犬とハサミは使いよう (ファミ通文庫)

【犬とハサミは使いよう】 更伊俊介/鍋島テツヒロ ファミ通文庫

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「読 ま ず に 死 ね る か !!」

ある日突然、強盗に殺された俺。だが本バカゆえの執念で奇跡の生還を果たした――ダックスフンドの姿で。って何で犬!?  本読めないじゃん!! 悶える俺の前に現れたのは、ハサミが凶器のサド女、夏野霧姫。どう見ても危険人物です。でも犬【おれ】の言葉が分かる、しかもその正体は俺も大ファンの作家、秋山忍本人だった!? どうなる俺、あと俺を殺した強盗はどこ行った――!? 第12回えんため大賞優秀賞のミステリ系不条理コメディ!!
ワンコでもオッケーって、また随分とフレキシブルなお嬢様ヒロインだな!!
ところでミステリ系などと銘打ってるが、どこがミステリなんだろう? 別に犯人探しをするわけでもないし、大ドンデン返しの真相が秘められている訳でもなかったんだが。というわけで、活字中毒の主人公と、彼と意思の疎通が出来ることから彼を飼う事になったお嬢様とのどつき漫才コメディである。これってもしかしたら、お嬢様側の視点からすると、色々とピンク色の蜜月同棲物語になるのかもしれないが、
「文字列になって出直してこい」
とほざいて迷いのないワンコが相手なので、残念ながら噛みあってないんだな、ご愁傷様。
うん、この作品、あくまでワンコからの視点で描かれているので、お嬢は読食住を提供してくれる親切な人だが上から目線で暴力的で一方的な理不尽不条理の権化様、みたいに見られているのだけれど、この話ってお嬢側から見るとまた随分印象変わってくるんだろうなあ。
突然の強盗事件で殺されかかった所を見ず知らずの少年に庇われたものの、彼は犯人に無残に殺されてしまう。数日後、頭の中に響く錯乱した声。自分にしか聞こえない幻聴に怯えながらも、その声のもとを探してみると、なんと声の主は奇妙なダックスフント。しかも、事情を聞いてみるとそのダックスフントは自分を庇って死んでしまったあの男の子の生まれ変わりだという。彼はどうして自分を庇ってくれたのだろう。やはり、自分を恨んでいるのだろうか、憎んでいるのだろうか。死にたくなんてなかっただろうに、恐ろしかっただろうに。彼への感謝と、彼から憎まれているのではないかという恐怖を抱えながら彼を連れ帰ってみるものの、彼は自分を庇って死んだ事自体には何の後悔もしておらず、ただ未練は本を読めない事なのだという。さらに、彼は自分の著作の大ファンであり、自分の作品をそれこそワンコが骨付き肉にむしゃぶりつくように喜んで読んでくれる人だった。ダイレクトに伝わってくる心の声は、何の偽りも含まれない読者の声であり、自分の作品を本当に喜んでくれるファンのもの。嬉しい、でも哀しい。この人は、自分の為に死んでしまったのだ。犬として蘇ったものの、もう人間ではなくなってしまったのだ。どうにかして報いなければならない、どうにかして彼の無念を晴らしてあげなければならない、それは彼に助けられた自分の成すべき事なのだから。その方法を模索しながら、彼と過ごすうちに読書中毒ながら裏表のない彼の内面に惹かれていく。ただ傍らで彼が本を読み、自分が本を書く日々。それは彼女が経験したことのない安息の日々であり、誰かが隣にいてくれる穏やかな日常。だが、それは余計に彼女の罪悪感、後悔、絶望をいやましていく。申し訳なさや負い目、悲しみや怒りが綯交ぜになり、彼女に残されていたのは彼を殺した犯人を殺して仇を取るのだという贖罪への強迫観念であった。
しかしまた、彼女を雁字搦めに縛った鎖を解き放ってくれたのも、彼であった。彼は彼女の負い目を否定し、彼女の作家としての誇りを奮い立たせ、罪に許しをくれた。何より一人の読者として、一人の作家に対して最上の言葉をくれたのだ。
そして、彼女は一匹のダックスフントに恋をした。

と、いうふうに夏野視点から捏造を踏まえつつ要約してみると、とても情緒的なラブストーリーな気がしてくる不思議(笑
実際の様子を見てると、ひたすら暴力飼い主がワンコをハサミを振り回して追いかけまわしてるばっかりなんだが、女心は複雑なのである、という風に解釈してあげるのが人情というものでしょう、うんうん。
ちょっと文章やらストーリーやらがシッチャカメッチャカに暴走して状況把握が非常に困難になるシーンがままあって困ったんだが、その辺の調整はどんどん書いて上手くなってって欲しいな。あと、やっぱりもうちょっと夏野の側を踏み込んで書いて欲しかった。想像の余地を与えてくれる描写は結構あったけれど、それでも殆どワンコと彼女の一対一の交流の話である以上、彼女はもう一人の主人公でもあったわけで、もうちょっと彼女の内面や事情を伺わせる材料が欲しかったかな。
珍しいことに、これ作者二人いるんですね。擦り合わせとか結構大変じゃないのかしら。