空色パンデミック Short Stories (ファミ通文庫)

【空色パンデミック Short Stories】 本田誠/庭 ファミ通文庫

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狂騒と純真と抱腹絶倒の「ボーイ、ミーツ、空想少女」短編集!

①結衣、お下げ髪の純真文系少女になりきりロマンス編「空をあおげば」②結衣、再び発作を起こしロボットアニメのヒロインになりきりツンデレ編「閉じた世界の片隅で、私に響くほしのおと」③結衣、三度発作を起こし最強女エージェントになりきりバトル編「そして伝説は引き継がれる」④メアリー、自ら薬で幼児化して景にロ●コン疑惑発生のリベンジ編「バッド・メディスン」──"空想病"をめぐる悲しくも可笑しい日常のドタバタ悲喜劇集。

シリーズ初の短編集は、そうか空想は空想でも元ネタのあるお話で来たか。本編の方は虚実が入り雑じりまくっていて、何をどう捉えていいかわからないので、読んでいる間安心も何もできたもんじゃないんだけれど、こちらについては、結衣の空想は自己完結型で、周りがそれに巻き込まれるという形式は揺るがないので、だいぶ安心してみていられる。
にしても、結衣さんはアニメやゲームに影響うけすぎだよなあ。これだけ簡単に空想病を発症してしまうと、当人も気を使ってその手のものを遠ざけてしまいそうだけど……、そんな気を使わせないほど、周りのスタッフのケアは行き届いているって事なのか。
一話は「耳をすませば」。二話は「エヴァンゲリオン」。三話は「メタルギアソリッド」が元ネタ、多分。傾向を見ていると、どうも結衣さんは中二病を拗らせているというよりも、夢中になったアニメなどの作品の恋愛模様にこそ、ハマっているようなんですよね。相手役に必ず景を据え置くのも、空想病が完結する要因も、すべてそこに掛かってきているわけですしね。作品の設定というのは、あくまで自分と景の恋愛を盛り上げるための演出、と考えると分かりやすい。
その点を、青井はどうも感覚的に察知しているのか、どの空想病の症状でも肝心の場面でシナリオを逸脱して、結衣の演じるキャラの恋敵として立ちはだかるわけだ。
なんで、景はそれがわからないんだろう(苦笑
わからないといえば、景の感性もわからないんだよなあ。今更、空想病のキャストとして設定上のキャラを演じることに、なんでそこまで恥ずかしい思いを抱くんだろう。周りの人達は毎度のことだからもうわかったもので、空想病の役者として演じてるって知ってるんだから、変なことをしているという風には見られていないだろうに。
むしろ、結衣と毎回キスまでするようなイチャイチャっぷり、盛り上がりに盛り上がった告白シーンなどをスタッフや友人たちに見られている事こそを恥ずかしがったり照れたりするべきなのに、それについては殆ど何も感じていないという。結衣さんが、あれだけのたうち回ってるのは、景が思ってるような「痛い有様」を晒したからではなくて、多分景との恥ずかしすぎる恋愛模様を、皆に見られてたからだと思うんだがw

毎回感心させられるのは、あの森崎のアドリブの見事さである。専門のスタッフよりも巧いんじゃないのか。どうして、あんな台詞がポンポンと飛び出してくるのか。景も、自分は何もしてないんじゃないか、と思う暇があれば、多少なりとも演じる心構えを作ったり、空想病について勉強したらいいのに。かなり受動的なんだよなあ、この子。

なかなか興味深かったのが、第三話。メタルギアソリッドが元ネタなせいか、冷戦を介在した国際情勢の話なんかが混ざるのだけれど、そこから派生して現在の世界における空想病という存在の戦略兵器としての価値と、各国の対応について触れられていたのは興味深かった。なるほどなあ、ある意味核兵器にも勝る戦略的な兵器と成り得る、となるとその罹患者の扱いが慎重を求められ、国際謀略の世界ではどのような暗闘が繰り広げられているのか、かなりエグくて生々しい話がありそうだ。

第4話のような、心と人格の話から三話のような国際政治の視点まで、この空想病という特異な疾患が存在し、それに対応する社会システムが確立しつつあるこの世界観というのは、斯くのごとき大きなポテンシャルを秘めているわけで、本編でも物語の構造基盤から揺るがすような話だけでなく、個人の内面や政治サスペンスを扱うような話もやって欲しいなあ。

1巻 2巻感想