竜王女は天に舞う 4 (MF文庫J)

【竜王女は天に舞う 4.ToyBox 〜first part〜】 北元あきの/近衛乙嗣 MF文庫J

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シグを本心から認めたルノアは、ちょっとだけ可愛らしさを増した。危機感をつのらせたリラは「あたしもシグが好き」とルノアに宣戦布告。お互いに竜王女である以上、いずれはどちらかが消滅する。そのときまで恋に生きる決意だった。一方、シグたちは連続魔術士殺害事件の犯人を追う任務につく。犯人はクルツ派一刀流の使い手であることが浮上するが、それを理由にルノアが拘束されることになってしまう。誰かが竜王女を手に入れようとしていることに気づき、シグは全面的に立ち向かうことを選ぶ。愛する人のために、あるいは野心のために――様々な思いが交錯する〈ヴァルハラ舞踏会〉で、加速する恋心は勝利を導くか!? 蒼天ファンタジー第4弾!

黒いっ、もう目茶苦茶に黒い。薄汚さが真っ黒すぎて、もはやエグい!! 
元々、情報機関同士の謀略戦がメインの話だっただけに、権力と情報力と暴力によって利用し利用され、誰が味方で誰が敵かすらもわからないような暗闘が繰り広げられていたのだけれど、此処に来て今までのお話ですらまだ生温い、凄まじいまでのダークな展開が奈落のように広がっていく。
レニ・ルクセンブルク。この女、洒落にならんわ。恐らくそのキャラクターモデルは、あの【ブラック・ラグーン】のバラライカが元なんだろうけど、今となってはまるで性質が違っている事がよくわかった。思い知らされた。非情にして冷酷、その上で悪辣にして奸智に長け、目的のためには如何なる手段も問わない。義理も人情も通じない、規律や思想ですら彼女に取っては道具に過ぎない。それで、彼女が単なる目的を達成するための機械人形のような、氷のような精神と鋼のような魂を持っているようなタイプの女性だったなら、まだ良かった。まだ良かったんだ。
【鳴かない雌犬】とは良く言ったものだわ。
敵に回せば地獄、味方となれば悪夢。関わることそのものが絶望。正直、ここまで本気で怖い女はろくにお目にかかった事がない。マジやばいっすよ、このヒト。
こんな女に見込まれてしまったルッツは、ご愁傷さまとしか言えない。どうやら彼のシグへの友情は本物のようだっただけに、尚更辛い。
人にはね、二種類の生き方しかないのよ、ルッツ。
誰かに飼われるか、嫌がって野垂れ死ぬか。

ルッツには友情よりも優先しなければならない事がある。なにより、彼は自分が誰にも飼われず、野垂れ死ぬ事もなく生きることの出来るような人間ではないことを、苦味と共に悟っていた。そんな彼が、もしかして誰にも縛られず自由に生きる事が出来るのではないか、と見込んでいたのが、だからこそ好きだったと呟いたのが、主人公のシグだった。
これまでも、微妙に違和感はあったんですよね。竜の箱庭の生徒とは言え、公安の裏方仕事に言い様に使われている主人公が。決して飼われていることに不平や不満を述べたり、任務に拒否反応を示したりしていたわけじゃなく、ろくでもない汚れ仕事に顔をしかめながらもやるべき事はきっちりやっていたんですよね、シグは。でも、似合わないとはやっぱり感じていたんですよ。シグという人間は、鎖に繋がれ黙々と汚れ仕事に勤しむような人間ではない、と。
だから、彼がルノアの身柄を押さえられて組織の犬であることを強いられようとしたとき、本当にあっさりと、迷う素振りすら見せずに叛旗を翻した時は、まさに意を得たり、という心地になったんですよね。窮屈な鳥かごの中で大人しくしていた猛禽が、ついに広々とした空に羽ばたいて、伸び上がるように翼を広げたような開放感と痛快感が。
そう、やっぱりこの主人公シグ・ヘルケンスには自由がよく似合う。自分の意志で、自分の思うとおりに誰にも縛られず、自分の好きな方へと突き進んでいく姿が。そして、今の彼にはルノアとリアという翼がある。すべてを捨てて、彼女たちと共に舞踏会を踊る事を選んだシグは、眩しいくらいにかっこ良かった。
そして、彼のために生きて、死ぬことを選んだルノアとリアも。いい女ですよ、二人とも。彼女たちもまた、自分を押し殺した男よりも、自由な男の傍に寄り添うのがよく似合う。二人とも、いつか竜王女としての宿命として、どちらかが死ななけれならないことを理解して、その上でそのいつかが訪れる日まで、シグと生きるのだと決意している。本来なら殺し合う敵同士にも関わらず、いつかどちらかが殺されなければならないにも関わらず、ルノアとリアは恋敵としていがみ合い争うのではなく、恋敵としてその時が来るまで張り合い競り合い真っ向から勝負しながら共に生きるのだという友情によって結びついている。その腹の据わった、切なくも清々しい恋の生き様には心の底から惚れそうです。
シャルロッテには可哀想だけれど、リアが言うように役割が違ったんだろうなあ。
バッカねえ、泣いてんじゃないわよシャルロッテ。
あんたは幸せよ。シグが帰ってこれるところがあんただもの。どれだけ遠くにいってもね。人生さ、誰にだって役割がある。あんたはそういう役割。あたしはこういう役割。恨みっこなしよ
自分の思いに開き直って素直になった後のリアの言葉は、嫌味や負の感情がなくって、勝気で言葉の調子はきついのに清々しいくらいで気持ちいいものばかり。可愛らしい事も、自分の身も心もまるごと預けてくれるような大事な言葉も、もう迷わず怖じ気ずにどんどん叩きつけてくるものだから、圧倒されるやらニヤニヤさせられるやら。もう可愛いなあッ!
そして、もう一人のヒロインであるルノアもまた、あらすじで可愛くなった、と言われてるように、もうデレてデレて、ちょっと可愛くなったって、ちょっとどころじゃないでしょうに。もうメロメロじゃないですかっ。最初の頃はツンデレじゃなくて、本気でシグのことを認めておらず未熟者とものたらなそうに付き合ってくれていただけに、このデレっぷりには悶えるしかありません。ちょっとした仕草や反応がやたらめったら女の子らしくなったもんなあ。こちらを伺うような仕草や、フッと距離感が男女のものになる瞬間を彼女の方から意図的に構築してきたり、もう可愛いったらありゃしない。
一緒に生きて、一緒に死ぬには最高の女ですよ、二人とも。シグも、最終的にどちらを選ぶかはともかく、ルノアとリア、この二人の女と最後まで走り抜けることをとうとう決意したわけですし、他の残る竜王女たちが一気に表舞台に現れだしたこともあり、物語は最高潮に盛り上がってきましたよっ。

シリーズ感想