まおゆう魔王勇者 1「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」

【まおゆう魔王勇者 1.「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」】 橙乃ままれ/toi8 エンターブレイン

Amazon


ネットで話題騒然の『まおゆう』が遂に登場!
ネットで最もアツイといわれる物語『まおゆう』が遂に登場!! RPGにありがちな魔王と勇者の対立から始まる物語は、世界全体を巻き込んで大きく動き出します。書籍化にあたり著者による大幅な加筆修正を加え、さらにゲームデザイナー桝田省治が完全監修!
読み終わった今、私はジワジワと湧きあがってくる喜びを噛み締めている。あの日、この物語の原作をウェブ上で目の当たりにしたときの確信が間違っていなかった事への歓喜である。単なる一時の狂騒に、その場限りの熱に浮かされはしゃいだだけの錯誤では無かった事への、一過性の幻でなかった事への喜びである。
あの日感じた想いは、何一つ間違っていなかった。
これまで、多くの傑作と出会ってきた。感動し、涙にくれ、感情をかき乱され、人生すら左右された物語と、これまで幾作も出会ってきた。だが、「自分はこの物語を読むために、本を手に取ってきたのだ」という形の想いに駆られたのは、今までの三十余年の中でたった二作だけである。それがおがきちか氏の【Landreaall】と、この【まおゆう】だ。
この二作は、自分にとってまさか実在するとは思わなかった、理想の終着点なのだ。いや、それ以上に自分が無意識に求め思い描いていた夢物語を遥かに超える形で、自分が出来る想像の範疇を越え、限界点を軽々と飛び越えて、自分ですら知らなかった己が理想の夢のカタチを、震え上がるほど明確に、明快に、具体的に描いてしまった夢にすら成り得なかった夢物語の結晶なのだ。
こんな物語を読んでみたい、漠然と心のなかで思い描いていた理想。それを、思い描いていた形を遥かに遥かに遥かに上回る、そんなもので良かったのかとせせら笑うかのような途方も無いスケールで描かれてしまったのだ。
目の当たりにしたときのあの狂喜と忘我が綯い交ぜになった衝撃を、未だに自分は消化しきれていない。
だからなのだろう。もしかして、あの時受けた衝撃は一気にそれを飲み込んでしまったが故の、思い込みによる勘違いだったのでないか、という不安は尽きなかった。もう一度改めて、書籍となったこの作品を読んだ時、自分は果たしてあの時と同じ感慨を感じ取れるのだろうか、と。もしかして「あれ、こんなものだったのかな」という落胆を得てしまうのではないかと、本当に不安だったのだ。自分がたどり着いてしまった確信が勘違いだったと分かることほど怖いものはない。
でも、それ以上に、それ以上に楽しみで仕方なかった。期待で胸が張り裂けんばかりだった。ウェブ上にある文章をもう一度読み直すのと違って、本になったものを改めて読みなおすというのは、もう一度初めて物語に出会うような新鮮な趣が待っているという事でもある。
改めて、あの物語に出会い直せる。それは、不安が現実のものとなりさえしなければ、あの衝撃をもう一度改めて、新しい形でぶつけられるということ。至福じゃあないですか。こんな至福は無いじゃあないですか。
そして読み終えた今、自分が抱いていた不安など全く杞憂に過ぎなかった事が証明された。あの丘の向こう側を、自分はもう一度新しい気持ちで見ることが出来るのだ。
それが、もうすっごく嬉しい。
本当に嬉しい。

