子ひつじは迷わない  回るひつじが2ひき (角川スニーカー文庫)

【子ひつじは迷わない 回るひつじが2ひき】 玩具堂/籠目 角川スニーカー文庫


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またまた『御悩相談千客万来 不迷羊会』!
生徒の悩みを解決に導くなるたまたち「子ひつじの会」の前に現れたのは、なんとメイド姿の女の子! オムライスをめぐるナゾに、仙波はいつも以上に乗り気じゃなくて――!?

うわぁっ、なにこれ無茶苦茶面白いッ! 面白い面白い面白い!!
相変わらず話がベラボウに上手い上に、物語としての柔軟性、発展性が桁違いに高くて余裕たっぷりなんですよね。個々のキャラクターの掘り下げに関しても、直裁的に主要登場人物の内面を掘り下げていくダイレクトアタックではなく、ふんだんに判断材料となる言動を提示することによって読み手側に論理的かつ感覚的にその人となりや考え方、そして事件を通じて生まれる変化を捉えさせるかのようなやり方をとっていて、実に心憎い。据え膳置かれるんじゃなく、自分で考え掴みとる事から得られる読者としての快感を実に心得ていると言える。その点では、第一話での国語の問題の意図は、この作品にも一部当てはめられるのかもしれないなあ。
何にせよ、エンタテインメント作品としても青春劇としてもラブコメとしても、殆どこれ「完璧」と言っていいんじゃないでしょうか。それも、終着点としての完璧ではなく、さらにバージョンアップの過程にあるにも関わらずの「完璧」。
いやあ、デビュー作の一作目もこれは大した作品だと感じましたけど、二作目読んで確信しました。これ、ホンモノだ。

これも一作目で感じた事だけど、議事録における注釈によるボケツッコミが素晴らしすぎて気絶しそう。もう、どうしたらいいんだってくらいに絶妙な間合いなんですよね。
一話の国語の問題は、これ生徒が作った問題としては破格ですよね。難易度の問題じゃなくて、解答に至る過程の発想の機智がまた並外れてる。さらに面白いのが、問題の解答の出し方のさらに上位に秘められていた出題者が解答者に出した本当の正解。これが明かされた時には思わず喝采をあげました。
しかしこの問題、最初は現国だとは思わなかった。てっきり、歴史か文学の問題かと思ってあれ? と思ったんですよね。この答えって、三国志の知識がある程度あったら答えられそうなものばかりだったし。固有名詞らしいのは倉舒くらいしか出てなかったですもんね。呉の孫うんたあという名詞で場所と時代とはわかりそうなものだけど。

二話の謎のウェイトレスがもたらした、オムライス死体遺棄事件もまた絶妙なお話で。オムライスが日替わりランチで出される日に限って、店の路地裏に捨てられる小動物や虫の死骸の謎。ウェイトレスが最初に供出してくれた情報で、おおよそ犯人は推察できるのですが、なぜオムライスが出される日に限って、その場所に死骸が捨てられるのか。その真相に到るまでの過程が、最初に提示された関係者、容疑者などの情報でパタパタとドミノが倒れるみたいに明らかになっていくのは、痛快にして爽快の一言。鮮やかなものである。この辺、一話でもそうだったけど、日常系ミステリーとしても見事な出来栄えなんじゃないだろうか。って、元々日常系ミステリーだったっけか、これ。仙波は典型的な安楽椅子探偵ですしね、というような話は前巻の感想でも触れてたっけ。

そして極めつけの第三話。
洞庭神君の竜王の娘を娶って神仙に登ったという経歴って、銭塘君関連を調べてた時に観た話で何か聞いたことあるなあ、と思って調べたらそのまま銭塘君の姪っ子夫婦の伝承だった。ただ、その後の銭塘君の姪っ子を娶って洞庭湖を継いだあとの柳毅は知らなかったんですよね。なるほどなあ、そんな事になってたんだ。
自分でも儘ならない、自分が律する正しさと自分を満たす充足との齟齬。青春をこじらせてるとかそんな話じゃなくて、これは若者だろうと大人だろうと多かれ少なかれ抱えている自己矛盾であり、その擦り合わせや正解はやはり多かれ少なかれ自分自身で結論付けないといけない話だと思うんですよね。それを意図的に誘導しようとするなるたまは小賢しいと言えば小賢しいんだが、明らかに傷つく方向に突き進んでいる人を止めないのはやっぱり見捨てる、ということなのかなあ。結局、今回のケースは性格とは言え自分の本心と相反する方向への突進だったし、彼女を慕う人を巻き込む形にもなっていた以上、なるたまの引っ張り出してきた方法は正解ではあったはず。何よりも皆が欲していたのは、自分の正しさを脇に置ける納得であったわけだし。
まあ、そんななるたまの小賢しさを、やすやすと蹴り破る形でシッチャカメッチャカに大暴れした挙句に、なるたまが企図したよりも綺麗に後腐れなく纏めてみせる竹井会長の快刀乱麻っぷりには惚れそうですが。敵わんよなあ、この人には。文芸部の部長も大怪獣だけど、この人はこの人で三国志は合肥の張遼みたいなもんだろう。遼来来、である。
これで、幼馴染の弟分であるなるたまがちょっと甲斐性見せたら、数日は上機嫌で居たりするところがある当たり、根っからのお姉さんというか可愛らしい所があるというか。
佐々原といい、キャラクターが本当に充実している。テッレルを貼れない独特にして個性的な面々が実に味わい深い存在感を醸し出してるんですよねえ。いやあ、この話に出てくる登場人物、みんな好きだわ。
それでいて、肝心の主人公(?)のなるたまが、なかなか掴みどころのない人物なのが興味深い。一巻を読んだときはもっと特徴的で尖ったところのある個性的な人物なのかと思ったものだけれど、今回は思いの外自己主張が小さかったんですよね。それでいて、存在感が薄いというのでもなく、普通の人というわけでもなく、いやでも普通のやつっぽくもあって、とにかくよくわからない。

とりあえず、オムライスにマヨは邪道だろう、とわりと強壮なマヨラーながら私も力強く提言しておく。

1巻感想