博物戦艦アンヴェイル (朝日ノベルズ)

【博物戦艦アンヴェイル】 小川一水/藤城陽 朝日ノベルズ

Amazon
 bk1

 強大な島国ラングラフの国王は、この世界に残るさまざまな怪異を探るために、海軍の大型帆船を就航させた。一方で、少女騎士ティセルはある使命を受けた。若き探検隊員の護衛である。この少年は、特異な語学力と天真爛漫な性格から、この探検隊には不可欠の人物なのだ。一見頼りない青年船長、反乱の隙をうかがう、荒くれの水兵たちとともに、いよいよ出航の日が来た。

最近読んだ帆船モノに外れがないなあ。まあ仮にも小川一水という人にこの手の話書かせてハズレがあるわけがないんだよ。
タイトルの「博物戦艦」ですけど、単に外海にあるという伝説の宝物を求めて冒険の航海にでる帆船の冒険譚であって、別に内部に巨大な博物館的な機能や組織を内包した機動戦艦が主役というわけではないので、悪しからず。いや、最初そう勘違いしてしまったんですよね、私。
とはいえ、海洋冒険小説と言ってもただの帆船モノじゃあないのは、一筋縄ではいかない小川さんらしい。異貌の外海人たちや、冒険の先々でめぐり合う人智を超えた現象や怪物たちの数々はシンドバッドの冒険を想起させるような幻想的なワクワク感をかもし出しているのだ。帆船モノとしての王道イベントである、敵帆船との一騎打ちに大嵐との遭遇、物資の欠乏に伴う未知の海を前に進むか、元来た港に戻るかに端を発した叛乱騒ぎ。これらの過酷で容赦のない現実的な潮っ気タップリの帆船小説としての風貌と、幻想冒険小説らしいフワフワとした高揚感。この異なる二つの空気が心地良く撹拌されていくのである。尤も、それらは本当ならば混ざり合う事は困難なものであるからして、一時的に上手くブレンドされていたとしても話の進みようによってはどちらかがかき消されてしまうか、分離してしまうもののはずなんだけれど、きちんと二つが折り合う着地点が、この物語には用意されているのだ。
なるほど、言われてみると最初からこの物語の世界観って理解の範疇にあるんだけれど、此処にあるのは不思議で仕方ない、というモノや概念、伝承がところどころに散りばめられていたんですよね。
読み終わったあと、もう一度筆者の名前を確認して、なるほどなるほど、と頷いてしまった。

さて、登場人物であるが、この主人公のティセルがまたいいんですよ。少女騎士というともっと肩肘張って頑なで女らしさをかなぐり捨てて頑張ってそうなイメージがどうしても強いのですけれど、このティセルは確かに頑張り屋さんなんだけれど、等身大の女の子、という側面を失ってないし自分でも自分が女の子だというのを素直に受け入れている。騎士であるために、女として云々というややこしい事は考えていない、というべきか。自分に対してややこしい疑問はいだいていないですよね。自分の弱さや至らなさについて悩む事はあっても、自分の価値や在り方については余計な不信は抱いていない。こういう自分がまずあって、それでどう頑張ればいいかな、というふうに考えている。
それが、不思議と心地良いのです。自問自答でキャラの内面に焦点を当てていく話はそれはそれで素晴らしいんですけれど、これは人の内側に潜る話ではなくて、広い海へこびだし、未知に飛び込んでいく海洋冒険小説なわけで、外の驚異にこそ関心を払い、感情を沸き立たせ、周りの人達と一緒に乗り越えていく話なんですからね。まず、主人公が自分の殻に閉じこもっていたら話が広がっていかないじゃないですか。
その点、天真爛漫なジャムに引っ張りまわされながらも、ティセルも日々の冒険に戸惑い笑い、落ち込み怒り、と一喜一憂するのに忙しく、自分と周りに居る人との関係を自問する事はあっても、自分の殻に引っ込むことはないので、気持よく見ていられましたね。
ほんと、ティセルって結構素直で性格、可愛いしw
苦境になって弱気になってしまったらちゃんとジャムに泣きつくし、いざジャムが他の女の子に取られそうになったら、自分の気持をきっちり整理して、最後にゃ尻込みせずに果敢に真っ向から挑んでいくし。割キリよくてさっぱりしているところは、ちゃんと騎士っぽいんですよね。女の子であることと騎士であることを上手く両立させている、だから可愛いしカッコイイ。そりゃあ魅力たっぷりだ。
ジャムはてめえ、女の子相手にベタベタしすぎ! もっとやれ!

最初は頼りない、悪い意味でのお坊ちゃん艦長だった若き貴族、アルセーノの見違えるような成長や、敵船のワイルドな艦長のカッコ良さだとか、その愛人娘と副長の妙に中の良さそうな罵り合いだとか、他の登場人物にも見所が多い。
既に続刊【博物戦艦アンヴェイル2 ケーマの白骨宮殿】が11月に出るようなので、そちらも今から楽しみにしておこう。

小川一水作品感想