とある飛空士への恋歌 5 (ガガガ文庫)

【とある飛空士への恋歌 5】 犬村小六/森沢晴行 ガガガ文庫

Amazon


イスラとの休戦交渉の座に就いた空の一族の要求は、風呼びの少女ニナ・ヴィエントの身柄だった。イグナシオの取りなしにより機会を得たカルエルは、出立の日、想いの丈を彼女にぶつける。「このまま逃げよう、クレア。ふたりで。空の果てまで──」かつての力を取り戻し、愛すべき人を救った風呼びの少女。革命によりすべてを失い、追放劇の果てにかけがえのない生を得た元皇子。ふたりの選ぶ道、未来は……!? そしてイスラは「空の果て」にたどり着く。すべての謎が解き明かされる! 超弩級スカイ・オペラ「恋歌」、感動のフィナーレ!!


切ない、もう無茶苦茶切ない。胸が締め付けられて泣きそうだ。

―― 歌えない恋の歌もある。

結局これって、第一作の【とある飛行士への追憶】と同じく、叶わぬ恋の物語こそが本質だったんだなあ。最後の最後になってこの物語の主軸が共鳴したのは、主人公のカルエルでもクレアでもなく、二人の劇的すぎるラブロマンスを見送るアリエルの切ない失恋だったのですから。
確かに、奪われたニナことクレアを取り戻すためにカルエルが見せた頑張りは素晴らしいものでしたけど、最後に読んでるこっちの感情を鷲掴みに、握りつぶして離してくれなかったのは、そんなカルエルをずっと傍で見続け、一人置き去りにされて遠い空へと遠ざかっていく彼を見送るアリエルだったわけで。

さよなら、わたしの王子さま。

思えば革命で王宮を追われ、下町に逃げ延びたカルをずっと支え続けたのはアリエルでした。姉として妹として、常に心に傷を抱えたカルエルを守り導いたのは彼女でした。カルエルをカルエルにしたのは、ミハエルの親父さんである以上に、アリエルだったのです。
確かに、仇敵であったニナとカルがお互いの正体を知らずに恋をして、やがて結ばれるというロマンスは劇的で美しい話でありますけど、その陰で十年越しの思いを胸に秘めたまま風化させていくことを決意したアリエルの哀しみがあるのを忘れてほしくない。報われない恋があった事を覚えていて欲しい。

結果だけ見れば、これ以上ない華やかなハッピーエンドなのですが、旅の終わりに消え去ったイスラといい、アリエルの想いといい、むしろここで描かれたのは消え行くもの、失われ行くもの、喪失の美しさと切なさだったように思える。先の戦いで、死んでいった友人たちもその中のひとつ。
そうした失われたもの、かなわなかったもの、犠牲になったもの。それを踏まえてこそその先があるのだと、切々と語っているかのようだ。
私にとっては、【とある飛行士への追憶】と同じく、哀切たる幸福の物語としての閉幕を迎えた作品でした。