テンプテーション・クラウン (集英社スーパーダッシュ文庫)

【テンプテーション・クラウン】 雪野静/ゆーげん スーパーダッシュ文庫

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「貴方を護りたい。……私を、貴方の傍にいさせてほしい」
少女の誓いが少年の世界を変えた。
あなたを魅惑する物語が始まる。

選定者。それはこの世界に墜ちた神や悪魔をその身に宿し、力を行使する者。
高校生・アキトはある日、悪魔・ゼファの力を得る。
ゼファの力はとても弱く、密やかなものだったが、アキトに劇的な変化をもたらすことに。
その力“魅惑”は最高の選定者・『王冠』の名を冠される美少女・ルヴィの心を虜にしてしまい、さらにはルヴィの変化を良く思わずアキトに接触する『王冠』彩姫にまでにも影響が及ぶ。
アキトはどうにか力を解除して、現状を正常化しようとするのだが、なし崩し的に少女たちとの同居生活が始まってしまう。
一方、ルヴィや彩姫に匹敵する“魔王”が街に来訪する。その秘めたる目的は…!?
荘厳なる力が導く物語が、今あなたを魅了する。
デビュー作の【逆理の魔女】が非常に好みの作品で続きを楽しみにしていたのですが、続編どころか新作も音沙汰ないまま一年と半年。もう、これは作家としての活動をしてらっしゃらないのかな、と諦めていた所でようやく雪野静のお名前が。一作だけでフェイドアウトとは勿体なさ過ぎた人なので、これは嬉しかった。
残念ながら【逆理の魔女】の続編ではなかったけれど、それは仕方ない。新作出してくれただけでもありがたい。
というわけで勇んで読み込んだわけですが……また、これは根っこのところでエゲツない作品書いてきたなあ。表向きはわりとシンプルなラブコメ的な異能ものになるんでしょうけど、ヒロインから向けられる好意が完全に「魅惑」という能力によるもの、というのがメチャメチャえぐい。アキト本人が意図したものではない、というのが特に。しかも、徹底して「魅惑」の能力の存在は隠蔽され、その存在と効果を知っているのはアキトとゼファの二人だけ。隠匿される特質から、アキトは能力を告白することも叶わず、彼女らからの好意を否定する事が出来ない、と。これで、アキトがラッキーと寄ってくる女の子を食っちゃえるような輩なら単純な鬼畜ものなんですが、アキトという男の子がとても誠実な上に他に好きな女性が居る、ということでどう見ても針のむしろ状態。何だかんだと女の子から真っ直ぐに好意を向けられて嬉しくない男の子はいないわけですけど、それが本当の好意じゃなくて「魅惑」によって造られたもの、と分かっている以上、複雑な心境どころじゃないですよね、これ。しかも、解けた暁には感情だけが拭い去られて、彼女らにとった態度や行為はそのまま残ってしまうとなると、考えなしの行動は取れないわけで、何気に地獄だぞこれ。
今のところ、ヒロインたちは何も知らないまま、自分たちが好意を寄せたことで各組織のパワーゲームに巻き込まれたアキトを守るために奮闘し、同時にラブコメを繰り広げていくわけだけど、その前提がすべて「魅惑」にあるとなると素直にウハウハ言ってられないよなあ、これは。
ぶっちゃけこれ、本番になるのは「魅惑」の存在が明らかになるか、その効果が切れた段階から、になりそうな気もするけど……うーん、どちらかというとそれは安易な考え方だな。むしろ、そこに到るまでをどう面白く盛り上げていくか。言わば崩すための塔を積み上げているような状態が今始まった所、と言えるんだろうけど、崩れる塔は高ければ高いほどいいわけですしね。どれほど面白く積み上げられるか、こそが注目点か。
さらに気に止めるべきところは、ゼファの存在ですよね。彼(彼女?)の目的がいまいち見えてこない。悪いヤツには見えないんだけれど、どうも何らかの思惑を秘めている素振りが見える。そもそもあの「魅惑」の効果範囲なんて明らかに恣意的じゃないですか。そこが見えてきた時こそ、大きく話が動いていく時だとも思うんだが。
取り敢えずヒロインは今回である程度出揃ったと考えても良さそうだし、ある意味今回は舞台を整える話だったのかな? 「王冠」クラスなら男女関係なく見境なし、だという話はもはや混乱しか呼びそうにないんですけど、どうするんだこれ(笑