猫物語 (白) (講談社BOX)

【猫物語(白)】 西尾維新/VOFAN 講談社BOX

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“何でもは知らないけれど、阿良々木くんのことは知っていた。”
君がため、産み落とされたバケモノだ。
完全無欠の委員長、羽川翼は2学期の初日、1頭の虎に睨まれた――。それは空しい独白で、届く宛のない告白……<物語>シリーズは今、予測不能の新章に突入する!
これぞ現代の怪異! 怪異! 怪異!


……いや、これは凄いわ。
いい意味でも悪い意味でも、このシリーズって悪ふざけ、が利いてたんですよね。趣味で書いてます、というのが良く分かる、とても楽しんではしゃぎ回って描かれている物語だったのです。
それが、この【猫物語(白)】では様相を全く異にしている。
真剣勝負だ。
会心、じゃないのか、これは。筆者はこれまでも、人が成長し変わっていく物語を幾つも綴ってきたけれど、ここまで散逸させず集約して一人の人間を対象とし、その人となりを解体し暴きさらけ出した上で、その本質を損ねないまま変えないまま変わらせないまま、根本から一皮剥けさせ閉塞を打ち破り一変させ素敵な成体となる瞬間までを最初から最後まで余すことなく一から十まで、そう筆者風に言うなら「十全に」、寄り道せずに完璧に描ききったのは初めてなんじゃないだろうか。
会心、に見えた。会心、としか思えなかった。
穴という穴を埋め尽くし、隙間という隙間を塞ぎきり、欠落という欠落を塗り潰す。真っ白で何も無い虚ろに、取り外したものを詰め込むこととなる、これは<本物>と呼ばれた羽川翼が本当の<本物>になる物語だ。

まずはまさかのヒロイン視点。この【猫物語(白)】は完全無欠に一から十まで、羽川翼の視点によって描かれる。
だからこれは、羽川翼の物語であって、阿良々木暦のそれではない。
だからこれは、本当の意味で、自分で自分を助けるための物語である。
多くの手助けを彼女は与えられるけれど、それを力に変えて羽川翼を助けるのは、彼女本人なのだ。何でも知っている羽川翼は、知っていることなら何でも知っている羽川翼は、だけれど、それとも「だからか」、自分のことは何も知らない、知らなかった。なんにも知らない「羽川翼」でしかなく、だからこそこれは彼女が彼女自身の事を知るためのお話だ。自分のことを知らなければ、自分がどうしたいのか、どうなりたいのかも分からない。自分がどういう有り様なのかを知らなければ、自分を哀れむことすら出来ないのだから。
まず彼女は言葉面だけじゃなく、自分が知ってることしか知らない、という事を認めなければならなくなる。それを認めなければ、他人の話は聞けないものね。人は、自分の知っている事ならついつい聞き流してしまうものだから。だから、今までの羽川翼は自分についての他人の論評を聞いてはいても聞きとどめてはいなかった。何も考えなかったし受け止めなかった。
そんな彼女に大きな一石を投じる事になるのが、我らがヶ原さんなのである。

新生ヶ原さん。阿良々木くん曰く、夏休み以来異様なほど可愛くなってしまったという阿良々木くんの彼女さん。そんな話題を振っておきながら、肝心の更生ヶ原さんはとんと登場せず、怪異よりも不確かな未確認生物として、その名望だけが飛び交い噂が噂を呼び想像を絶するアンタダレ?なイメージにまで膨らんでしまったヶ原さんが、満を持して登場なのでした。

このヶ原さん、やっべえ!!

なにこのかわいい生物!?

あ、阿良々木くん不在の状態でこれって、阿良々木くんを前にした時の彼女さんはいったいどのレベルにまで達してしまうというの? というか、羽川にベタベタするヶ原さんが異様にヤバいんですがw
ヶ原さんってもっと羽川に対して苦手意識を覚えている、という印象だったのだけれど。阿良々木くんの視点からするとそんな感じだったし、実際調教されてます、てな感じだったんだけれど、むしろこれ囲ってますよね。めちゃくちゃ好きですよね、羽川のこと。むしろ食われてたの神原じゃね? と思うくらい羽川に対するヶ原さんの態度がヤバいんですがww
な、なるほどなあ、ややも病んでる時代の顔がチラチラと垣間見えるとはいえ、元々のヶ原さんのキャラクターがこんなのだったとしたら、中学時代など陸上部でカリスマ的な人気を誇っていた、といのもよく理解できる。これは、みんなから好かれるわ。
阿良々木くんに面通しされたファイヤーシスターズの二人も、ヶ原さんには悪い印象をウケなかったようで、なにより。というか、既に火燐ちゃんはヶ原さんの手玉に取られてしまってるんですが。すげえ、完全に操縦しきってるw
しかし、羽川やヶ原さんの眼から見ても、姉妹の兄ちゃんへのラブラブっぷりは異常なのか。今語られる火燐と月火のカレシも、本人たちの言によると「兄ちゃんみたいな人♪」らしいからな……おいおい。

その肝心の阿良々木くんといえば、なんか別口の大事件に巻き込まれているようで、ほんとに全然登場せず。羽川が自分探しの旅の前に探すべき自分を捜しているこの時、いったい阿良々木くんの元で何が繰り広げられていたのか、については他のヒロインがメインの話の時に描かれることになるんだろうけど、この調子だとそれぞれの話で断片的に描かれる事になりそうな気もするなあ。何となくこの後の第二期シリーズは、ぜんぶヒロイン視点で描かれそうな気もするし。と見せかけて今まで通りだったり、語り部がタイトルコールのヒロインじゃなかったり、という可能性もあるので油断できないが。

羽川翼というキャラクターの全てが彼女自身の手によって余すことなく詳らかにされ、これまでの積み重ねを踏まえた上で破却され、再構成され、決着させられる本作は、まさに羽川翼大全と言えるのだろう。
そして、他の話の時のように(上・下)巻編成になっていないように、話としては対でなく連続していない猫物語(黒)と(白)だけれど、問題を全部先送りにした(黒)に対する答えがこの(白)だったのだとすると、やはり順序としてはこの並びが正しく必然だったように思う。
今までと違うというセカンドシーズンのスタートを印象づける、一番手としても。前日譚を終えて、先へと進む物語の話の号砲としても。

傑作である。


にしても、此処で描かれる阿良々木くんのカッコ良さは、阿良々木くんが見たら恥ずかしくて憤死しそうなほどカッコいいな!!
本当に比喩なく白馬の王子様みたいじゃないか。
……なるほどなあ、なんで阿良々木くん、こんなに不在なのかよくわかった。ヒロイン視点となったら容易に阿良々木くん、出せないのがよくわかった。
ヒロインの眼から見た阿良々木くんなんて……なんかもういろんな意味で直視できないに違いない!!(笑

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