ミスマルカ興国物語 VIII (角川スニーカー文庫)

【ミスマルカ興国物語 8】 林トモアキ/ともぞ 角川スニーカー文庫

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敗北から1年。マヒロは帝国領となったミスマルカ統治に協力をしていた。指示のまま仕事をこなす姿にかつての精彩はなく、肩すかしを感じるルナス。そんな時、帝国に反抗するペルーナ城攻略の指令がマヒロに下る!


あれあれ? マヒロが何か魂抜けちゃってますよ? ありゃりゃ、まさかこんな体たらくになるとは。マヒロがこのありさまだと、前巻の感想記事で分かった風に書いた内容が丸っきり的外れ、という間抜けな話になってしまうんですが(苦笑
てっきり、ラヒル王の死とミスカルカの失陥はマヒロの蛇としての資質を開花させる劇薬になると思ってたんだが、どうやらマヒロという人物の中身は本人が思っていたのとは、あるいは信じたがっていたものとは違って、まともであり普通であったようだ。確かに、マヒロという人はある種の異常者であるのは間違いないんだけれど、このシリーズがはじまった当初から彼が示そうとしていた根底から最初から在り方が狂っている異常者ではなく、まず常識的な情理を踏まえた上でそこから意識的に逸脱する事が出来る、というタイプである。それは、巻を重ねるごとに徐々に化けの皮が剥がれるように露呈してきた所であり、同時にそのポイントこそがマヒロの限界を示し始めていたんですよね。
だからこそ、7巻のクライマックスの展開はマヒロのブレイクスルーになるのだと思っていたのですが……どうやらマヒロは怪物になるのではなく、あくまで人として道を歩む流れに乗ったようだ。
まだ、辛うじて眠っていた蛇が目覚めたばかりでマヒロがどのような形で復活を果たしたのか判断し辛いところがあるのだけれど、今回の一件だけ見るとむしろ彼に言動にあった陰や歪みが拭い去られていたような感触すらある。以前の彼は、もっと人でなしたらんとしていた気がするんですよね。そういう、悪人になろうなろうと無理していた所が無くなったような。
まだこれからのマヒロの動向を見ないとはっきりとは言えないけど、このまま行くならマヒロは自分が想像していたのとは全く逆の方向から伸びていきそうだ。

思っていたのとは違うところはもうひとつある。ルナス姫の、マヒロへの執着の種類である。自分は、ルナスのマヒロへの関心というのは、マヒロの「蛇」としての部分に集約されていて、マヒロという「男性」にはそれほど興味ないのかと思ってたんですよね。それが、牙も毒も抜けてしまいすっかり大人しくなってしまったマヒロにあれだけ未練がましく拘り続けたのはかなり意外だったんですよ。マヒロが期待を裏切ってしまった以上、もっとあっさりと興味も関心も失ってしまうものだと思っていたのです。それが、引きずる引きずる(笑
その上、もうマヒロが元の「蛇」に戻らないと判断し、ついに諦め、見限ったその後も、ルナスはマヒロの事をほんとに気遣い、心配して、姉から庇おうとすらしているのを見て、ああこりゃルナス、マヒロの事マジだったんだな、と思ったんですよね。いつの間にか、彼の才能を愛するのではなく、マヒロ個人の事を好きになってたんだな、と。その好きが、果たして恋愛感情の好きにまで至っているかはちょっと断言しにくいんですけど、でも大事にしようとしているのは伝わってきたわけで。
そうなると、マヒロが以前のキレ味たっぷりの顔を見せた時の喜びようも違って見えてくるわけで……かわいいなあ。なんですか、ルナス姫、きちんとヒロインしてるじゃないですか(笑

一方で旧ヒロインだった人、パリエルさんというと、この娘はいろいろとしがらみやら何やらから解き放たれたせいか、随分とタフになったというか、精神的に大雑把になったというか、ウジウジしなくなったよなあ。なんか、かつての鈴蘭嬢の変化がダブって見えるw
彼女とマヒロの関係って、もともと色っぽい事は何もなかったからなあ。どちらかというと、共犯関係みたいな特殊な間柄だったんですよね。だから、こうやって一度離れると随分とサバサバした関係になってるみたいだ。これも、一つの友人としての形なのかしらねえ。

こうして国際情勢を仕切り直しして見てみると、現段階でマヒロはもう帝国に対して敵対する意味がなくなっちゃってるんですよね。私怨らしい私怨ももう無いみたいだし、中原諸国も帝国の支配下におかれ、少なくとも占領統治は反乱が起きかねないような圧政にもならず、うまくいっている。
最後にマヒロが自問しているように、前巻のシャルロッテの勧誘に乗った形になってるんですよね。やや時間は掛かったもの、シャルロッテの思惑はここに叶ったわけだ。それも、どうやら私が考えていたよりも、マヒロの危うさが減じた形で。お姫様にとっちゃ願ったりかなったり、か。
さて、肝心の魔王の正体がまだまったく不明なんですよね。次こそ、本番か。

林トモアキ作品感想