ヴァンダル画廊街の奇跡〈3〉 (電撃文庫)

【ヴァンダル画廊街の奇跡 3】 美奈川護/望月朔 電撃文庫

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母の影を追うエナが見るものとは──。ヴァンダルたちの物語はクライマックスへ!

「──四枚の絵が揃った時、世界に審判が下る」
 絵画を掲げる事によって、混乱を振りまこうとするアンノウン。ヴァンダル一行は、彼の目的を知るためのカギがエナの母・イソラの研究内容にあると推測し、行動を起こす。一方ゲティスバーグたちは、文化制定局局長アナベルに出頭を命じられる。そして独自のルートでUMA──アンノウンの目的を調査していく……。両者が最終的に行き着いた真実は世界政府の構築とイソラに関わる驚愕の真実だった……!
 果たしてヴァンダルたちはアンノウンを止められるのか!?
 第16回電撃小説大賞《金賞》受賞作、感動の完結編!!

正直、アンノウンのポストヒューマンとして成そうとした世界を覆す行いというのはどうでもいいというと語弊があるけれど、その世界への影響や壮大さなどが問題ではなく、彼の存在と人間を照らし合わせて、ウィリアム・ブレイクの絶望とティツィアーノ・ヴェチェッリオの「慈悲(ピエタ)」の解釈を通じて、人間の在り方を問うことこそが主題だったように思う。人は罪深きものなのか、それともその魂は崇高であるのか。有限の命をもて生み出された人類、それは罪の証か神の慈悲か。これまで、それぞれの挿話で各々が心の中に持つ一枚の絵をもって、今までの人生を振り返り、これからの人生を歩いて行く人々の横顔を描いてきた本作において、その問いかけはひとつの集大成か総括と言えるものだったのかもしれない。
この小説は、決して言葉を多く費やすような雄弁さを持っていない。むしろ、寡黙な印象すら受ける。登場人物たちは、自分の心の内に秘めた想いをベラベラと語ったりはしないし、訳知り顔に説明するような弁士もいない。
しかし、この小説は強烈なまでのメッセージを、いや彼らが生きてきた、そして生きていくであろう人生をありのままの形で、そのままの形で伝えてくる。
だから、この作品は、読み手は文章を言葉として読むのではない。きっと、文章によって描き出された情景を「観る」事によって成り立っているのだろう。
正直言って、本作を読んで湧きあがってきた感慨、それこそ崇高だとか敬虔だとかいう気持ちのアリカ、拠り所についてそれこそ思うがままに書き殴ってしまいたかったのだが……難しいな。良い絵をね、観てしまったときというのはどうしても黙りこんでしまうものだし、絵の元から離れても、良い映画や小説をあとで語り倒してしまうのと違って、胸のうちに大事に仕舞っておきたくなるのと同じで、どうも気が乗らなくなってきた。それこそ、母と子と神の寓意など物語の中身や構成には様々な解釈が試されるし、とても解体し甲斐のある濃密な意味と意志の込められた作品だと思うのだが、そういうのを詳らかにしてしまうのは、随分と無粋な気がしてしまって。
これは読んで知るものではなく、純粋に、観て感じて伝えられる事が素敵な作品なのだと思うから。
だいたいどういう作品なのか、という点については二巻の感想で概ね書き切ってしまってる感があるし。そう考えると、まったく作品の在り方はブレてないんだなあ。

人は誰もが、心の中に一枚の絵を持っている


そして結局、最後までこのコンセプトもまた、一切ブレることがなかったということなんだろう。
読書メーターとか見ても、あまり読まれてないみたいだし、感想記事も殆ど見かけないということは、やっぱり売れてないんだろうなあ。これほど心に沁みる良作は滅多と無いと思うんだが。
特にこの人が素晴らしいのは、一期一会の描き方。そして、人生の終わりに差し掛かった老人の生き様。二章に出てきた老バーテンダーのイカした渋さには、そりゃもう痺れた。近年稀に見る格好良さだった。この二章だけでも、きっと読む価値はあるのだと、そう思う。
これでこのシリーズは完結となってしまったけれど、筆者には出来ればブレないまま次の作品を手がけて欲しいなあ。でも、売れなきゃ始まらない、となるとそうも行かないのかもしれないなあ……。

1巻 2巻感想