瑠璃色の刃と朱色の絆 (HJ文庫)

【瑠璃色の刃と朱色の絆】 藤春都/6U☆ HJ文庫

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ある日、桐平賢巳は自宅の古い蔵から一振りの太刀を見つける。その太刀は少女の姿になり、瑠璃と名乗った。謎多き彼女との出会いが、古来より人間世界の闇に潜み、人を襲っていた刀魔との戦いに賢巳を誘う。人間の血を求める刀魔に対抗する警視庁下の組織ソードブレイカー。その一員として瑠璃を振るい、刀魔と戦う賢巳が見出す血の絆とは!?

デビュー作の【ミスティック・ミュージアム】の最終巻でも感じた事だけれど、この筆者さんの人間ではない超常の存在たる少女とただの人間でしかない少年が添い遂げようとする覚悟の描き方が、凄く私の好みなんですよね。
人間の枠組みから外れた人外と、人間の間に溝があるのだとしたら、藤春さんが描くのは少女を人として扱ってこちら側に引き寄せるのではなく、その溝を跨いで一歩彼女の側に踏み込む事なのだ。
今までの平穏な生活を捨てる訳じゃないのだけれど、今までと同じような時間を過ごしながら、彼女の為ならばいつでもそれに背を向ける覚悟を、この少年は胸に秘めている。
いや、彼のそれは覚悟というよりもむしろ願望に近いのかもしれない。一切のしがらみを投げ捨てて、瑠璃を連れて逃げ出すという想像に、賢巳は確かに惹かれていた。どこか遠い土地で、何にも煩わされる事無く穏やかに瑠璃と二人きりで過ごす日々に、思いを寄せていたのだ。それこそ、今まで生きてきた上で関わり合ってきたものを、酷く遠くに感じるほどに。その価値を、希薄に思うほどに。
ただ二人きりの閉じられた世界。それはとても寂しく虚ろなものなのかもしれないけれど、同時に想いを寄せ合う者同士、たった二人きりで完結した世界というのはとても甘美なものでもある。
この人の描き方で絶妙なのは、本当に二人きりで断絶してしまうのではなく、ちゃんと主人公とヒロインの側からも、その周囲の人間からも繋がろう、結びつき合おうという意志を以て、二人を突き放さず孤立させずにちゃんと社会、コミュニティーの中に留めながら、しかし究極的には賢巳と瑠璃の間には余人が決して介在できぬ二人きりの世界が厳然と並存しているところなのである。
社会や仲間の中で孤立せず縁を残しながら、しかし少年は半歩だけ少女の側に退くことで僅かな隔たりを得て、蕩けるような幸福な孤独を懐いている。いつか本当に、ただ二人きりに沈んでいく事を夢見ながら。
このどこか儚げで浮世離れしそうな、しかし蕩けるような甘やかな主人公とヒロインの関係性が兎角琴線に触れてくるのだ。大まかな枠組みこそ、典型的な現代異能モノというべきものだけれど、そんなオーソドックスな物語の流れの中に存在している、賢巳と瑠璃の閉ざされていく関係性にこそ、この先注目していきたい。辛うじて幼なじみやクラスメイト、ソードブレイカーとの間との縁は切れなかったものの、どうやら賢巳は最も大きな縁と断絶しそうな気配が漂っているのだし。

藤春都作品感想