子ひつじは迷わない  走るひつじが1ぴき (角川スニーカー文庫)

【子ひつじは迷わない 走るひつじが1ぴき】 玩具堂/籠目 角川スニーカー文庫

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第15回スニーカー大賞《大賞》受賞作!
生徒の悩みを解決に導く「迷わない子ひつじの会」。そのメンバーである成田真一郎(なるたまいちろう)は、寄せられる風変わりな相談に大奔走! そんな時出会ったのが、生徒会室の隣を隠れ家にするボサボサ頭の仙波明希(せんばあき)。ダラリと本を読んでいる彼女に、なにげに相談について聞くと、毒舌だけどとても的を射ていて――!?
実は生徒たちに「子ひつじの会」が広まったのは、この仙波の活躍があってこそだった!!
ああ、これは間違いなく大賞だわ。むしろ、これは大賞をあげないとオカシイ、という類だわ。それも、前年の【シュガーダーク】とはだいぶタイプが違うんですけどね。あっちがガッチガチに物語としての完成度を極めて来たのに対して、エンターテイメントとしての面白さのパフォーマンスをあげてきた、というべきか。
卒がない、というか目立った瑕疵が全く見受けられないんですよね。その意味では完成度も非常に高いと言えるのか。個々のキャラクターの掘り下げは敢えてやりすぎずやらなさ過ぎず、徹底したキャラの掘り下げを期待する人にはややも不満なところかもしれないけど、この作品の描き方に主眼を置くと全く以て絶妙のバランスだと自分は思ったなあ。薄っぺらすぎず、踏み込みすぎず、それは想像の余地を大いに残しているということでもあり、各案件を通じて彼らの言動からこちらが穿ち見るべきところでもある。全部作者が書ききってしまうのではなくて、ちょっとだけ読み手の方にも預けてくれているとでも言うのか。
こういう大賞取る作品って、完成度の高さと比例するようにその手の余裕がないのが多いんだけど、この作品はその点、絶妙のバランス感覚を保ってる感じなんだよなあ。将来的な発展の余地を大いに盛り込んだまま、現時点でも既に隙なく余す所なく書くべきを描き切っている、という風に。
ぶっちゃけ、この作品が速攻でメディアミックス化されていっているのもすごく納得。もうコミカライズやドラマCD化が決定しているそうだけれど、大げさな事言うと現段階で既にアニメ化しても、多分原作通りに作っただけでもある程度成功すると思うな、これは。然るべきところが作ったなら、大ヒットしてもおかしくないと思うレベル。いや、むしろアニメ向き、と言った方がいいのかこれ。
とにかく、登場人物の自己主張がはっきりしているというのは大きな武器だよなあ。メインとなる成田真一郎、仙波明希、佐々原三月の三人以外にも、ラスボスの生徒会長竹田岬に裏ボスの文芸部部長東原史絵、依頼者や事件関係者となるそれぞれが、それぞれにキャラ立ちまくってるし。敢えて、いろんな人の視点で話を書いているのも面白い。一人称で描くということは、ある程度その人の内面や考えていることを書き連ねるということでもあるわけだし、一方向からグググッと特定の人物を掘り下げていくのと違って、いろんな人の視点からいろんな人の人物像をいろんな形で拾いあげていくことによって、全体の色彩や明度が鮮明になっていく感覚がある。数人の狭いコミュニティではなく、この学校そのものが「何だか面白い」という対象になっていくんですよね。人によっては視点がころころ変わるのは散漫だと捉えるかもしれないけど、自分はこの手のやり方、結構好きだなあ。
何よりも、うん、そうか、メインとなる成田真一郎、仙波明希、佐々原三月の人間関係を描くには、この三人だけを書いているわけにはいかなかったんだよなあ。各話の冒頭に、相談を持ちかけてきた依頼者の案件を三月がイラスト化したものが挿絵として描かれており、そこには依頼者と関係者の間に→が引かれて、簡単な関係図が載せられてるんですが、真一郎、明希、三月の三人の関係を突き詰めていくには→は三人の間だけに閉じられてる訳にはいかないんでしょね。彼ら三人以外の人間からの矢印……思惑、関係性などが影響し、効果をあげることで今の三人の構図が成り立ち、変化していっているのですから。さてもビリヤードみたいな話だけれど。会長や東原さんあたりは、ハスラーを気取っていそうだけれど、さて自分も球のひとつだと弁えているのか否か。

そして、もう一つ面白いのが、真実を暴くことと事件を解決することがくっきりと分かれているところ。依頼者が持ってきた相談事の謎、つまり不明だった真実を安楽椅子探偵として明らかにしてみせるのが明希なのだけれど、その真実を貰った真一郎はでも、それをそのまま依頼者には告げないんですよね。案件の全貌を明希が解き明かした真実によって把握した上で、真一郎は恣意的に真実をねじ曲げて、都合の良い答えを依頼者に提示するのである。探偵が暴く真実が必ずしも人を幸福にするのではない、と常々語り継がれてきた巷説を逆手にとった手法なのだ。しかし、作中で明希を初めとして多くの人が指摘するように、彼のやりようというのは真実を恣意的に都合よくねじ曲げて、相手の意志を無視して押し付ける独善的で、場合によっては多くの人が嘘によって傷つきかねない行為なのである。
言うなれば、お前何様だ、というお話。
ここで主人公への好悪が分かれるんだろうなあ。自分は嫌いじゃないんですよ。彼は人のため、という建前ではなく究極的には自分のため、自分の行動によって相手が幸せに思って笑ってくれた、その際の歓喜や恍惚を忘れられず、その快楽を得るために行動している。これが無自覚だったり、今まで痛い目も見たことなくて調子に乗っているなら始末が悪いけど、彼は今まで何度も失敗して他人も自分も傷つけた経験を多分に有している。その上で、自分がエゴイストで欲に基づいて動いているという自覚をはっきりと有している。ということは、ちゃんとこの子は自分の言動の結果に対して責任を負う覚悟を持ってるんですよね。それは、三月が真一郎が過去にやらかしたであろう失敗で他者を傷つけそうになったときの、彼女の失敗を挽回いようとする彼の悲愴とすら言える必死さを見れば、真一郎が自分がどれだけヤバい橋を渡っているかをちゃんと自覚していることが伝わってくる。
わかってりゃいい、という話じゃないかもしれないけど、わかってないよりよっぽどいい。
自分は結局、覚悟が据わってる輩は、嫌いじゃないんですよ。

なんか続きもすぐに出てくれるみたいだし(引きがまた凄いというか、やたらめったらなインパクトで大爆笑した。これは続きが気になるよ)、これは先が楽しみな新人作品でございました。
とっても、面白かったですよー。