はるかかなたの年代記 2 荒ましき驃騎兵 (はるかかなたの年代記シリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫 し 7-2)

【はるかかなたの年代記 2.荒ましき驃騎兵】 白川敏行/ふゆの春秋 スーパーダッシュ文庫

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運命は変えられる。

気持ちを近づけるユウとアレット。
しかしそれはカティアに距離を感じさせることに。
守ると誓った少年は少女に何を伝えるのか。
彼方の星で、恋と友情が交差する。

人造人間としてその力を狙われる少女・カティアを守ることを決意したユウ。
自らも失われた三つの<換象>である<改変>の能力者であることや、精神の裡に宿る人格・チョールトの存在などの秘密を抱えながら学園生活を送る彼は、生徒会長のアレットとの訓練を通じ、実力を伸ばしていた。
これに伴って無自覚ではあるもののアレットとの仲も接近する。
だがその様子を見たカティアは特異な存在である自分に引け目を感じ、ユウを避けるようになってしまう。
そんな中、カティア捕縛の密命が下され、精兵中の精兵「驃騎兵(ユサール)」が動き始める。
さらにはカティアを保護するグロリアにもユウの秘密が明らかになって?
はるかかなたの物語第二幕、少年は誓いを守れるのか…!?
面白いなあ、面白いなあ。一巻でも感じたことだけれど、主要キャラクターが最初から多めに出されているのですが、それぞれキャラクターのポテンシャルが非常に高い。例えば、主人公のユウの親友ポディションにいるクリスなんですが、彼なんか殆ど独立して主人公を張れるくらいの厚みが備わっている。壮絶な過去に、それに基づく今の地位と決意。さらに、幼い頃の掛け替えのない大切な幼馴染との想い出を抱えていて、ある種その想い出こそが今の彼を支えている。これだけでもドラマたっぷりなのに、入学してからユウやカティアが巻き込まれたいざこざを通じて仲良くなった生徒会副会長が、実はその幼馴染当人で、クリス本人は気付いていない上に、フローラ自身は気づいているにも関わらず、何らかの理由があって自分が思い出の幼馴染だという事実を伏せている。でも、お互い気づかないまま、正体を知らせないまま、段々と惹かれあっていく二人。ドラマティックじゃないですか。もう、この二人が主人公とヒロインでも構わないくらい。幼い頃はお転婆でやんちゃ娘だったフローラが、一念発起してお嬢様としての立ち振る舞いを身につけて、幼い頃とは別人みたいに見違えた、というのもポイント高い。さらには、クリスと二人きりで居るときはちょっと素のヤンチャな頃の顔が垣間見えてしまい、そんな彼女にクリスは懐かしさや居心地の良さを感じて、さらに惹かれていく、という流れも、実に素晴らしい。
ぶっちゃけ、これだけ脇のカップルがポテンシャル高いと、本当の主人公組は喰われかねないんだが、幸いなことにユウとカティア、そしてアネットの今微妙な三角関係を形成していく過程にある三人もガチンコに強度の高いキャラなんで、全然負けてないわけです。
アネットは純粋に自分の中に芽生えて急速に大きくなっていくユウへの想いに、照れと躊躇いを内包しながらも素直に彼との距離を縮めようと勇気を奮い、カティアは肯定したはずの人造人間という自らの出自が、人と人との恋愛において決して良い影響を引き出さない、という引け目、劣等感に戸惑い苦悩することで、逆算的に自分にとってユウという存在がどんな意味を持っているのかを認識していく。両者とも、入る戸口こそ違え、真剣に恋と向き合い、大切な人と自分との関係に思い悩み、憂いと喜びに不沈を繰り返す正しい恋する少女を執行するのである。実に素晴らしい。
一方で、二人の想いの投げかけられる先にいるユウは、今のところまだ恋を自覚する段階ではないようだ。当人はそれどころではなく、まずカティアを守るという誓いを果たすための努力と、生徒会長のアネットを助けるという意気を空回りさせないための気配り、そして自分が抱える秘密やカティアの出自を友人たちにどう共有していくのか。取り敢えず、頭を悩ませる事が多々あるせいで、まだ落ち着いて自分に向けられる感情と自分の中の感情を見直せる状態にはないんですよね。まだ、アネットもカティアも自分の気持を整理する段階で、ユウに対して何らかの決定的なアクションを示しているわけじゃないですしね。アネットは、もうかなり決定的なアクションをとってる気もするけど、まだキモが座ってなかったからなあ、あれは。既に今回、相当積極的にアプローチ仕掛けてた気もするし。ただ、本格的にラブコメ展開になるのは、カティアが自覚して劣等感をある程度克服してアネットと同じ土俵に立てるようになった今回以降、次巻からということになりそう。
チョールト兄ちゃんも呆れてないで、ああいうのは具体的に教えてやった方がいいんじゃないだろうか。兄ちゃんなら、上手いことニブチンを解消してやれると思うんだけどなあ。兄貴分としても師匠としても面倒見の良い親友としても、殆ど最良と言っていい存在だと、私なんぞは認めているので。

これで主要キャラだけ優遇されているのではなく、今回の敵となる人たちもまた魅力的に描かれてるんですよね。野良猫先輩は元より、その子分(笑)の二人の男子についても描写の分量は少ないながらも、逆に言うとこれだけの出番にも関わらずしっかりとキャラ立ってるのは大したもの。短い中で、この三人の関係は見事に描き切られていましたしね。にしても、野良猫先輩は良かったなあ。学生の身分を謳歌しながら軍人としての覚悟を揺ぎ無く胸に秘め、国に準じることを厭う事無く、部下を守ることに迷いなく、しかし元生徒会の人間として心迷い悩みに沈む可愛い後輩についつい指針を与えてしまう人間味。敵として立ちふさがりながら、後腐れのない気持ちの良い立ち振る舞いで、今回の事件は陰惨な国同士のパワーゲームに翻弄された結果の闘争だったにも関わらず、一風爽やかとすら言える後味が残るに至ったのは、まあこの人のお陰でしょう。カティアが立ち直れ、人としての強さを加味して復活できたのは、何より彼女のお陰でしたし。
まだまだ今後、陰惨な戦いが待っているのかもしれませんが、今回の事件は皆の心持ち次第で幾らでもそういう重たい陰りを払拭していけるんじゃないだろうか、という手応えを感じ取れたような気がします。これなら、不必要なほど暗い話にはならなさそうだ。

肝心の戦闘シーンは、この時点で既にど派手で大変面白いんですが、興味深いことに未だにユウもクリスもカティアも、その持っているポテンシャルを全開にまで振り絞るような状況には至ってないんですよね。かと言って、戦闘自体が余裕だった、ということは全然ないんですが、当人たちに余裕はなくても、作者の方にまだまだバトルシーンの描き方に余裕があるというべきか。なんか、もっと見栄えのするスピーディーでアイデアに溢れた戦闘シーンを書く余地を幾らでも残している、とでもいうような余裕が感じられるのである。多分、頭の中ではアイデアが溢れかえってるんだろうなあ。というわけで、個人の能力の進化に留まらず、それぞれの能力の連携や、相互相乗効果、状況に合わせた様々な応用編など、戦闘シーンは恐らくまだまだ発展の余地ありと思われ。これも楽しみですわ。

1巻感想