全五巻であることが既に知らされているこのシリーズ。最初に一巻は魔王と勇者が世界のあり方そのものを変えようと手を携えるところから、あのメイド姉の人間宣言までが描かれている。
改めて読み直すと、まだ始まって五分の一に過ぎないこの段階で、魔王と勇者のふたりきりの戦いは既に限界に差し掛かっている事が分かる。勇者が、魔王がどれほど優れていたとしても、二人の力だけで世界の有様を変える事は、現実として難しいという事実が露呈を始めるのだ。同時に、この物語が個人としての勇者と魔王の世界変革の旅から、全く別の次元の階梯へと羽ばたき出す萌芽もまた、既に各所で芽生え始めている。勇者と魔王の撒いた種は、早くもこの一巻で既に芽を出し繋がり始めていたのだ。その先鞭をつけるのが、のちにおいて勇者と魔王を追い越さん形で変革の先頭に立ち次代を切り開いていく青年商人とメイド姉の二人であったというのは、今となっては得心が行く。
未だ物語の顛末を知らない人は心して覚えておいて欲しい。この【まおゆう】という物語が真の姿を見せ始めるのは、まさにあのメイド姉の「人間宣言」からなのだということを。魔王と青年商人の邂逅、そして勇者と青年商人の再会によって垣間見えた丘の向こうの景色は、メイド姉が立ったあの瞬間に、勇者と魔王の二人きりの望んだ夢ではなく、世界に遍く存在する魂もつ存在が目指す果てになった事を。まだ、魔王と勇者、そしてメイド姉を含めて誰も気づいていないし、その胎動は生まれたばかりでただ一瞬冬の国の寒村できらめいた星の瞬きのようなものなのだけれど、でもそこで生まれたものは、彼女の思想という以上に世界を変える意志となって、世界中に伝播していくのだ。
ここで一先ず一巻が終わり、息をつくことになるのは恐らく正解なのだろう。何しろ、ここから始まるものは、ひとえに圧巻としか言えない筆舌しがたいほど凄まじい奔流そのものなのだから。
だが同時に、このまま次に進めない事にこれほど居ても立っても居られない心地にされるとは予想していなかった。毎月刊行ということで、すぐに来月には読めるのだと考えていた自分が馬鹿みたいだ。一ヶ月先がこんなに、こんなに、こんなに遠いなんて。なんで明日じゃないんだ。なんで今日じゃないんだ。うがあああああっ!!
助けて、ドラえもん。

さて、不安に思っていた事と言えば、もう一つあって、いわゆるあの掲示板形式の、桝田監修の言葉を借りれば戯曲風の書式は、本となって読むにあたって大丈夫なんだろうか、ちゃんと話に入り込めるんだろうか、と危惧していたものですけど、これも杞憂でしたね。
これは、作品の揺るぎない面白さと同時に、さりげないながらも書籍化に携わった人の熱意と努力と試行錯誤が垣間見える。思っていた以上に読み易かったですもの。これには、良いお仕事でした、お疲れ様です、ありがとう、という感謝の言葉を贈りたい。
そして、表紙のカバーデザインを手がけているtoi8さん。表紙見たら素晴らしいって、一目でわかりますよね。ちゃんと、本文にも挿絵が何枚かあって、これがまたいいんだ。南氷将軍と女騎士の一騎打ちのシーンなんて、女騎士のカッコイイことカッコイイこと。南氷将軍がああいうモンスターだったのには驚きましたけど。いやあ、あれは予想してなかったけど、なるほどあれこそ南氷将軍だ!
それ以上に、魔王様のあれやこれやの可愛いこと可愛いこと。すっばらしいですよ。
そして極めつけの、人間宣言の時の挿絵。参りました。ほんとに、もう。
文句があるとすれば、それこそもっと枚数見せてくれーー、てなもんくらいですよね。まあ、何枚挿絵があっても、もっともっとと強請りそうなんですが。
希望が多かっただろう地図がきちんとついてたのもありがたかったなあ。まだ南部諸国の地図だけなのですが、いずれ中央や魔界の地図も付随してくるのでしょう。氷の国が思っていたよりもかなり小さかったのには驚いたな。

魔王と勇者が手をたずさえて 暗黒の中世に灯をともす物語
この最高のキャッチフレーズを何度も舌の上で転がしながら。ああ、一ヶ月先がひたすらに待ち遠しい。