特急便ガール! (メディアワークス文庫)

【特急便ガール!】 美奈川護 メディアワークス文庫

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 上司をぶん殴って一流商社を辞めた元OL、吉原陶子。同僚のツテであるバイク便運営会社に身を置くことになるが……職場の人々はとんでもなく個性的なメンツばかりだった!
 常に寝ぐせがついたままの社長・如月。強面で口の悪い“人間カーナビ”・菅野。少女趣味な女性ライダー・さおりん。そして、宣伝部長・大谷さん(オカメインコ)――。若干引きつつも長距離の荷物を手持ちで運ぶ「ハンドキャリー便」担当として仕事を始めた陶子だったが、あるときそんな彼らの個性をも凌駕する「ある能力」を身につけてしまい――!?
 荷物をめぐって東奔西走! 異色のヒューマンドラマ。
もう少女って歳じゃねえだろ、と思ったら作中で自分で突っ込んでた。後輩君いわく、女性は永遠のガールなんだそうだ。特急便レディでも良さそうなものだが、それだとダメなんだろうか。
というわけで、電撃文庫で文化が統制された世界で、人の心に浮かぶ名画を描いて回る画家の少女の話を描いた【ヴァンダル画廊街の奇跡】でデビューした美奈川護さんが、メディアワークス文庫で書いた一作がこれ。【ヴァンダル画廊街の奇跡】以外では初めての作品でもあるわけで、いったいどういう作品を書くんだろうとワクワクして読んだのですが、うん、これは紛れもなく美奈川さんの作品だ。
この人の書く話で好きなところは色々とあるのですけれど、そのなかで一ツあげると「一期一会」があるんですよね。長い生涯の中での刹那の邂逅。偶然に出会った人との、別れるまでの一度きりの僅かな交流。もうその人とはその後二度と逢うことは無いとしても、ここで出会ったこと、過ごした時間はその人の人生においてとても大きな意味を持つことになる。そんな短くも決定的な何かが残る一会を、この人の物語は鮮やかに描き出すのです。【ヴァンダル画廊街】でも顕著でしたけど、この【特急便ガール!】も、荷物を届けるという仕事をただ単に物を届けるのではなく、想いを届ける事を描くことによって、配達人と受取人というだけの邂逅を何かとても大切なモノとして浮かび上がらせてるんですよね。
そして、この人の描く一期一会の特徴は、別れた後のその後のことには決してタッチしないこと。後日談とか、その後どうなったか、という話は一切しないんですよ。想いを届けたその後の事は、すっぱりとその人の人生の事だから、と言わんばかりに触れないし、わからない。でも、その分からなさがいいんですよね。あの演奏家の女性と付き合っていた男性とがどうなったかも、赤ん坊とその母親、そして姉があの後どうなったのかわからない。でも、届いたという実感は残ってる。やるべき事を果たした、という達成感は確かに此処にあるわけです。そして、その実感はもう逢うこともないであろう彼らのその後を、何の確約もなく信じることが出来るのです。何を信じられるのかも分からないんですけどね。幸せになった、と信じるのとはまた違うんです。そういう信じるじゃなくて、陶子が届けた荷物が彼らの心にまで届いた事を信じられる、というのだろうか。だから、彼らのその後なんてわからなくていいんですよ。分からなくても、いいんです。彼らは彼らの結論をちゃんと導き出せるだろうと、想いが届いたなら信じていられるから。
なんだろうなあ、この人と人との人生が一瞬交わり、そしてすれ違っていく感覚が素晴らしい。その上で、すれ違ってもう人生が交わらない人々とはまた別に、一緒に同じ目標、同じ夢、同じ舞台で生きていく人たちと出会う縁を見つける事ができる。
最後のエピソードは、そんな自分の生きる場所を見つけ、受け入れ、離れていこうとするものを捕まえて、手を取り合うお話。託されたものを受け取る話でもある。陶子もまた、想いを届けられたわけだ。その人とは、一期一会どころかついに逢うことすらなかったわけだけれど、彼女はちゃんとそれを受け取って、同じくそれを受け取っていた人たちにそれを思い出させ、とその想いを共有する事が叶ったわけだ。
もうちょっとガツンと威力のある話があれば、もっと引力のある作品になったのかもしれないけど、それでも私はこの人の作風が好きなんだ、というのを実感できた一冊でした。あー、この雰囲気、好きだわー。