死なない男に恋した少女 (HJ文庫)

【死なない男に恋した少女】 空埜一樹/ぷよ HJ文庫

Amazon

蹴ろうが殴ろうが車に轢かれようがとにかく死なない男、乃出狗斗。彼は「午前零時の殺人鬼」こと、天才殺人鬼・桐崎恭子と出会う。いきなりメッタ刺しにされるも、ケロリとしている狗斗に対し、恭子が放った言葉は……「わ、私とつきあってくれ!!」。鬼才が描く新感覚“サシデレ”ストーリー、ここに開幕!!
これが音に聞く「サシデレ」かっ! 照れ隠しに刺して来るのか物騒だな、と思ってたんだが、むしろ求愛表現に近いんだな、恭子が刺し斬りしてくるのは。いや、求愛というのは現段階ではまだ言い過ぎか。今のところは、好きだから刺すのではなく、刺すのがたまらなく好きってだけであるからして。
ただ、この娘が好感を持てるのは、狗斗を刺しても刺しても死なない自分の性癖を満たしてくれる便利な血肉袋として見るのではなくて、わりと最初からちゃんと彼を自分の異常性を受け止めてくれる人間として接していた所なんですよね。彼女の能力からすれば、狗斗が幾ら死ななくても、適当に捕まえて監禁し、自分の欲求を満たすための道具として扱う事も出来たでしょうし、そこまで行かなくてももっと人間扱いしない接し方もあったはず。
それをしない、というか出来ない、あるいは頭から考えることをしなかった所が、恭子が性癖に異常性を持ち、それを理性で抑えられないのだとしても、人間性や良識まで失っていなかった事を示しているのだろう。逆に言うと、それだけ今まで殺人鬼としての自分と折り合えていなかったということでもあるんですよね。彼女がこれまで自分自身にいだいていた絶望や罪悪感、恐怖や嫌悪感は如何ばかりのものだったのか。だからこそ、そんな自分の異常性を受け止めてくれた上で、普通の女の子としての部分を認めてくれた狗斗との出会いは恭子にとって運命的なものに思えたのだろう。
そう、結局彼女が狗斗に恋をしてしまったのは、彼がいくら刺しても死なないからというよりも、彼が桐崎恭子のすべてを知った上で、殺されてなお、人としての恭子を信じてくれ、女の子として接してくれたからなのだろう。刺すだの殺すだのを除けば、これは実に王道をゆくボーイ・ミーツ・ガールと言える。

ただ、この物語ってある意味ここが頂点であり終着点、みたいな所があって怖いんだよなあ。恭子は彼女自身がどんなにいい子だとしても、これまで自分の欲望の為に何の罪もない人たちを惨殺してきた罪は消えないし、彼女の才能を知る勢力はそんな彼女の罪業を盾に取り、彼女を利用しに掛かっている。果たして、恭子と狗斗にハッピーエンドというのは許されるのだろうか。
特に狗斗は幼少の頃から随分とひどい人生を歩んできているし、彼のお姉さんも普通の姉弟というには人生の方向性が弟と深く絡みすぎているきらいがあるので、お姉さんを不幸にしない為にもなんとか彼にはこれから幸せになって欲しいものなんだが、今のところこれは先の展望、暗いよなあ。
既に完結しているので、随時既刊を追っていくつもりです。