神さまのいない日曜日III (富士見ファンタジア文庫)

【神さまのいない日曜日 3】 入江君人/茨乃 富士見ファンタジア文庫

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百万都市オルタスを脱出し、荒野に戻ったアイ。青い車であてどない旅を続けるアイに、ユリーから思いがけない言葉がかけられる。
「学校に、行かないか」
学校――それは、かつて人食い玩具(ハンプニーハンバート)が通っていたという場所。期待と不安の中、ゴーラ学園という生者の学校に転入したアイだが、待っていたのは不思議な力を持つ級友たちと、鉄線に囲まれた奇妙な場所だった。そしてアイはそこで、アリスという少年と出会う。
 アリス・カラー――アイと“同じ夢”を見る少年と。
 十五年前の<あの夜>以来、人は生まれず死者は死なない。これは、神様が捨てた世界で紡がれる、世界を救う夢を見る少女の物語。

始まりの第一巻が、アイが世界を救う夢を手に入れる話だったとしたら、二巻はアイが世界に救う事を拒絶され挫折を知り、返す刀で<世界を救う>の「救う」とはそもそも如何なる事なのか、何をどうすることで「救った」と言えるのか、と問い詰められる話であったように思う。ならばこの三巻はどういう話だったのか。
物語はさらにアイに問いかけてくる。お前は<世界を救う>のだという。ならば、お前が救おうとしている<世界>とは、そもそも「何」なのだ? と。
アイにとって、これはで世界とはその単語を発するだけですべてが表現しきれる、伝わるもの、通じるものだと思っていた。それが、全くの凝り固まった観念に過ぎないのだと、彼女は生者たちが集う<学校>で、様々な人たちと出会うことで、皆がそれぞれに自分の中に自分だけの<世界>を有している事を初めて知ることになる。そして、アイと同じく<世界を救う>という夢を見ながら、アイが漠然と思い描いていた<世界を救う>姿とは全く違う形、方法、考え方で<世界を救う>と夢見る者たちと出会ってしまうのだ。
そう、アイの夢見る<世界を救う>事とは、万人が共有する夢では必ずしもなかったのだ。彼女がオルタスで大失敗をやらかしてしまったのは、「救う」という行為への不明のみならず、アイにとっての「救う」べき「世界」が、アイ独りの主観に基づくものに過ぎずオルタスの人々が抱く「世界」と異なっていた事が原因だったのだろう、と今になって理解できる。
彼女は、失敗するべくして失敗したのだ。
ここでアリス・カラーが無知なるアイに教授する、「世界」についての固有性と概念の説明は非常に分かりやすく、私もかなり目が覚める思いで彼の論述に頷かされてしまった。
彼は非常に論理的かつ簡潔で明快な形で<世界>という概念を解体し、アイに分かりやすく提示した上で、彼女に<世界を救う>方法論を指し示す。そう、前回アイが大失敗をやらかした原因をアイに思い知らされた上で、<世界>とは何なのか、<救う>とは何なのかをアイに見事に示すのだ。
これまであまりに漠然として掴み所がなかった<世界を救う>という夢に、アイは具体的な思考の取っ掛かりを得ることになる。
そして、彼女はついに、彼女なりの<世界を救う>方法を見つけることになるのだ。
最初から用意されている答えに辿り着くことは、簡単とは言わないけれど難しいとも云いきれない。答えがある、ということはそこに至るための道が必ずあるからだ。
しかし、彼女は答えを見つけるのではなく、自分の答えを創りだした。夢を見つけ、叶える決意を覚悟し、しかしやり方が分からず失敗し、悩みながら手探りで答えを求め、人の話を聞き、考え、考え、考えに考えて、その上で……彼女はついに形作ったのだ。
夢の叶える方法を。
それは、とても尊い事だと思う。とても、素敵なことだと思う。
学ぶとは、教えられるばかりではなくて、教えられたことをきっちりと自分の中で消化して自分なりの答えを得る事なんでしょうね。その意味では、今回は間違いなく「学校」の話だったように思います。
そして「学校」に通うということは、友達が出来る、ということでもあるんですよね。一方的に問いかけられるのではなく、お互いに問い掛けあえる関係。アイが自分の夢に悩むのと同じように、この学校で出会った級友・ターニャもまたアイに問い掛けられることで自分の<世界>について考えるようになる。そして、アイとターニャの考に導かれるように、他のQクラスのクラスメイトたちも、自分の<世界>について考えるようになるのだ。
これこそ、皆と一緒に学ぶ、という学校の在り方の原風景なのかもしれないなあ。

さて、やりたい夢のやり方を手に入れたアイ様はもう無敵です状態のはずなんだけれど、自体はまたぞろワケの分からない方向へ。ユリーの言い草は一方的なのでいまいち信用できないけれど、アレほど固執していたセリカを放り出して、となるとよっぽどの事態が起こったのか、それとも本当にユリーの言うとおりに精神的に参ってしまったのか。どちらにしても、登場した時の無機質な墓守からは想像できない姿だ。

そして、二巻でさよならしたはずの友達。死人の女王ウッラだけれど……ちょっとこの娘、アイの悪いところが感染しちゃったんじゃないのか? と心配するくらい大ハシャギしてるんだがw 二巻の終わり方からして、この娘の行末は大丈夫と言われていても少し心配だったのだけれど、この様子だとホントに大丈夫そうだなあ。というか、彼女は彼女なりに自分の<世界を救う>方法を見つけたのだろう。やり方さえ決めたのなら、あとは一直線だ。

シリーズ感想