夢の上〈2〉紅輝晶・黄輝晶 (C・NOVELSファンタジア)

【夢の上 2.紅輝晶・黄輝晶】 多崎礼/天野英 C・NOVELSファンタジア

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眼前で解かれる夢の結晶。誰よりも激しい夢に身を焦がした『復讐者の遺言』、そして夢見ることを恐れた男が辿り着いた『夢の果て』----夜の王が呟く。叶わぬ夢はどこに行くのだろう、と。
てっきり、新しいキャラクターが出てきて語り部をつとめるのかと思っていたんだが、これ徹底してこの時代の歴史のうねりを様々な人の視点から描こうというのか。同じ事件でも、それぞれの人の立場によって見ている光景はまるで違う上に、一巻の二人の語り部の視点では何が起こっていたのかわからなかった部分、その時各々がどんな思いを抱いていたのかが次々と明らかになっていく。様々な事実と真実が交錯し、多くの想いが時にすれ違い、時に結びついて結実していく。一話一話でも充実した物語が、凄まじい濃度となって熟成していく。
これは群像劇と呼ばれるジャンルの作品なのかも知れないけれど、こんなにも同じ時間と空間を多様な視点から詳らかにし、人々の切なる想いをくり返しくり返し塗り重ねていく物語があっただろうか。
息を飲むような濃密さである。
紅輝晶の夢の主は、愛する人と家族と故郷を光神王に奪われた一人の女性の復讐者。そう、あのイスガータが自身の人生をねじ曲げてまで助けようとした人。アイラスの母、ハウファの物語。そして、黄輝晶はシアラの姿を通して自分の夢を見つけた影憑きダカールの物語。
特にハウファの物語は、光神王という存在の謎と時空晶が浮かび太陽を覆い隠しているこの国の謎と真実に迫る話であり、アイラスが王城から逃亡しなければならなかった理由とともに、一巻ではまだ不鮮明だったこの物語の全容が概ね明らかになったという意味で、とても重要な話だった。
ハウファが凍れるような復讐の炎を滾らせるに至った想い人との真相には、最後の最後までまったく気づきもしていなかっただけに、驚かされたなあ。てっきり、あの女性は亡くなった彼の母親だった、というオチを夢想していただけに、愕然とさせられましたよ。
復讐は何も産まない虚しい行為だ、と少年漫画や朝のアニメなんかだと諭されるのでしょうが、それを彼女の復讐に宛てがうのはやはり的外れでしょう。彼女の呪いは、復讐の炎は、すべてを滅ぼす破壊ではなく、闇に光を灯し、希望を生み出し、次代に続く明日を紡いだ、気高くも誇るべき復讐となりました。道半ばで旅を終えた彼女ですけれど、この人もまた、翠輝晶で語られたあの夫婦と同じように最期まで生き切った人でした。
それでも、彼女を掴めなかったツェドカにとっては、痛恨だったのでしょうけど。愛は与えるものだと、この物語では常に語られ、実践され続けている。でも、ツェドカは愛する人に何も出来なかったんですよね。それはどんなに辛いことだろう。結ばれない運命であっても、愛を捧げ愛を与えることは出来るだろうが、既に亡き人にどうやって愛を捧げればいいのか。
それこそが、次の三巻。光輝晶と闇輝晶の夢で語られる二人の王子の物語なのかもしれないが。
最後にこの二人が持ってこられるということは、やはり一番の主役たるのはアイラスとツェドカだったのかなあ。
問題は、幕間で語り合う夢売りと王がそれぞれ誰と誰なのか。どうもこれ、一見して思い描く人と実際が巧妙にずらされてる気がするんだよなあ。多崎さんには【煌夜祭】でも【<本の姫>は謳う】でも、予想だにせぬ心地良い驚愕を戴いているので、今回もその辺大いに期待しております。

1巻感想