影執事マルクの決断 (富士見ファンタジア文庫)

【影執事マルクの決断】 手島史詞/COMTA 富士見ファンタジア文庫

Amazon

親が決めた婚約を破棄するため、相手に会いに来たエルミナ。だが、婚約者ヴィルヘルム先手を打たれカナメとともにホテルに軟禁されてしまう。一方、マルクは主を救うべく動きだすが、問題は山積みで──
セリア姐さんが自由すぎる(笑
前回でセリアが長年抱えていた闇が解消された事で重石が取れたのか、姐さんの傍若無人が留まるところを知らない! 今回、一人で延々と楽しんでましたよね、セリア姐さん。どんどんドツボにハマっていくマルクのこと、そこまで笑わんでもと思うくらいに大ウケしてましたし。いや、アンタが仕掛けたことでしょうにw しかし、本格的に男の子を女装させて楽しむ趣味が発現してしまったんだな。幸いにして、ヴァレンシュタイン家には今のところマルク以外に女装できそうな男の子は居ないので、被害は彼と新たに加わる可能性のあるリオくらいに留まりそうだが。オウマも行けるのかもしれないけど、彼はセリアでも捕まえられそうにないもんなw
今回はジェノバが長年のトラウマを克服するに至る話であったわけだけど、同時にオウマの話でもあったんですよね、そう言えば。ちゃんと表紙にも登場してるし、オウマくん。……してますよ!? 表紙にちゃんと居ますよ!! 私もはじめは本気で気づきませんでしたがw
まさかジェノバとオウマでこんなに真っ当なラブストーリーが広がるとは。本当にヴァレンシュタイン家の契約者には格落ちとも言うべき人は居ませんね。オウマも元々相当にその実力を評価されてましたけど、正直ここまでとは思わなかったなあ。どこか気弱で頼りなさそうに見える割に、いざ切った張ったとなってもメンタルがまったく上下しないのだ。【戦艦】と呼ばれる古強者を相手にした時も最後まで余裕があったくらい。ぶっちゃけ、彼についてはステルス能力だけ突出していて、他の戦闘スキルについてはそれほど高いと思っていなかっただけに、これは驚かされた。
そりゃ、マルクも自分たちなら小国ぐらいまるごと相手にできると自負するわ。前々からヴァレンシュタイン家の契約者たちなら軍隊相手でも負けないだろうとは思ってたけど、実際に冷静な自己評価としてマルクの口から語られると、凄まじいなと戦慄する他無い。ただそれぞれが強いだけじゃなく、家族のような絆で結ばれている、というのも大きいんですよね。それも、エルミナが中心になっているものの、ちゃんと人間関係は全員の間で幾何学模様に構築されてますからね。そりゃ強いですよ。

と、これだけ強力な契約者がポンポンと出てくるにも関わらず、肝心のバトルがまったくインフレ化の傾向が見えないのもまたこのシリーズの特徴なんですよね。このへんのバランスは絶妙を通り越して、芸術的ですらある。例えば、今回マルクはある相手に非常に苦戦するのですけれど、状況が変わった二度目の戦闘では殆ど瞬殺に近い圧勝で下している。でも、決して初戦でマルクは無理やりと取られるような弱体化をしてるわけじゃないんですよね。あくまで、状況がマルクに苦戦を強いるものだった、というだけで。とは言え、その苦戦にもどかしさは感じ無いのである。このあたりが芸術的なんですよね。キャラが苦戦しても、それで鬱積が溜まる事は殆ど無いし、逆に圧倒的な力を示した時はちゃんと痛快な気分にさせてくれる。仮に負けるようなケースになっても、格落ちを感じさせないのである。キャラの強さが陳腐化しないというのは、長期シリーズとして見ると何気に大きいですよ。

さて、今回のメインヒロインの一人だったジェノバのトラウマ克服話であるが、それがそのまま危機に陥ったエルミナを救う手立てとなるのか。彼女が背負っていた闇も、契約者となるだけあって相当に重かった。それこそ、自分を壊してしまうほどに。わずか十歳で背負うには重すぎる罪だものなあ。そんな子供に責任を負わせるな、と言いたいところだけれど、あの状況下では医者としてのスキルを有するジェノバに頼るのは仕方ない事だったんだろうし。年齢にそぐわない技術を手にするというのは、身の丈に合わない責任をも負わされるという危険性があるものなんだなあ。天才と褒めやかす前に、子供は子供として守ってあげられる環境を作っておくのが、大人の責任なんだろう。まあ、実際にそんな子供を持ってしまった親からすれば、そこまで配慮を巡らせろ、というのも酷なのかもしれないが。
それでも、オウマの支えもあり、エルミナを助けるために自分の罪を曝け出し、逃避の象徴だった棺桶を手放す勇気を得たジェノバの、吹っ切れた表情は最高に可愛かったです。オウマもかっこ良かったよ。存在感の薄さとは真逆に、この子は言うべきこと言いたいことを口にする事を恐れない所が素敵だ。何気にカップル誕生第一号になったのか、もしかして?

で、肝心のエルミナの婚約話は思わぬ真相もあって、かなりの急展開に。これは、また複雑だよなあ。相手も本気でエルミナの事を思ってたのか。それがネジ曲がってしまったのは、これは対価のせいだよなあ、多分。他人を信頼できない、他人どころか自分も信頼できない、という対価の中で、むしろよく目的をズレはしても見失わずに居られた、と褒めるべきかもしれない。エルミナの方からもちゃんと、枢機卿に対して繋がりがあったのは意外だったなあ。てっきり、エミリオだと思い込んでいただけに。思わぬ形で、エルミナが選択する状況になるとは、マルクもフラフラと二人の間を右往左往している場合じゃなかったな。幸い、エルミナはスパッと選んでくれたわけだけど。でも、今後の状況如何ではこれどうにかなるか分からないぞ。彼も、振られたとはいえまだちゃんとエルミナに好意を抱いたままなわけですしね。
さすがに、最後のカナメへの告白はミスリードだと思うけど。
エルミナとカナメの仲が、二人で家を出てからこっち凄まじい勢いで急接近して、今や親友の中の親友と言ってもいいくらいの関係に発展してしまった以上、三角関係の決着は相当慎重にやらないと大変な事になりそうだし。実際、エルミナはマルクの告白に対してカナメのことが頭を過ぎって、わやにしちゃった訳ですしね。

個人的には、カナメは髪切った方がよく似合ってると思う。あのおかっぱの髪型は好きだなあ。

シリーズ感想