棺姫のチャイカI (富士見ファンタジア文庫)

【棺姫のチャイカ 1】 榊一郎/なまにくATK 富士見ファンタジア文庫

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「働いたら負け」とうそぶくトールは生きる目的を失っていた。目下フェルビスト大陸を義妹アカリと放浪中だが、食い詰めてアカリに罵られ山中で食料を探すことに。そこでトールは棺を担ぐ不思議な少女と出遭う――。
榊さんのやる気ない系主人公というと【スクラップド・プリンセス】や【ストレイト・ジャケット】と筆者の作品の中でも傑作が揃っているので、自然と期待が募る。この人が真面目な主人公を書くと真面目すぎてその内悩み込んだ挙句に陰に篭っていくので、むしろ最初から欝系の方があとは上に登るだけだからなのか、どんどんテンション上がっていくんですよね。って、これはストレイト・ジャケットの方か。すてプリは、パシフィカという陽性のヒロインが最初から最後まで作品のテンションを支えてくれていたので、その意味では主人公の兄貴は楽な立場だったのかも。というか、あの作品はむしろパシフィカの方が主人公だったよなあ。
というわけで、実のところ榊さんの作品では一度、明るい系の女の子がメインの主人公として物語を引っ張る作品が見たいなあと期待してるんですけどね。
話が逸れてしまいましたが、本作も【ストレイト・ジャケット】が終了した後の富士見ファンタジア文庫からの新シリーズということで、なんだかガチで腰を据えて取り掛かっているような気配が事前の情報からも伝わってきていたので、久々に榊さんの原点回帰とも言えるガツンとしたファンタジーが読めるんじゃないかと思っていたのですが、うんうん、最近多かった迂遠な言い回しの多様も少なく、ガッツリと物語を読ませる仕様になっていて、これは期待通りのものが出てまいりましたよ。
ファンタジーの世界観でアンチマテリアルライフルを持ち込んでくるあたりは、デビュー作の【ドラゴンズウィル】を未だに愛読している身とすれば痺れる設定じゃないですか。
しかも、単純に兵装として対物ライフルが存在するのではなく、魔法師の杖がそれというのは、元来機械系を魔法に取り込む事が多かった筆者の作風の中でも大胆な試みだ。単純な装備としての視点に留まらず、戦争における戦術大系に組み込まれているようだし。さらに言うと、弾は物理的な弾丸ではなく、あくまで魔術。そうか、威力によってはライフルを持った狙撃兵としての特性に留まらず、砲兵としての面制圧用の兵科、最終的には戦略兵器としての可能性も秘めているのか。最も、砲兵になれるほどの威力を操れる魔法師は殆ど居なさそうな気配だが。
何にせよ、巨大な機杖を取り回さなければならない以上、単に身体能力が乏しい云々という理由以上に明確にどう考えても近接戦闘が不可能な魔法師が必要としているのは、壁役となる前衛。しかも、狙撃兵としての特性も考えられるわけだから、お互い姿を見せて戦うよりもむしろ自分の居場所を伏せたまま一方的に攻撃を加える方がこれは本来の戦い方なのかもしれない。そうなると、馬鹿正直に剣を掲げて突っ込んでいく騎士様よりも、なるほど不正規戦こそが華というべき「ニンジャ」の方が魔法師とのコンビでは相性がいいのかもしれない。特に、本作のヒロイン、チャイカ・トラバントのようにお尋ね者で追っ手に追われているような立場だと。
むしろ、主人公の側の方が大きな戦争が終わり、ようやく訪れようとしていう平和を乱し、再び戦乱の世をもたらしかねない存在だというのは面白いなあ。特に主人公のトールが、己の存在価値を平和よりも戦乱に求めようとしているあたりは、主人公の在り方としては珍しい。
最も、まだチャイカの目的にしてもかつての大戦の真相にしても色々と謎が多すぎるので、チャイカの立場は今後の展開次第でころっとひっくり返るかもしれないし、トールも性格は善良で泥臭い身の上の割りにはそれほど世間を知っている風ではないので、彼の意識や考え方もチャイカと義妹のアカリとの旅路の中で変わってくるのだろうけど。

それにしても、主人公パーティーはまともなのがいないな(苦笑
ヒロインのチャイカとアカリは完全に変人だよ? いやまあ、一人まともなのが居てしまうと、生きる気力に乏しいトールくんがそのまともな人に判断とか決断とか預けちゃって、何もしなくなる可能性があるので、彼を唯一のまともな思考を持つ人にすることで否応なくヒロイン二人のお相手とフォローをしなきゃならない立場に追い込むというのは正解と言えば正解なのだけどw
それでも、メインヒロイン二人ともが無表情系というのはある意味はっちゃけてるなっ。あいや、チャイカは厳密には無表情系ではないのか。あれは片言系とでも言うのかな。何にせよ、無表情と片言、のわりに二人ともかなり騒がしいのはなんでだ?(笑

とにかく、まだはじまったばかりで謎が増えるばかりだったが、旅ははじまったわけだ。新シリーズ、期待してます。

しかし、この表紙絵はインパクトあるなー。大当たり。