薔薇のマリア  15.愛も憎しみも絶望も (角川スニーカー文庫)

【薔薇のマリア 15.愛も憎しみも絶望も】 十文字青/BUNBUN 角川スニーカー文庫

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浮かれている場合じゃない!!!!!
恋とかいろいろあるけれど、謎の逃亡者ハニーメリー登場でZOOに押し寄せる大災厄!!

「あたしは“ハニーメリー”。ハニーでいい」
あー、もう――寝てたのに、寝てたのに。マリアローズの眠りを妨げたのは、輝く瞳の女(ハニー)。マリアはすぐにこの女が厄介事の種だと直感する。女は禁じられた技術に手を出して、組織から追われる機術師(メカニスタ)――背を伸ばし、髪と瞳の色を変え、利き腕も変えて逃亡者として生きてきた。マリアに満ちる嫌な予感……。
風雲急を告げるエルデンで、蛍光緑(ルミナスグリーン)のハニーとの出会いがZOOを新たな運命に誘う!!

皮肉な話だ。生きている実感を手に入れたからこそ、自分が今ここにいるのだと実感したからこそ、生きることに疲れを覚えるとは。
悠久の時を生きてきたトマトクン。彼がマリアに語ったのは、今のZOOの仲間たちと出会った事でようやく得られた生きているという実感。彼らのためには死んだっていい、彼らがいるからこそ死にたくない、そんな自分が今ここに居るのだという実感。
だけれど、自分が今まで存在してきた中ですれ違ってきた多くの人々のコピーとも出来そこないとも言える人形たちと遭遇し、自分が此処に到るまでに積み上げてきた血塗られた迷走の道を突きつけられた時、彼がこぼした「疲れた」という言葉に、胸が締め付けられる。
そして、生に膿もうとしているのは彼だけではない。不死の存在となり、超越者として時代の表と裏を歩んできた他の存在たちも、そう例えばあの「SIX」もそうなのだろう。暴虐を尽くした果てに彼はついに死なない自分に疲れはててしまったが故に自らを檻へと閉じ込めた。そして今回登場した
リルコにも、また同じ匂いを嗅いだ。憎まれることに慣れきってしまったという言葉の裏に垣間見える疲労感。トマトクンへの複雑に入り組んだ感情は、あるいは彼女の拠り所なのだろうか。
マリアをはじめとした多くの登場人物たちが閉塞の壁をブレイクスルーし、今の生を謳歌しようとし始めているのとは対照的に、あるいは並べて比べるかのように彼ら超越者の膿みは沈殿していく。その行先は、狂気へと繋がっていくのだろうか。ZOOという休息にして救済である場所を手に入れたtマトクンと違い、他人の手を借りようやく止まる事のできたSIXと違い、リルコやあのルイには歯止めというものが無くなっているように見える。そして、その歯止めのない狂気は今を生きているエルデンの人々をまさに戦争という形で飲み込もうとしているわけだ。
リルコの襲撃はその端緒であり狼煙であり、トマトクン不在の中で手も足も出ず為すすべなく壊滅してしまったZOOの有様は、そのまま超越者という存在の脅威を教え、それと立ち向かわなければならない困難さを指し示しているようにも伺える。その、圧倒的にして絶望的な差を。
なんだかんだと、とんでもない事件や敵を相手取りながら全員無事に強かに戦い抜いてきたZOOの面々が、あんなふうに為すすべ無く壊滅していくさまは、正直かなり衝撃的だった。リルコって、確かに目茶苦茶強いんですけど、決して神憑ってるわけでもどうやっても太刀打ち出来ない無敵っぷりを見せてるわけでもないんですよね。存在自体が絶望的な相手じゃなかった。だからこそ、あの手も足も出ずに一人ひとりズタズタに倒されていく戦闘は、余計に圧巻であり、読んでいるだけで息苦しく、自信や余裕、身につけている鎧をかたっぱしからひっペがされていくような絶望感が伝わってきた。
酷い戦いだった。
そして、これから彼らを待ち受けている戦争は、最終幕はそれこそそんな戦いの連続なのだろう。
まさに、クライマックスの幕開けにふわさしい、目の前に広がってた幸せな未来をボロボロにされるという途方も無い危機感と切迫感を注ぎ込まれる、最上にして最良の前振りだったと言っていいんでないだろうか。
こっから、最後まで突っ走って行ってくれる、そんな実感を味わわせてくれた巻でした。

新キャラのハニーメリーは、淡々飄々としているわりに好奇心を抑えきれないマイペース人間という今までに見なかったキャラで、面白かったなあ。ルーシーの時よりもはっきりすんなりとZOOに馴染んだ気がするのは私だけだろうか。まだ仲間はみんな戸惑ってる感じだけど、この娘はZOOに良く似あってますよ。まさか、みんなのタブーだったマリアの身体の秘密に、あんなに無造作かつ大胆に踏み込んでいくとは。普段ならぶち切れて突き放すマリアがタジタジですよw
でも、やっぱりマリアの体格は男性としてはあり得ないものなのか。どうやら、マリアにも超越者に関する秘密が本人も知らないうちにあるみたいだし。ああ、アジアンに対する態度は私も酷いと思うぞ。あの鬱陶しい男が可哀想と思ったのははじめてだ(笑
だいたい、あのイカレた態度がどう接していいかわからない単なる照れ隠しだと気づいているのなら、もうちょっと優しくしてやれよう。
あと、最近ピンプの半魚人に対する態度やツッコミが容赦なくなってるんですが。あの純朴だったピンプが、優しいピンプが、容赦ない罵詈を……。ぴ、ピンパーネルさん、もしかしてリア充嫌いだったりしますか?(爆笑

十文字青作品感想