シロクロネクロ (電撃文庫)

【シロクロネクロ】 多宇部貞人/木村樹崇 電撃文庫

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死んでもいいから“えっち”したいっ!
ゾンビになっても思考はエロス! 究極至高のおバカラブコメディ!!


「オレは死ぬ前に一度くらい、女の子とえっちしてみたかったんだよおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!」
 ちょっと……というか死ぬほどえっちな高校二年生・不二由真(ふじゆうま)は、不慮の死から強い未練を糧にゾンビとして蘇った。彼を蘇らせたのは、善い屍霊術師(ネクロマンサー)・シロネクロの美少女・高峰雪路(たかみねゆきじ)──彼女は父から受け継いだ秘宝“死者の書(ネクロノミコン)”を悪い屍霊術師・クロネクロに狙われ、由真が巻き込まれ死んでしまったことを教える。そして雪路は、ゾンビとなった由真を守るために「一緒に暮らしなさい」と命じるのだった。
 「女の子との共同生活=脱・童貞!!」と喜ぶ由真だが、性的欲望を楔に復活しているため「欲望を満たす=即・成仏!!」と知って悶絶する。雪路はそんな由真を元の人間に戻そうと父の親友・八尾(やお)の助言を仰ぐ。
 秘宝“死者の書”を巡り、クロネクロとのバイオレンスアクションな日々が続く一方で、シロネクロの名門・アクセルロッド家の令嬢で可愛い少女ソファイアが仲間に加わる。美少女たちに囲まれバラ色の日々、のはずが大波乱が訪れ……!?
最近はゾンビものが隆盛なんだろうか。丁度アニメでもゾンビ系が多くなってますしねえ。ただ、流行りものに手を出すのはイイけれど、前半のストーリー展開といい設定といいキャラクターといいテンプレの域を脱しない、教科書をそのまま書き写したみたいな借り物の物語は正直いただけなかった。文章自体は非常に読みやすく、すいすいと中身が頭に入りながら読み進める事が出来たので読ませる事に手馴れている、という印象は強く感じたんですけどね。それでも電撃大賞の大賞受賞作がこんな無難な作品になってしまうのはがっかりだなあ……と、思ってました。
後半に突入するまでは。
結論から述べるなら、この人多分、【ほうかご百物語】の峰守さんと同じタイプなんじゃないだろうか。最初は【ほうかご百物語】も平易で読みやすいという意外に特徴が見いだせなかった作品でしたが、話が進むに連れて独自の空気感を獲得し、キャラクターにはイキイキとした息吹が吹き込まれ、先ごろ完結した時には揺るぎない峰守ワールドが構築されてたんですよね。
この【シロクロネクロ】には、そうした書けば書くほど自分なりの描きたい物語が見えてきて、掌中に入ってくるタイプを予感させる萌芽が、後半の盛り上がってくるシーンの各所から感じ取る事ができました。
少なくとも、借り物の物語に白け気味だった自分の気持ちを、グッと鷲掴みにして熱く滾らせてくれる程度には。
あの主人公由真とヒロイン雪路の関係の真相については予想もしていなかっただけに虚を突かれた、というのもあるんですけど、ぶっちゃけストーリー展開としては決して珍しいものではないんですよね。構成の妙というには伏線の仕込み方なんかも別段上手いわけでもなかったですし。だから、展開の意外さに引きこまれたのではないはず。
純粋に、文章に刻み込まれた熱さに、引きこまれたのである。
いやあ、嬉しかったなあ。中盤くらいからね、テンプレでしかなかった文章の中に、自分はこう書きたいんだ、こんな物語を書きたいんだ、こんな想いを見せたいんだ、という片鱗が見えてきたんですよ。「おっ? おおっ?」と思っているうちに、そうした片鱗の散らばりが急速に形を成していくのです。そして、一気に物語に命が吹き込まれていく。そこまで基礎部分として構築してきたテンプレを土台として、その上に建てる自分の物語の姿が見えてきて、それをガシッと捕まえていく過程とターニングポイントを目の当たりにしたような感覚。
拙いながらもダイレクトに伝わってくる、熱い想い。
読みはじめからの期待値が低空飛行だっただけに、面白い作品を常に追い求める身としては、この覚醒とでも言うような色の帯び方は、やっぱり嬉しくて仕方ないんですよ。
勿論、まだ熱量と勢いに任せていて、完全に自分の物語を掌握しているまでは行ってない感じはするんですよね。多分、続きが出るにしても序盤、起承転結の承くらいまでは今回の前半と同じような試行錯誤が続くでしょうけど、後半のあの感覚が失わなければこの人は絶対伸びるでしょう。書けば書くほど、書いて積み重ね積み上げていけば行くほど、世界観が広がっていき、キャラクターがイキイキしてくる、そんなタイプの書き手なんだと感じます。

「オーダー スタンド・バイ・ミー」

こんな台詞をあのシーンで送れるのなら、今後もクライマックスシーンについては盛り上がりを不安に思う必要はないでしょう。次回以降期待せずには居られません。あとは、主人公のお馬鹿さと、彼にかせられた制約をどうコントロールするかだよなあ。日常編のラブコメパートが面白くなるにはこれの扱い方次第だと思うし。ラブコメのワンパターンなテンプレート通りの展開ほど飽きるものはないですしねえ。