烙印の紋章(7) 愚者たちの挽歌よ、竜に届け (電撃文庫)

【烙印の紋章 7.愚者たちの挽歌よ、竜に届け】 杉原智則/3 電撃文庫

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ビリーナ、再び表舞台へ! 英雄への道を描くファンタジー、第7弾!

 婚約者のギルを亡くし失意のビリーナだったが、その死の真相を探るため帝都ソロンを発つ。ホゥ・ランとも再会し、二人は再びアプター砦へ赴くことになる。
 一方、ガルダ打倒を果たしたオルバはタウーリアへと凱旋。束の間の平穏を享受する。しかし、そんな折にメフィウスによるタウーリア電撃侵攻の報が入る。
 グールの独裁がますます強まる状況の中、ノウェ&ゼノンやイネーリ、シモンなどの面々も次の一手への布石打つ。
 新たな戦乱の到来とともに、オルバとビリーナの運命も再び交錯する!

これは驚いたな。エスメナに対して改めて皇太子ギルとしての顔を晒したときのオルバの開き直りとも違う、平静さにはややも驚かされた。オルバ自身は自分が今後、どうするべきかまだ闇の中、どうしたらいいのか分かっていないのかもしれないが、どうやら彼の中の無意識は、エスメナへの態度を見る限りでは既に覚悟を決めているようだ。
でなければ、一度捨て去り逃げ出したはずのギルとしての顔を、ああも心揺るがさずに晒す事など出来ないだろう。
彼はもう一度、王族としての責任を背負う事を心の何処かで選んでいる。今度は私的な復讐を果たすために、皇太子としての立場を利用するのではなく、かつての自分たちと同じような無力な民に悲劇ではなく平穏を与えるために、皇太子としての立場を利用することを。
でも、今のオルバにはきっかけが無いんですよね。それが、オルバに自分の心の内に形作られていっているものを気付かせず、今後についてナニカをするべきなのだという強迫観念とその進むべき道が見いだせない事へと閉塞をもたらし、迷いを与えている。
もっとも、そのきっかけはそれこそ向こうから飛び込んできてくれるわけだが。
結局のところ、オルバには敵が必要ということなのだろう。戦うべき敵がいないところに、自ら飛び込んでいき、自分の理想を叶えるために多くのものを破壊し、変革することを厭わない、という強い野心が彼にはないのだ。あれだけ横柄で我が強いくせに、無抵抗だったり元々無関係な相手に対してエゴを貫き押し付ける事を苦手にしているようにすら見える。一度、敵とすれば闘争心を滾らせ、喉笛を噛みちぎらん勢いで引きずり倒そうとするにも関わらず。
その点、今のグール王は新たな価値観を得たオルバにとって、敵と呼ぶにふさわしい存在になろうとしている。時代はまさに、もう一度オルバという男を表舞台に引きずりだそうとしているかのようだ。
そして、そんな彼の動向に呼応するように、ビリーナもまた動き出す。オルバとビリーナは、決して強い絆で結ばれた存在というわけではない。二人とも、お互いの存在について把握しきれず、手探りに少しずつ理解を深め、その人物像を描き出そうとしていたところだった。相手の実像が、自分にとってどういう意味を持つのかを考え思い悩んでいたところだった。まだ、答えが出せるような時期はなかった、多分、お互いに相手が自分の意識を大きく変えてしまう存在なのだという確信を抱き、ようやくちゃんと向きあおうとしてその心が触れ合った矢先に、オルバは自分の生きる目的を見失い、あのような形になってしまった。
だから、オルバとビリーナの関係というのはお互いに無視できない巨大な存在感を以て心の中に居座りながら、未だに始まってすらいなかった関係なんですよね。
主人公とメインヒロインでありながら、とんでもなく不思議な間柄の二人である。
未だに再会すら出来ていないけれど、まさにあらすじにあるように、引き寄せられるようにして、二人の運命は交錯していく。なるほどなあ、運命的とはさながらこういう事を言うのでしょうね。

もう一人、驚かされたのがエスメナ王女である。前回、人間的に大きく成長してその見事な政治的な振る舞いから故国を救うことになった人ですが、今回オルバに仮面を取らせたあとの対応を見るに、一人の女性としても大きく成長して魅力的になっているのが分かる。以前はもっと考えなしの思慮が浅く視野が狭い自分の感情を優先して何も悪いと思わないような子供でしかなかったのに。登場したときは空気も読めない甘えたの王女さまということで正直好かなかったんですが、あんな健気でオルバの事を良く考えてくれた態度を取られちゃあ、見直さざるを得ないですよ。
彼女に限らず、失敗や難事の経験を経て意識が変わり、人間的に成長するキャラクターが意外と多いんですよね。ガーベラ国の軍師&王子のコンビや、ボーワン将軍なども優秀だけど一流と呼ぶには色々と欠けたところの多い人材だったのに、随分とまあ見違えてしまって。
特にボーワン将軍なんかは、人間的にも立場的にも扱いが難しいはずのオルバを、かなり自然にその力を発揮できるように扱ってるんですよね。まだまだ経験は及ばないにしても、これならアークスの後を十分に継げるでしょう。

さて、ラストの展開によって、恐らくは否応なく雌伏の時を終えなくてはならなくなっただろうオルバ。出来れば、もうそろそろビリーナと再会して欲しいところですが、さて如何に。


ところで、グール王の若い頃と、今のオルバの性向に似通った所があるのは何か意味があるんでしょうかね? 少しこの点は気になるなあ。

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