彼女は戦争妖精7 (ファミ通文庫)

【彼女は戦争妖精 7】 嬉野秋彦/フルーツポンチ ファミ通文庫

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信じあえるこの手を離さないように。

イソウドの奸計によりペルスヴァルを倒した伊織たち。その数日後、伊織はクリスと、そして偽書の一件で薬子と袂を分かった常葉とリリオーヌとともに、母方の曾祖母の住む岩手へ旅立つ。しかし執拗なまでに伊織を狙うイソウドの刺客が彼らに迫っていた──! 一方ふたりの不在を怪しむさつきとルテティア、薬子の真意を問いただす頼通はこの戦いの終局を考えはじめ、"吟遊詩人"たちにも最終局面を予感させる出来事が……! 佳境を迎えるシリーズ第7巻!
もしかして、鳳月くんと麗芳もヤッてたんかもしれんな、あれ……。
正直、今回の展開には驚かされた。前の感想でも書いたように、伊織と常葉の関係は決定的な変化を見た、とは考えていたけれど、事実はこちらの想像を上回っていた。二人の意識が変わったとしても、それが行動としてお互いに対して示されるか、それ以前にまず自分の中で消化出来るのか、という点において私は疑問を抱いていたのである。言わば、この巻においてようやく二人の中で変化が定着する、その経過が描かれるものだと思っていた。ところが、事実はそんな悠長な流れでは進まなかった。当然かも知れない。伊織も常葉も、いつ命を奪われても仕方がない戦いの中に身を置いているのだ。明日をも知れない身なのだ。大きな味方であった薬子先生と訣別してしまった以上、頼るべき味方もいなくなった。伊織の精神が密かに限界を迎えていたように、彼らはとうの昔に常在戦場を強制させられている状態だったのだ。悠長に、恋愛ゲームを楽しんでいる余裕など、何処にもアリはしなかったのだ。やはりさつきは何も理解していなかったと言っていい。恋の駆け引きなどして遊んでいる余裕など、最初から何処にもなかったというのに、彼女だけは最初から最後まで何も理解していなかった。だから、自分から伊織たちの世界に飛び込んできたというのに、パートナーであるルテティアからすらも戦力外通告を受け、すべてから置いてけぼりにされようとしている。自業自得だ。
そして、渦中にある伊織と常葉は、一度視界が開ければ一途だった、そういう事なのだろう。二人とも、本来は決して恋愛に対して積極的な性格ではない。むしろ奥手で、鈍く、迂遠であったはずだ。特に常葉は随分残酷な失恋をしてから間が経っておらず、誰かに恋をするなどという事に対して強烈な罪悪感が伴っていたはずなのだ。その理由の全てを知っている伊織もまた、彼女を異性として見る事にブレーキが掛かっていたはずである。
それなのに、彼らが一度堰が切られたあと、躊躇いも後悔も駆け引きに興じる間も惜しむようにお互いを求めたのは、それだけいつ命が失われても、ロードでなくなり関連するすべての記憶が奪われる可能性を強く感じていたからなのだろう。
二人が結ばれた事は、むしろ前巻の伊織の絶望感を垣間見た時よりもこの戦いの過酷さを目の当たりにさせられたような気にさせられた。
に、しても。キスだけで終わらなかったとはなあ。伊織もちゃんと年頃の男の子だったんだなあ。これまで見せていた彼の常葉に対する特別な態度が、単なる自分の勘違いでなかったのにはちょっと安心した。伊織はなかなか内心が読みにくい主人公くんだったので、間違いないと思いつつも絶対の自信はなかったんだよなあ。
しかし、そうかー、常葉先輩にほんとに行ってしまうとはなあ。常葉先輩が登場したときは、まさかメインヒロインの座に収まるとは思わなかったんですよね。伊織がある特定の女性と結ばれる可能性が、あの当時はあまり感じられなかったし、そもそも常葉先輩のキャラクター像ってフォーマルなスタイルだとどうしても3番手から4番手のヒロインとして位置づけられるキャラっぽかったんですよね。先輩であり凛々しい剣道少女であり、同性に人気の王子様タイプ。しかも、最初は主人公と面識も無し。ヒロインとして一定の人気は確保するものの、なかなかメインヒロインにはなりにくいキャラクターなのではないでしょうか。それがこんな形で収まってしまうとは、驚きとともに元々常葉派だった身からすると、やっぱり嬉しい。
とはいえ、喜んでばかりも居られない。どうやったって、この話の展開からして結ばれてしまうというのはそれだけで死亡フラグですもの。正直、後半はハラハラしっぱなしでしたがな。辛うじて最初の山場は乗り越えられたものの、それで死亡フラグを潰したわけでもなく、まだまだ危険は幾らでもあるわけで、胃が痛いです。

伊織と常葉の関係の変化以外にも、前巻から引き続き物語は激動を続けている。吟遊詩人たちの正体こそまだ不明なものの、その出自は明らかになりましたしね。自分、あれらは妖精の変化したものだと思い込んでいたんだが、まさかそっちだったとはなあ。その発想はなかった。
そして、もうひとつの一線を越えてしまった伊織。常葉の覚悟といい、いつの間にかこの【彼女は戦争妖精】という作品、とてつもないハードな物語になってしまってたんだなあ。

常葉と決定的な訣別をしてしまった薬子先生の本当の目論見も見えないまま。どうやら頼道叔父さんは、ほぼ確信しているみたいだけど……。この二人の関係も、なんか思ってた以上に複雑だった。オトナになる前の若かりし頃の関係というのは、そのままでは居られないのかねえ。人間、大人になんかいつまで経ってもなれないし、変われないものなのに、人間関係だけはそのままじゃ居られない。もしかしたら、普通の恋人になり得ていたかもしれない二人。肉体関係もあったというけれど、彼らの場合頼道叔父さんの話からして、時期がまずかったみたいだし。
もとの関係には戻れない。お互いに懐いている気持もあの頃とは違う。それはもう、恋でも愛でもないのだろう。それでも、何かしらの想いはお互いの間に割り切れない何かとして交錯しているはずなんですよね。でないと、二人の話し合いが決裂したあと、頼道も薬子もあんな風に沈んだ姿を見せる事もないでしょうし。

儘ならないものだなあ。

嬉野秋彦作品感想