〉 (電撃文庫)


【さくら荘のペットな彼女 2】 鴨志田一/溝口ケージ 電撃文庫

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いい意味でも悪い意味でも、このさくら荘の住人たちは自己本位的なんだな。千尋先生は完全に悪い方ですけど!! この人の場合は自己本位じゃなくて、自己中だよ。先生としての責任も、寮監としての責任も、保護者としての責任も何も果たしちゃいやがらねえ(苦笑
ダメな大人の話は置いておいて、新たにさくら荘に加わることになった青山七海を含めて、この寮に住む若者たちは、概ね価値基準を自分において、基本的に自分の為に動いているんですよね。こういう風に言うと悪いことみたいに聴こえるかもしれないけど、そうじゃないんですよね。彼らは自己本位的かもしれないけれど、自己中じゃない。自分勝手だったり利己的だったりするわけでは決してないわけです。あくまで、自分を殺さずに自己主張できる確固とした自分を持ち、まず自分のことを念頭においた上で、仲間への友情、恋情を大切にしている。勿論、まず「自分」を先に出す以上、他人と交わるにしてもどうしても衝突やすれ違いは起こりやすく、コミュニケーション能力に欠けていたり、そもそもすり合わせをしようという意志や妥協という考えがない人たちが揃っているために、食い違いがそのままシコリのように残ってしまい、皆がもどかしい思いを抱えたままになってしまっているのが現状なのでしょう。
そうなると、やっぱり自己主張が強すぎるのは問題なんじゃないか、と考えてしまうんですけど、でもねえ……ぶっちゃけこの物語を読んでいると、はたして人間関係ってすべて丸ッと上手く行けばいいのかな、とも思うんですよね。上手く行かなくて、すれ違ってしまって、将来が重ならない道もあってもいいんじゃないかとね、そういう考えがちらついてしまうんですよ。
仁と美咲の関係については一巻から概ね大きな動きなく(仁の将来選択に決定的なものが生まれていますが、流れ的には一通なので)、むしろ興味深いのが七海というファクターが加わった事で空太の特性が浮き上がった空太、ましろ、七海という三角関係の方でしょうか。
空太という少年を端的に語ってしまうと、彼は鈍感というよりも自分の気持を直視する事を必死に避けている、という感じなんですよね。ましろへの好意ははっきりとしたものが既に生まれているにも関わらず、無意識にそれを考えるのを避けていて、ましろからのアプローチについても徹底的にスルーする事を心がけている。兎に角、恋愛というものが怖いんでしょう。七海の分かりやすい反応についても、それを目の当たりにしても自分可愛さゆえに考える事を放棄している。ちょっと考えれば、ましろの気持ちも七海の気持ちもすぐに分かるはずというくらいに、二人は明快なサインを出しているにも関わらず。
正直、その態度はましろと七海の気持ちを少なからず傷つけてると思うんですよね。ズルいし、誠実でないし、真摯さに欠けてる。そのくせ、半端に親身になって優しいときた。彼の優しさは、女の子を傷つけるタイプの優しさなんでしょう。空太は仁の事をいろいろ言ってるけど、女性に対するひどさではあまり大差がない気がするな、彼は。
まあ、これについてはましろや七海もズルさでは同類だと思うんですけどね。
でもね、個人的には空太のこのズルい態度は、ありだと思ってるんですよ。物語的には、彼のズルさはやがて自覚が生じ自己嫌悪と人間関係の歪みを生じさせるものなんでしょうけれど、空太のズルさは、普通の人としては自分の中ではアリだと思うんですよね。人間は普通は自分に対しても他人に対しても、そこまで誠実にはなれないし、なったからと言って幸せになれるとは、皆を幸せにできるとは限らない。
自分の好きという気持ちに嘘をつき、別の選択肢に逃げ込むのだって、その人が自分が逃げた事に気づかずに居られるのなら、そのまま別の選択肢で幸せになれるんだったら、少なくとも納得して受け入れられたのだったら、それはそれで正解なんだろうな、と。
この話の場合、空太にとって七海というのはましろに比べて、楽な選択なんですよね。自分の劣等感を刺激せず、安息を得られる相手である。ここで示されているのは、ましろを選ぶことで空太の前に立ちふさがる険しい壁から、七海という存在は逃げ道として空太の無意識の中で位置づけられているのがうっすらと見て取れるのです。もし、この後彼がましろを避け、もしくは諦め、振りきり、七海の方にすがってしまった場合、物語的にはそれは敗北であり、間違った選択であり、自分に対しても相手に対しても中途半端で、シコリが残り、後悔が残り、何のかんのとそれは結局空太も七海も幸せにしない、なんて展開が用意されるのが常道なんでしょうけど……なんでかね、この作品ではそんなテンプレな説諭は聞きたくない感じなんですよね。
逃げてもいいじゃん。諦めてもいいじゃない。その時、後悔やシコリが残ったとして、それで二人の関係って上手く行かなくなるものなの? 始まり方が歪でも、二人が一緒に同じ道を進んでいたら、いつしか歪みは解消されて、当たり前の幸せは手に入れられる事だって普通にあるんじゃないの? 幸せって、自分にとって正しい選択をしないと掴めないものなの?
これは、仁のこだわりに対する気持ちにも通じるんですけどね。
妥協したっていいじゃない、諦めたっていいじゃない、逃げたっていいじゃない。その時は間違っていても、十年二十年してその選択を成功へと導くことは、それこそ負けたその後からの努力次第なんじゃないだろうか。
なんて考えてしまうのは、若かった頃から十年経ち、やがて二十年経とうとしている年齢に差し掛かっているからなんでしょうかね。若者は、その瞬間が人生がすべてだもんなあ。その時の結果が最後まで続くように感じている。取り返しが付かない様な気がしてる。
そんな事はないんだよ。
もっと、余裕を持って生きようぜ。先は長いんだからさ。

なんて、青春小説としては言っちゃあいけない事なんだろうけどね。そんなん言い出したら、青春小説じゃないもんなあ(笑
でも、一生懸命で切羽詰ってるこの子たちを見てるとね、ついついね、そんな事を考えてしまうんですよ。ダラダラと真剣にならずだらしなく生きてきた人には言われても、なんてため息突かれそうですけど(苦笑
うんうん、そうだよなあ。自分に対してこれだけ真剣に一心不乱に頑張ってる人に、こういうのは悪魔の堕落の囁きみたいなもんか。


今回からさくら荘に加わった七海さん。ある程度の生真面目で頑張り屋すぎる性格は前巻から垣間見えていましたけど、余裕がなくなると地元の関西弁が出てしまう、というのは結構ツボきたですよ〜〜。作者の人、神奈川県出身ってプロフには書いてるけど、七海の柔らかい関西弁は地元の人かと思うくらい上手かったですよ。関西弁キャラってどうしても喋りがコテコテになりがちなんですが、七海のははんなりとしてて余裕がないシーンでの喋りが多いにも関わらず、ちゃんと女の子の関西弁なんですよね。可愛い関西弁。いやあ、これはツボったですわ〜。


1巻感想