さくら荘のペットな彼女〈3〉 (電撃文庫)

【さくら荘のペットな彼女 3】 鴨志田一/溝口ケージ 電撃文庫

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 2学期初日。学園の変人たちの集まり『さくら荘』に、思いもかけない人物がやってくる。その人物(金髪美少女・凹凸のある体型)は、イギリス時代のましろのルームメイト・リタで、ましろをイギリスに連れ戻すのが目的だという。どうやら漫画家デビューのことが、両親にばれてしまったらしい。
 もちろんましろは帰らないと突っぱねるけど、リタは目的を達成するまで帰るつもりはないようだ。しかもその夜、なぜかリタを俺の部屋に泊めることになってしまって……って、みんなそんな目で俺を見ないで!!
 さらにその騒動の最中、お騒がせ宇宙人・美咲先輩が、文化祭に向けて寮のメンバーで作品作りをしたいと言い出した。魅力的な提案に乗り気になる俺たちだったけど……?
 変態と天才と凡人が織りなす青春学園ラブコメディ、シリーズ第3弾登場!!
【小市民シリーズ】の小鳩くんは、是非この空太を見習うといいよ。これが正真正銘生粋の小市民だからw
うーん、小市民という言葉も意味合いが取りにくいので、自分が空太にいだいている人物像と小市民という括りは合っていない気もしてきた。
さて、空太である。こいつ、面白いなあ。正直、最初に仁たちの忠告から目をそらして、イギリスにましろを連れ帰ろうとするリタに対して、ましろを行かせないのかリタの味方をするのか決断できず曖昧な侭、リタを引き止めてさくら荘に留めおいてしまった空太には、呆れたしややも嫌悪感をいだいてしまったんですよね。何様だ、と。
そりゃ、人類史においてましろの絵画の才能というのは不世出のものかもしれない。彼女が絵を描かなくなるというのは世界にとっての損失かもしれない。でも、描くか描かないかというのはましろ当人が決める事であって、空太はなんにも関係ないんですよ。一切関係ない。皆無。空太に、ましろの人生を左右する事柄に口をはさむ権利は何もないわけです。
いや、リタのようにキチンとましろに対する自分の意見を持っているなら、それはそれでいいんです。ましろに、こうして欲しいと自分の願望を押し付けるのは、傲慢、独善、事の成否や迷惑云々は置いておいて、その人の傍らに立つ人間の行動として、アリだと思うのです。
しかし、空太はましろに自分がどうして欲しいかを決めかねたままの宙ぶらりんの状態にも関わらず、彼女に言うべき言葉を持たないまま、それでもぬけぬけとましろの人生に強引に割り込んで関わろうとして来やがったわけです。リタを引き止めた、というのは結局、ましろにイギリスに戻れ、という選択肢を自分の中で排除したくなかった、ということですしね。
だから、最初こいつは何様だー、と眉を潜めていたんですけれど……読んでるうちに、いやむしろ何様でいいんじゃないか、と思うようになってきたんですよね。
空太が、自分の意見もないくせに、ましろのイギリス行きの問題に右往左往したままでそれでも埒外に居る事が我慢ならずに割り込んできた、というのはつまり……空太にとってましろの人生の行方が自分が関わる事なく決まってしまうことに我慢できなかった、ということに繋がるわけで。
これって、空太のましろへの幼いけれど必死な独占欲、所有欲がにじみ出てると思えたんですよ。

みっともないけれど、可愛いじゃないですか。

ほんとにねえ、この少年はみっともないし情けないし視野は狭いし近いし無知だし、考えは浅はかで、愚かで貧相だし、わりと卑しいしみっともないしみっともないし。
でも、稀有な事に、彼はその矮小さこそが愛しく感じるキャラクターで、その小ささを踏み台にして優しい人間であろうと、誠実な人間であろうと、自分に正直であろうと頑張れてる子なのです。だから、その健気な在り方には微笑みが浮かんできてしまう。ついつい愛おしくなってしまう。
人は誰しも醜いものを内側に抱えている存在だけれど、その醜さが必ずしも嫌悪感を催し眉をひそめてしまうものとは限らない。その醜さが必ずしも人を悪しき方へと導くものとは限らないのです。醜いものを抱えているからこそ、人は前へと進み、善き事を心がける事が出来る場合もあるのだと、彼を見てるとそう思えてくるのでした。

でも、あの千尋先生はダメだ。この女だけは全く以て許せない。子供に関心が無いのは、それはそれで仕方がない。無責任な大人というのは居るものだ。
でも、せめて足をひっぱるな、邪魔をするな、興味も関わるつもりも責任を負うつもりもないのに、余計な真似をするんじゃない。一キャラクターにここまで頭に来たのは久々だわ。

と、ましろイギリス行き問題、という大きなイベントが片付いてしまったので、なんか色々と終わった気になってたけど、よく考えると文化祭における「さくら荘」の面々の合同作品はまだこれからなんですよね。リタが引っ掻き回してくれた人間関係はもとより、地雷のように埋まっている仁と美咲の問題も否応なく踏まれそうな気配だし、何よりプレゼン蹴っ飛ばして出てきちゃたもんなあ、空太。恋をどうやら意識してしまったましろもまた、これまで通りじゃいられないだろうし。純粋無垢だった天才性の中に産まれた恋というバグは、一体どんな作用を及ぼしてしまうのか。
そろそろ佳境に差し掛かってきたかしら。

シリーズ感想