封殺鬼 帝都万葉 (ルルル文庫)

【封殺鬼 帝都万葉】 霜島ケイ/也 ルルル文庫

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「鵺」の事件から1年。東京で邪気に憑かれる者が続出し、桐子とふたりの鬼が調査を開始する。志郎が知り合いから譲り受けた黒い気配をまとう簪が、事件解明の鍵になるかもしれない。簪にまつわる因縁をたどる桐子たちの前に、謎の虚無僧が出現して…。待望のシリーズ最新刊。桐子と志郎の関係にも、ついに変化が訪れる!?
来た、来ましたよ、鵺子ドリ鳴イタの続編。続きを見てみたいと思いつつも、逆に続きを見るのが怖いという気持ちがあったシリーズですが、いざ読めるとなるとやはり嬉しい。鵺子ドリ鳴イタのラストに二人が結婚するという記述があったので、もしかしたらあそこで話を締める事もあるのではと勘ぐっていたんですけどね。どうやら、桐子と志郎の物語、最後まで書き切るつもりの御様子。ならば、最後まで見守るしかあるまいて。
今回の話は闇の世界のそのまた奥底を除くようなダークなお話とは少し違って、この世に未練を残した幽霊も絡んでの、桐子に恋とはなんぞや、異性を想い焦がれるとはなんぞやと教授するかのような、ちょっとポップなラブコメモード。暗く切ない幽幻の空気感を自在に扱う作家として印象の強い霜島さんですが、これでノリの良い、惚けたコメディタッチの話も抜群に上手い人なんですよね。古いけど【琥珀のティトラ】シリーズなんか明るく突っ走る作品で好きだったなあ。
と、話を戻して今回はこれまでの桐子の物語の中では頭ひとつ抜けて穏やかで、淡い人の想いが優しく交錯するお話でした。お陰で桐子も神島当主として、闇の秩序を司る長としての振る舞いに終始する事もなく、自然と年頃の女の子としての顔がこれまでよりも前面に出ていたような気がします……って、これまでよりもって、これまでなんかそんな少女の顔なんか滅多に表に出てこなかったのに、凄く変わったな、桐子。彼女がそういう顔を見せるのって、本当に心を許した僅かな人の前だけだったのに。それも、彼女自身が意図して緩めて垣間見えるのではなく、もはや金型のように固まった神島当主としての在り方の隙間から、一瞬零れ落ちる、とでも言うかのような僅かなものだったのに。
桐子が、普通の女の子みたいだ。
その事実が、結構な勢いでショックだった。
それ以上に、桐子と志郎がこんなにも当たり前の情熱で恋心を育んでいた事がショックだった。自分、二人の関係ってもっと熟成して落ち着いた愛情によって成立していくものなのだと思い込んでたんですよね。こんなにも熱に浮かされたような、初々しくも情熱的な想いが交錯しているなんて。桐子はもっと恋愛に対してはクールだと思ってたし、志郎だって、あんな浮世離れして俗世から乖離してるような執着心とは程遠い性格をしてたのに。
桐子も、志郎も、そんなにお互いの事、好きだったのか。当たり前の恋人のように、相手に夢中だったのか。
……ヤバいなあ。
二人のやりとりって、もう傍から見てるだけでホッペタが緩みっぱなしで、甘甘の糖分過多で、ニヤニヤしっぱなしなんですが、だからこそ……泣きそうになってくる。
多分、恐らく、きっと、昭和6年、今この時こそが、桐子と志郎にとって思い返すだけで幸せで胸が一杯になる思い出で成り立った、最良の時間だったのだろう。
異界のお堀で逢瀬し、猫叉と戯れ、志郎を引っ張りまわして資生堂パーラーでアイスを頬張り、銀ブラを楽しみ、可笑しな幽霊の願いを叶えるために帝都中を連れ立って歩きまわる。立場も柵も介在せず、想いの綱引きもまだ生まれていない、ただ手を繋ぐだけのような心だけが浮き立つ時間。人を好きになるという今を噛み締めるだけで良かった時間。
折しも志郎が予感しているように、きっと今この時が二人にとって何の憂いもなく満ち満ちて居られた時間だったのだろう。
まったく、この二人がこんなにも当たり前に強く恋しあっていた事に、こんなにショックを受けるとは思わなかった。
未来で、桐子が吐く事になるあの言葉の重み、痛みが全然違って見えてくるじゃないか。どんな思いで、彼女があの言葉を呟いたのか、想像するだけで泣きそうになってくる。
ああ、聖と弓生はもう千年も、こんな光景を見続けてきたのか。二人の抱える孤独と絶望が、今さらのように実感できた気がする。いや、この二人が生きた長い人生の中でも、桐子と志郎のように親しんだ人たちは殆ど居なかったようだから、その痛みは想像するに余りある。封殺鬼シリーズで、病床にあって特に目立った活躍のなかった隆仁がどこか特別な扱われ方をしていたのは、聖たちが神島から離れること無くあの人にこだわり続けた理由がようやくわかった気がする。

と、ついつい悄然としてしまうのはこちらの勝手で、繰り返しますが今回のお話は最後まで明るいです。勿論、伝奇小説らしいおどろおどろしい話も、関東大震災の地獄とその後処理の話などで触れられていますが、音吉姐さんと嘉助のおっちゃんという幽霊二人組が、お前ら幽霊のくせに存在感ありすぎ! という明るいキャラクターで、相変わらず脳天気な聖と合わせて今回の話の明るさを支えてくれてました。二人とも、死んだ理由からしてアレだもんなあ(苦笑
幽霊の恋の未練というと、随分とドロドロとした話になりそうでしたけど、音吉姐さんの抱えていた未練は幽霊としては場違いなほどに粋なもので、その解決は爽やかで清涼感のある清々しいものでしたし。恋を知らない桐子の良い相談役として、明後日の方向に行ってしまいそうな桐子をきちんと正しい恋する女の子の道へと導いてくれたことからも、ある意味半端ない重要なキャラだったのかも。桐子には聖や弓生のような兄貴分の保護者は居ても、また母替わりとなってくれる人は居ても、同性の年上の姉的な人ってこれまで皆無でしたからね。一期一会とは言え、桐子には良い影響になったんじゃないでしょうか。

ああ、やっぱり無茶苦茶可愛いなあ、桐子様。先々の切なさなど吹っ飛ばすくらいに、今の桐子様は可愛らしい。最後の志郎とのやりとりの時の彼女など、仕草の隅々まで反則レベルである。
巻末の掌編【夢見月】も、素敵極まってます。もう、でたらめにかわいいなあっ!


霜島ケイ作品感想