羽月莉音の帝国 6 (ガガガ文庫)

【羽月莉音の帝国 6】 至道流星/二ノ膳 ガガガ文庫

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諜報と銃撃──中国内紛!? 巳継倒れる。
決死の覚悟で莫大な投資をした中国での衣料チェーン事業が、反日暴動で崩壊寸前。絶望的な状況の俺たち革命部の前に、日本闇社会のフィクサー海胴総次郎が現れる。「CIA に行くぞ」と言って莉音と俺を連れ出すのだが──海胴って CIA を裏切ったせいで何度か殺されかけたはずじゃなかったか? 「何しに来た? ぶち殺してやるぜクソ野郎!」案の定、着いた瞬間さらなる火種かよ……。血まみれの銃撃戦から春日恒太ファンクラブ設立、建国へ向けてのミサイル開発始動までノンストップで突っ走る、最強エンターテインメント!!
ど、怒涛のように進むなあ。序盤に中国のクーデター紛いの騒ぎに巻き込まれているところから、中盤の世界中の金融機関買収攻勢に、後半のロシアへの軍事開発進出、と目まぐるしく進む、というかカッ飛んでいく勢いに目を白黒させながら引きずられていく。これが全部一冊に詰め込まれているんだから、読み終えたあとにややも唖然としてしまった。それでいて急ぎ足という印象はまるで皆無。凄まじいまでに濃密なものが凝縮されていた。
何よりここで明示されたのは、羽月莉音という少女の革命家としての真髄である。これが決して経済小説たりえないのは、彼女が商売人ではなくその目的が世界を革命することの一点に絞られている所だ。彼女と革命部の活動は凄まじい勢いでコングロマリットとすら呼べる規模の経済活動を取り込み、増幅拡大させていっているわけだけれど、同時にそれらは目的を達成するための手段に過ぎない。ローラが莉音の活動をどうしても理解できないのは、寄って立つ位置が違うからなんでしょうね。ローラの理想を叶えるためには彼女の財閥は今後も維持と拡大を続けなければいけないものだけれど、莉音の目的のためなら革命部の資産は目的達成と共に失われて然るべき単なる手段としてしか認識していない。そりゃ、思想の相違以前に折り合えないわ。
ただ、折り合えなくても考え方を理解し合えなくても、人としてお互いを理解は出来る。革命はこれまでの否定であり破壊なのだけれど、単なる破壊者では誰も付いてこれない。その先に創造がなければ人は希望を抱けない。そして創造こそは単一の思想がもたらすものではなく、相入れぬもの同士がぶつかり合った末に相手を全否定するのではなく、否定しながらも受容することでもたらされるものなのだろう。妥協と判別しにくい所が難しいんだが、その革命家たちの理想の着地点は是非に最後まで描ききってほしいな。一ツのモデルケースとしては、思想も目指す世界も違う海胴が、莉音と巳継を後継者として認め、自分の持っていたものを託していった事がそれなんだろうが。冒険家羽月一馬、海胴総一朗、洪門の徐先生に郭首相、大原首相にスタインバーグ財閥のローザ、カルヴァート公爵。ここで出てきた世界を担うプレイヤーたちは皆それぞれ譲れぬ理想を胸に抱きながら、同時に敵となるだろう相手と理解を交え友誼を交わす事を自然に行なっている。幾つか拗れている関係もあるとはいえ、そこにあるのは敵に対する憎しみではなく、やり方こそ違え世界に対して大きな影響力を及ぼし、形を整えようとする者たちへの尊敬の念だ。もし、世界がこんな風に尊敬できる敵同士との鍔迫り合いで織り成されているのなら、そこにあるのは希望に似た何かなんだろうけどね。
何れにしても、莉音も巳継も、もはや各々の理想を達成するために、革命のために命と生涯を投げ打つ覚悟を極めてしまっている。そんな中においてネックとなるのは、世界革命と同等の価値で五人の革命部の仲間たちの命が重きをなしている事なのだろう。それが顕著に現れてしまったのが、劉主席暗殺事件に巻き込まれた時の莉音と巳継だ。あの時、莉音は撃たれた巳継の為に容易に世界革命を果たさなければならないという理想を投げ捨てて、躊躇うこと無く一緒に死のうとしていたわけで。巳継はそれを否定的に捉えているようだけれど、どうなんだろうね。自分の命よりも大事なモノを、革命と大切な人、二つも持っているというのは革命家にとって歪なのか、それともバランスが取れているのか。理想ってのは、高潔な魂在ってこそ。もし巳継を見殺しにして、はたしてあの莉音が理想を変質させず叶える事の出来るような高潔さを維持できるのか。難しいところでしょうね。彼女が巳継たちを巻き込んだのは、きっと彼女一人ではその理想を維持できる自信がなかったからではないでしょうか。誰かが失われた時点で、もうこの革命部は取り返しが付かない変質を迎えるような気がします。
しかし、そんな大切な人達を巻き込んででも、莉音は世界を変えたいんだなあ。それはそれで、凄まじい覚悟である。
ここでようやくあのカルヴァート公爵が出てきたんですが、思ってたような妖怪じじいとは正反対の穏やかな人物で相当に意表を突かれた。なるほどなあ、こういう人物だからこそ、莉音やローザたち革命家と正対する現状維持派の筆頭として存在し得るのか。既得権益を守ることに固執するような人物じゃ単なる悪役だもんなあ。この老人こそ、正しく今の世界の良き側面の守護者なのだろう。こういう人が相手になるのか、こりゃ大変だわ。

シリーズ感想