ひがえりグラディエーター (電撃文庫)

【ひがえりグラディエーター】 中村恵里加/紺野賢護 電撃文庫

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「よくわからないけど、あなたがいい気がする」少女に選ばれ、少年の日常は一変する!

 突如現れた少女・アールによって、異世界に誘われた天海蔵人。その異世界で流行っていたのは、なんと地球の人間を拉致し、互いに戦わせるという恐ろしい『娯楽』だった。一方的に銃とナイフを与えられ、見ず知らずの誰かとの戦いを強いられることに蔵人は戸惑い続ける。だが、その『娯楽』の頂点に立っている地球人……初戦以外は完全無敗の人物が、幼き日に行方不明になった自分の妹である可能性が高い、ということを知り──!? 
 斬新な切り口で「戦い」を描く、ファンタジー&サスペンス!
痛っ痛痛痛っ! ああもう、相変わらずというかブレがなく、中村恵里加さんの作品は見てるこっちが痛そうな描写が盛りだくさんで、ちょっと涙目。
本人はそんなに痛がっていないのがミソなんですよね。普通に痛がってくれたらこっちも安心出来るんだけれど、なまじ痛みに対して鈍いから、傷口に対する血と肉と皮と筋肉繊維と神経を、こう、ズタズタ、グチャグチャ、ブチブチ、ドビッシャーーー、という描写をねっとりゆっくりジワジワと落ち着いて見せつけられるハメになるのである。だから、もうちょっと自分の有様というか惨状をちゃんと理解してください、お願いします、と懇願してくなってくる。別に理解していないわけじゃないんですけどね、怪我する子たちは。ただ割り切っているというか気にしないようにしているだけで。
それでも、自傷としてそれを行っていない分、ダブルブリッドよりはマシなのか。あれは精神状態とも合わさって、痛々しさがたまらんものがあったものなあ。
前作の【ぐらシャチ】もその内実に相当エゲつないものがあったと考えると、今度の新作は今までで一番前向きで明るい内容かもしれない。とはいえ、登場人物たちが本人の意思とは関係なく異世界に召喚されて、殺し合いを強要される、という設定を見ると、とても明るい話になりそうにない気もするけど(苦笑
でも、取り敢えず主人公の蔵人は自分の置かれた状況を受け入れ、戦うための目的も見つけた上で、自分の主人となったアールに対してむしろ庇護者的な想いを抱いており、精神面でマイナススパイラルには陥ってないお陰で、読んでて憂鬱になるような話になってないのは助かる所。やることが実質の殺し合いでも、参加者の生命は保護されていて死ぬことはない、というのが大きいのでしょう、主人公としても読んでるこちらとしても。
ただ、それが甘い話でないのは、きっちりラストの試合直前にあの子が見せてくれるわけですが。あそこは身構えてなかっただけに、ブラクラ踏んだみたいになったよ。蔵人くんに覚悟を持たすためとはいえ、女の子がよくあんな姿を晒せたものだ。その意味では、普通に見えるあの子の精神も、もしかしたら普通からもう逸脱してしまっているのかもしれない。そう考えると、やっぱり怖い話なのかもしれないなあ。ただ、一般生活においてはまったく異常なところが見られない以上、彼女のそれは純然たる適応というべきなのかもしれない。召喚されるのは一日で数時間程度で、日帰りで元の日常に戻れるというのも精神の均衡を保ったまま変質出来た所以なのか。日常を維持したままなら、異常な環境も繰り返すうちに日常の延長線上に同化すると考えると、ね。
まあ、ある程度強靭な心根がないと、最初の段階で無理が出てくるんだろうけど。今回の話を読んでいると、どうしてもこうした殺し合いに適応できない人はいるようだし。
蔵人も決して適性がある方ではなかったかもしれないけど……いや、そんな事はないか。ある意味、あの子よりもちょっと最初からおかしいところはあったかもしれない。顔見知りを傷つけられないのと、自分を傷つけられるのとは全然別の話だし。でも、彼の異質さは決して彼が置かれる事になった状況に積極性を呼ぶものではないはずで、彼があれだけ前向きになってモチベーションを得ているのには、それだけの理由が、戦って勝つ事が必要な理由が彼にはあるということなのだろう。最大の理由である妹探しはともかくとして、アールの為、というモチベーションを持つ事になるのは意外だったなあ。確かに、悪い子じゃないし無理やり契約したわりには一生懸命気遣って便宜をはかってくれるし、どうして彼女がマスターとして参加しようと思ったのかの理由を聞いたら同情も湧くけど、それでも蔵人の意思を無視して、死なないにしても殺し合いには違いない試合の選手として捕獲され、調教され、戦わされるハメになったのだから、もうちょっと隔意をいだいても良さそうなのに、あんまり最初からそういう敵意も抱いていないあたり、この蔵人くんはおおらかというか鈍いというか、ぼんやりしてるところがあるようだ。まあ、それがこの男の子のいい所なんだろうけど。それに、決して他人に対して鈍感なのとは違うわけですしね。なるほどなあ、この性格は同年代や年上よりも、年下の女の子には好かれそうだ。

ともあれ、まだ導入編もいい所なので、続きはちゃんと出してください、お願いします。とても面白かっただけに、これで終わりは生殺しすぎる。