千の魔剣と盾の乙女 (一迅社文庫)

【千の魔剣と盾の乙女】 川口士/アシオ 一迅社文庫

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魔王バロールの侵攻により、窮地に追い込まれた人類は、魔物を倒すことができる古代の魔剣、その量産型を精錬する技術を編み出し対抗した。
それから150年――剣士ロック、魔法盾を操る美少女エリシア、魔剣練成師の少女フィルの三人は、魔剣の材料を求めて魔物たちが跋扈する暗黒の大陸へと旅立つ!
川口士がおくる魔剣ファンタジーの決定版!
ほんとに川口士さんは、筋金入りのハーレム大好きですねっ!!(笑
作風はいまどきのハーレム系からすると明らかに違うし、色んな女の子相手にキャッキャウフフするような内容にもならないんだけれど、その分実直にハーレムを構築しに行っている感じ。自分で書いておきながらなんだが、実直に、ってなんだよ!?ww
少なくとも、パーティーの人間関係の要であるフィル嬢がその気満々なので、既にロックもエリシアも虎口に閉じ込められているようなもののようですが(笑

さて、今回のシリーズはというと、また凝った設定の世界観をひねり出してきましたね。ある意味、一迅社で出していた前シリーズの【星図詠のリーナ】とは対極に向かう方向性なんじゃないだろうか。外向きにいくらでも広がる余地を踏まえていた【星図詠のリーナ】と違って、非常に限定された局面に集約された世界観、というべきか。なるほどなあ、同じファンタジーにしても色々と描き方を変えてくるのは当然の話なんだけれど、こんな根っこのところから今までと違った方向に持っていくのは、色んな描き方に挑んでやろうという作者の意欲みたいなものが伝わってきて、正直ワクワクしてきますね。
主人公のロックも、これまでの主人公像とは少しズラしてきている感じがしますね。俺が俺が、という我の強さが少なく、弄れてもいない、非常に素直な人柄。人柄というよりも、これは子供らしい純真さというべきか。既にロックはガタイ的にもメンタル的にも青年期に入っているので最初読んでいた時は気付かなかったのだけれど、小さい頃から苦労しているお陰でとても世慣れているくせに、心ばえに癖や嫌味、スレた所や思考に固まった所がなく、表面的には分かりにくいんですが、根っこのところでとても素直。いい意味で子供っぽさが随所に垣間見ることのできる青年なのです。逆に、悪い意味での子供っぽさは殆ど見えない。思慮の浅さや短慮さ、理性よりも感情に走ってしまうところなどは全然無いんですよね。そうした性質は、特にメンツに拘らない、という面に強く出ていて、結構面倒くさい性格をしているヒロインのエリシアとしょっちゅう喧嘩しているにも関わらず、後に引きずらずにすぐ仲直り出来ている事からも伺える。と言っても、何も考えてないような脳筋系ではないんですよ。エリシアと喧嘩したあと、相手の理不尽に憤慨し、自分の悪かった点について頭を抱え、仲直りするまでの微妙な空気にどう接するべきかグルグルと悩み、とむしろ性格的には繊細な方なのかも。それでも、子供らしい素直さが余計な意地を張らせないものだから、人間関係を拗らせる事は少ないし、立場的にけっこう微妙な所に居る割に、対立する理由がある相手以外には交友関係が広く、多くの人に好かれているんですよね。
うん、こうして見ると、やっぱりとても良質のいい主人公だ。
こういう子だからこそ、師匠は彼を鍛えるにしても自分と同じやり方をせずに、多くの人と関わらせる形で育てる方針にしたんだろうな。その点、確かに魔剣ホルプは自分の主となったロックという青年を、ちゃんと観ていなかったのだと納得出来る。
ホルプの考え方も、全然間違ってはいないんですけどね。ズバリとダメだしをされたエリシアが凹みまくったように、魔剣の指摘は的を射た正論であるのは間違いなかった。ただ、やっぱり考え方や視点が頑なすぎるんですよね。
この知性ある剣ホルプのキャラクターは、なかなか斬新で面白い。これまでのパターンだと、この手の喋る武器は、だいたいどんな性格をしていても最終的には主人公を導く役割を得ているものだけれど、このホルプはというとかなり理性的で教導的な思考をしているわりに短気だわ視点が一方的だわ変なところに拘りが強いわ、と実際はあまり導くのとか出来てないという……(苦笑
これで人の話に耳を貸さなかったり、自分勝手だったりしたらタチが悪いだけなのだけれど、頑固者のわりに聞き分けるところはちゃんと聞き分けてくれるし、自分が間違っていると理解したらすぐに改善し、謝る事も躊躇わない。主人や周りの人間にもきちんとすべき配慮をして気配りしてくれている、と堅物だけど難物じゃないんですよね。面白いわ、この剣w
丁度、主人公のロックが素直でまっすぐな分、この剣とはよく釣り合いが取れているのかもしれない。

話はもどるけど、ロックの素直さは彼が目標とする「魔王を倒す」という所にも如実に現れている。彼が魔王を倒そうと思っているのは、彼の師匠が初恋の人を助けるために魔王を倒すことを宿願としているから、なのである。その目的は師匠の目的であってロック個人のものとは少し違うかもしれない。正確には、彼は魔王を倒したい、のではなく、魔王を倒すことによって恩ある師匠に想い人を助けさせてあげたい、言わば恩返しが目的であると言える。それは、立派な主体的な目的なんじゃないだろうか。そして、世界を救うためだのといった大それた夢ではなく、恩人に報いたいから、世話になった師匠に幸せになって欲しいから、というそれだけの為に、何百、何千の魔剣使いが倒せず骸を晒していった魔王という絶大なる存在を倒そう、と。周りの人間達が夢物語と信じようともしない目的を、本気で達成しようとしているのだから、十分大した主人公なんだと、私は思います。
夢物語だと親しい人からさえも哂われても、気にせずにこやかに笑って、でも決意も覚悟も一切揺らがないところなんぞ、カッコイイじゃないですか。
師匠もこりゃ、面映いだろうなあ(笑