花守の竜の叙情詩3 (富士見ファンタジア文庫)

【花守の竜の叙情詩 3】 淡路帆希/フルーツパンチ 富士見ファンタジア文庫

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「テオバルト。愛しているから、あなたを忘れる」
 囚われの王女アマポーラと、王位継承に敗れた王子テオバルト。支配した者とされた者として出会った二人は、長い旅の果てに恋に落ちた。だが運命は、二人が互いに守ろうとする気持ちすら弄ぶ。
 アマポーラのため、テオバルトは人外のものに。そんなテオバルトを救うために、アマポーラは彼の記憶を捨てた。それでもなお平穏は遠く、アマポーラは命を狙われ続ける。懸命に守ろうとするテオバルトだが、彼女はその存在すら拒むのだった……。
 たとえ同じ時間を生きられなくても、たとえすべてを忘れてしまっても、君を守る――。宿命の愛と冒険の三部作、ついに完結!

神とは得てして理不尽な存在だと謳われるけど、この月神はちょっと酷いな(苦笑
神の理において人間を斟酌しない類の理不尽さではなく、単純にやること為すこと理不尽なんですがw 二巻では彼女の事情というのも分かって、ジレーザの取りなしもあったものだからちょっとは同情してたし、ある程度彼女の態度も仕方ないものがあるのかな、とも思ってたんだが、肝心の悪魔の大元キャンディットの視点に立ってみると、諸悪の根源はどう見ても月神じゃないかい! キャンディッドが暴走してしまったのが悪いんだけれど、そうなってしまう前になんとか止められなかったのか、とかいきなり銀竜使って襲わせるのってどうなのよ、とかあれだけ献身的に月神の為に働いてきたのに、これじゃあ裏切られたと思っても仕方ないところがある。
挙句が最後、あれですよ?(苦笑
ラシェルなんて、結構切実に月神に対して心ひらいて貰おうと働きかけてたはずなんだけど、もうなんて言うかねえ、この神様は……。

まあそれでも、神様の身勝手を除けば、物語はおおよそ望むべき最良の結末を迎えたのではないだろうか。アマポーラがテオバルトの記憶を失っただけでなく、それ以上の代償を支払わなければならない状態に陥っていた事が分かったときには、もう呆然としてしまったのですけれど。
ラシェルなんか、ほんと可哀想じゃないですか。彼女なんて、弟の為に銀竜になったようなものなのに、弟が幸せになるように人間である事を捨てたのに、肝心の弟はラシェルを助ける為に彼女の記憶を無くした挙句に、あの結末ですよ。報われないにも程がある。
それでも、彼女は悪魔を狩り続け、人を守り助け続けたのですが、よく心が擦り切れなかったものです。折角助け、親しくなった人たちも次々と老いて去っていく。彼女自身がテオに疲れきったように漏らしたように、もう限界だったのかもしれないなあ。神様も、それが分かっていたから彼女にあんな事をしたのかもしれないけど、でもいきなり放り出すなんて無いと思うんだ、うん(苦笑
それでも、最後には彼女のこれまでの生き方が、放り出されたラシェルを救う事になるのですから、これも一つのハッピーエンド、ということになるんですかね。ある意味、彼女は最後で報われた事になるわけですから。結構楽しそうですしね、新たな人生。あとは、早くいい男見つけろってことで。
と、話がラシェルの方に逸れてしまいましたが、記憶を失った事による弊害と復活したキャンディッドの攻撃によって、災禍に見舞われ続けるアマポーラには、平穏なときは訪れない。彼女の記憶から消えてしまったテオは、彼女の傍に居る事もできず、もっぱらラシェルが傍について守ってくれていたのだけれど……ええっと、正直言っていいですか? ラシェル、全然役に立ってねえ(苦笑 姐さん、幾ら何でも尽く出し抜かれすぎですw
概ね好意から守ってくれているので、テオも文句をいう筋合いはないとグッと我慢してたけど、ちょっとくらいは苦言を呈しても良かったんじゃ、と思うくらいに、ほんとに出し抜かれまくったもんなあ。対応は裏目裏目に出てしまうし。
正直、記憶が失われても二人の絆があれば、記憶なんかすぐもどるんじゃないかと楽観的に構えていたのですが、記憶が戻ろうとする事そのものにあんなトラップが仕込まれていたお陰で、逆に絆がアマポーラを脅かすというまさかの展開。でも、ここでも欠落した記憶に苦しむアマポーラと、それを見ているしか無いテオを救うのは、二人の娘であるエレンなんですよね。
いっそ古典的とすら言えるほど王道な純愛ラブストーリーである本作なんですけれど、その上で独特だったのは、若いふたりの男女の間に、旅路の途中で一人の幼女を娘とする展開でした。エレンのお陰で、テオもアマポーラもお互いへの愛だけに没頭するのではなく、父親として母親としての意識を持ち、愛した人の他にもう一人掛け替えの無い守るべきものを得るわけです。そして、その守るべきものこそが結果的に、運命に引き裂かれてすれ違い続ける二人を絶望させず、支え続ける事になり、離れ離れになっていく二人の間にたって繋ぎ止める役割を果す事になるわけです。
エレンは一巻ではアマポーラとテオの人間としての在り方を変えて二人に愛を芽生えさせ、二巻ではアマポーラの心を支え続け、そしてこの三巻では心交わることの出来ない二人の間を健気に立ち回り、本来なら離れ離れとなるしかなかった二人を繋ぎ止め、再び結びつけたのですから、このわずか5歳にもならない幼女が成した偉業のなんと大きいことか。
アマポーラの「あなた」という呼びかけの台詞なんて、ねえ。王女と王子のラブストーリーだったら、多分出てきませんでしたよ。あらゆる意味において、この物語で一番活躍したのはエレンで間違いないんでしょう。イイ子ですよ、健気で献身的で聡明で。
この子は羊飼いの娘もいいけれど、王城にはちょうど近い年頃の賢そうで優しげな王子様が居ましたし、見初めてくれませんかねえ。

兄への歪んだ愛情と憎しみによって狂い、闇に落ち、悪魔に身を捧げてしまったテオの妹ロゼリー。救われなかった彼女の顛末にも、きっちりと手を差し伸べてくれたのは良かったなあ。本当にハッピーエンドを迎えるには、彼女の魂を救ってやることが必要条件でしたしね。でないと、テオもアマポーラも心晴れなかったでしょう。それに、テオたちに無理やり助けられるという形ではなく、アマポーラの愛の形を目のあたりにすることで、ロゼリーが自分から過ちに気づき、純粋な兄への想いを取り戻すという形も、本当の意味でロゼリーを、そしてテオを救う事になったように思います。救いとは、押し付けるものではなく、自分で掴むもののはずだから。

一巻における、哀しくも美しい結末もまた素晴らしく、あのまま終わっても良かったと思うのです。正直、続きが出ると決まったとき、あそこで終わっておけばよかったのに、という声はあったと思います。私も、思いました。その分、ハードルは随分高かったはず。
ですが、完結を読み終えた今となっては、少なくともあれで終わっておけばよかった、などとは口が裂けても言えません。見事にハードルを越えてみせてくれたと思います。まさに堂々とした完全にやるべきをやりきった渾身のハッピーエンドでした。
素晴らしい、美しいお伽噺のようなラブストーリーでした。
良かったよー。

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