社会的には死んでも君を! (MF文庫 J い)

【社会的には死んでも君を!】 壱日千次/明星かがよ MF文庫J

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薩摩八平には呪いがかかっている。その名も『ラブコメ現象』――それは呪いじゃなくて祝福だろ! と言われそうな、ちょっとエッチなハプニングが起こってしまうのだ。元凶(?)は八平に憑いている幽霊(らしい)、香月。八平以外の人間には見ることも声を聞くこともできない香月と出会って以来、八平の生活はラブコメ現象によってさんざんなものだったが、それでも八平は香月と出会えたことを後悔していない。なぜなら、香月が美少女だから。見えない女の子と喋るイタい男と思われても、ヤンデレ同級生に迫られても、美人な姉にストーカーされても、香月に触ることができなくても!「それでも君を○○!」一途でまっすぐな八平の、アンチラブコメ生活!
アンチラブコメと銘打ちつつ、真っ当にラブコメです! いや、厳密に鑑みるなら微妙にラブコメと違うのかも知れないな、これ。
第6回MF文庫Jライトノベル新人賞佳作作品、ということで新人作品なわけですが、ぶっちゃけて言うとこれ小説としては技量的に稚拙な部分が多々見受けられる。文章構成はとてもじゃないけど、上手いとはお世辞にも言えません。
ただね、そういう下手さを補って余りあるほど、面白い! 面白かった!!
これは面白かった!!
三斗繰り返しました。
これって、いわゆる典型的なラブコメもの、なんですが上記したように微妙に違うんですよね。厳密に言うとこれ「悲恋もの」に分類していいラブストーリーなんじゃないだろうか。
メインヒロインの香月は八平以外の誰にも見えない幽霊。この手のお話だと、八平以外にも彼女を認識出来る霊能者的なヒロインだか敵キャラだかが出てくるものですけど、この作品では八平以外には本当に誰も香月の事は見えないし、声は聞こえない、その存在を認識出来ない。香月の存在を八平以外で知っているのは同居している義姉の霧子だけで、それも半ば以上本当に香月がいるのか信じていなくて、八平の脳内彼女なのだろうと思い込んでいる。当然、香月とコミュニケーションを取ろうという発想すら無いわけです。
つまり、香月は八平以外に喋る相手がいないという孤独を内包しているのですが、彼女には八平が中学生のころにどうも自分が原因らしいラブコメ現象と、誰にも見えない自分と喋ることで気持ち悪い独り言をブツブツとつぶやいている気持ち悪い人扱いされ、社会的に死んだような目にあい、将来の夢も奪ってしまった、という負い目があるお陰で、この手の取り憑き幽霊キャラとしては珍しいくらい控えめで、八平優先なんですよね。なるべく八平に自分のせいで奇矯な振る舞いをさせないように何時も気を配っている。
ところが、この八平がまたイイ奴で、しかも香月にマジ惚れしているものだから、なるべく彼女を寂しがらせないよう、蔑ろにしないように、大切に扱っているのです。彼女がどれだけ孤独なのか、この少年はとても良く理解してるんですね。だから、再び中学時代のように社会的に死んだように生きる事は避けようとしながら、一生懸命ギリギリのラインで頑張って香月と一緒に過している。
香月はそんな彼の優しさを嬉しく思いながらも、だからこそ彼に中学時代のような辛い思いをさせたくなくて、高校に入って親しい女の子や友人が出来、なんとか楽しい学生生活を送る八平を自分の事のように喜び、応援していくのですが、それでも彼が女の子と親しくするさまを見て切なさに心を痛め、自分の存在が彼の足枷になっている事実に苦悩を深めていくのです。
どれだけ好いても、誰にも見えない自分の存在は世間にとっては八平の妄想でしかない。彼が自分に構えば構うほど、彼の社会的な立場は危うくなっていく。そして何より、幽霊のような幽かな存在である自分は、八平に触れられない。八平に触れて貰えない。温もりを分け合う事も、肌を合わせる事も出来ない。彼を慰めてあげることすらも出来ない。
それは、少女にとっての絶望で、悲嘆で、つまりは叶わぬ恋なのでした。
八平と香月の関係は気心が知れた息のあった相棒のようで、それ以上に成熟した恋人未満みたいにとても仲睦まじくて、お互いを大切に思っていて、何よりお互いに恋焦がれていて、だからこそ切ない。バカバカしくも賑やかなラブコメらしいラブコメなんだけれど、それ故にここぞというときに現れる二人の切ない焦がれる想いが作品の空気を一色に染め上げていったように思います。
社会的に死んでも君を。このタイトル、てっきり世界を敵に回しても、的な物言いの言い回しなのかと思ったけれど、うん、確かに世界だとかそういう大仰なモノを敵にまわすような話ではありませんでしたね。でも、その愛は貫けば貫くほど世間からは正気を疑われ、気が狂ったかと思われ、まさに社会的に死んでいく。そして、その愛はこのままなら決して報われる事はない。どれほど愛しあい恋焦がれても、二人は触れ合うことも出来ないのだから。
それでも、その愛を貫くというのなら、それは紛う事無き純愛なのでしょう。ふざけたようなタイトルと見せかけて、これ真っ向勝負のピュアラブストーリーなのでした。
やばいなあ、八平と香月の健気なまでの想いに、ちょっと感動してしまったかも。

他のヒロイン衆は、これは別の意味でヤバいです。ヤンデレ率が高すぎる! 重たすぎる!!(笑
その分、ワントップであるかのように、ドジっこ生徒会長の鈴音さんがヒロインスペックがやたら高くて、秘めた純愛パートのヒロインが香月なら、表のラブコメのヒロインは間違いなく鈴音でしたね。年上でやり手の生徒会長のはずなのに、ちょとかわいすぎますよこのヒト。
比べて、染谷と霧子はちょっとアウトすぎる(苦笑