疾走れ、撃て!5 (MF文庫J)

【疾走れ、撃て! 5】 神野オキナ/refeia MF文庫J

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魔導士官として覚醒したミヅキの欠員を埋められないまま、紫神小隊は本格的な実戦部隊「七二四一小隊」として始動した。士官教育を終えた理宇は、いよいよ「杖」として実地で訓練をすることになる。不安を隠しきれない小隊メンバーのために、結成記念パーティーという名の宴会(アルコールなし)が開かれることになるが、誤って飲酒をしてしまった虎紅が大変なことに――!? そんなパニックの最中、新型の3人乗り数式戦車「轟雷」と共に小隊の新メンバー・矢真科ユリネ二等兵が現れて――!?新兵器&新隊員登場でますますパワーアップの軍隊青春ラブコメ、波乱の第5弾!
立場が人を作る、か。実戦をも混じえた訓練期間を経て、僅か半年という時間で子供たちは一端の兵士となっている。いや、決断力と判断力を有した大人になった、というべきか。いずれ何らかの形で学兵として軍に関わらなければならない、子供たちにそういう自覚と覚悟のある時代と環境であるとはいえ、彼ら紫神小隊は特に優秀に見える。比較対象となる、他の同世代の学兵部隊の様子が描写されたことがないので断言できないけど、誰もが認める理想の上官を体現している紫神虎紅の下、小隊幹部は皆これ当たりだろう。
人の上に立つような性格でなく、決断力よりも穏やかな宥和が似合う人柄だった理宇の士官としての成長に感嘆を漏らしていた俊太郎だけど、彼だって下士官として得難い人材になっている。美冬や鷹乃を含めても誰一人欠けたら穴を埋められないレベルで。上に立つ人が優秀であることに越した事はないんだけれど、軍隊というものがどうしても欠員を生む組織である以上、常に突然誰かがいなくなった場合を考えなくてはいけなくて、皆が替えがきかないほど優秀というのも悩ましい所なんですよね。贅沢な悩み、と言えばそれまでですが。
その意味では、ミヅキが先任下士官から魔導士官候補生に予定にない昇格をしてしまったことによって生じた欠員を人数的には埋められなくても、人材的に埋められたのは幸いだった。鷹乃さんは、肩の力さえ抜けば、間違いなく優秀な人ですからね。初期には随分と無茶をやらかしたけど、今では視野も広がって、落ち着いて自分の周りを見渡し、自分を振り返る余裕も出てきたし、彼女の責任感の強さや思慮深い果断さも今なら良い方向に出てくれるはず。ただ、理宇を見直す気持ちが強まりすぎて、なんか変なフラグが立ち始めてますがw
鷹乃さん、それある意味理宇を亡き者にしようとしたことよりも死亡フラグ(笑
紫神小隊で一番怖い二人がコンビ組んで襲いかかってくるぞw

変な整備の人をくっつけて、実戦駆動を始めた紫神小隊に、最新型の数学戦車が納入されてきたものの、隊長の虎紅を筆頭に概ね不評。意外かもしれないけど、実戦部隊には新型って大概不評を以て迎えられるものである。よっぽど現状の兵器に力不足を実感しているならともかく、実戦での実績のない兵器って恐ろしく嫌われるんですよね。現場で戦う兵隊は、兵器に自分の命を預けなきゃいけない以上、何よりも信頼性を求めるもので、どんな不具合が潜んでいるかわからない新型というのは、実戦の最中にどんな故障を起こすか事前に備えることも難しく、信用に値しないというわけですな。
特に未だ量産化もなされていない試作兵器なんて、疫病神もいいところ。絶対故障するに決まってるのに、部品関係なども大概まともに在庫が揃ってないし、整備マニュアルも整ってない。整備担当者なんかは頭抱えて徹夜続きの日々が訪れることまちがいなしだから、現場の兵士よりも嫌がるでしょうね(立ち上がっただけで5億円ってなにそれ!?)。
だから、専任整備員付きで持ってきたのは、新型を押し付けてきた上層部のせめてモノ好意なのだろうけど……このヤマネがまた一癖も二癖もある人間で軍人の規範にとらわれない破天荒な性格の持ち主、である以上に腹に一物持ってるようなんですよね。あのネアカな性格は素かもしれないけど、中身は恐ろしく黒いぞ。黒いというよりも、良心も善意も目的のためなら笑顔で躊躇なく脇に押しやってダーティーな仕事をやってのけるタイプ、というべきか。
この手の人は本当の意味では絶対に味方になってくれない人なので、いい意味で利用し合う関係になれれば一番いいのだけれど。そのあたりは虎紅が上手くやってくれそうなので、それほど不安は感じていないが。

理宇を巡る虎紅とミヅキの争いは、ミズキが魔導士官として覚醒した時の虎紅の対応に助けられた事で大きな借りが出来たと感じてしまったために、停滞気味。ミヅキに、虎紅に譲るつもりはないけど出し抜いてやる、という闘争心が薄れてきてしまってる感じですねえ。抜け駆けすることに気が咎めてしまう、というのは色々と致命的じゃないのかな、これ(苦笑
虎紅をフェアだフェアだとミヅキは言うけど、ミヅキも割り切れないあたりは十分フェアだと思うよ。フェアな姿勢が通じるのは、相手もフェアな時だけですもんね。
虎紅とミヅキが魔導士官として師弟関係となり、杖である理宇ともパスが通じた以上、これまで以上に三人の関係が三人として密接になっていくはずだから、こりゃこのまま三人のまま関係が近しくなっていきそうだな。残念ながら、鷹乃さんは出遅れた(笑
あと、お酒入った虎紅は大いにアリだ。虎紅にも鈴にゃんとおんなじ血がちゃんと流れてる事が発覚してしまったよ、おい。本人全然覚えてないみたいだし、こりゃ何度かまたありそうだな。

一方で、紫神小隊を巡る環境はさらに過酷に。上層部に目をかけられるということは、イコールとんでもない戦場に最優先で放り込まれるということですからね。もちろん、その分色々な優遇措置はしてもらえるとはいえ、他の学兵部隊とは段違いに危険な場所に突っ込んでいかなければならないわけで。
ダイダラも、ついに人間の死体を利用した人型サイズの特殊戦部隊としか思えないような一団を投入し、今までの対ダイダラ戦争と戦況が一変しかねないターニングポイントが訪れている。
なんか、最後凄いことになってるしさあ(苦笑
上の目論見がまだみえてこないのが不気味なんだが(一枚岩じゃないみたいだし)、新型数式戦車が大隊指揮能力まで備えていた、というのは見逃せないところだな。果たして、どこまで描くつもりなのか。

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