0能者ミナト (メディアワークス文庫)

【0能者ミナト】 葉山透/kyo メディアワークス文庫

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 科学が隆盛を極める現代。だが、その片隅にひっそりと息づく異形のものたちがいた。存在を知る一部の者たちは、それを「怪異」と呼んだ。
 当然、怪異を相手にする生業もある。修験者、法力僧、呼ばれ方は様々だが、その中でひと際変わった青年がいた。九条湊──どこか斜に構えたクセのある青年だが、彼が同業者から疎まれているのはそこではない。霊力、法力、神通力、彼はそんな力を一切持っていない。それにもかかわらず怪異を倒すという。その手腕は驚くべきものだった──。
 葉山透が贈る、現代の伝奇譚が登場。
これ、十分電撃文庫本隊でも通用する怪異討伐譚だと思えたんだが、なんでメディアワークス文庫から出したんだろう。あれか? ミナトがライトノベルの主人公としては薹が立っているからなんだろうか。まだおっさん呼ばわりされるには早い年齢だと思うんだけどなあ、と述懐してしまうのは自分がもうおっさんと呼ばれても仕方ない年齢だからなのかしら。

九条湊──どこか斜に構えたクセのある青年、などとあらすじでは紹介されているが、いったいどこが「どこか」なんて慎ましやかさ漂う形容詞がつく斜の構え方なのだろう。もはや彼の性格の悪さは斜めを通り越して直角である。兎に角口が悪い、悪意をひけらかすことに快感すら覚えているかのような辛辣で攻撃的な姿勢は、社交性に著しく欠けていると言っていい。ただ、その人間性がそのまま外装通りなのかというと、どう見ても態度の悪いさは自分自身を守るための鎧であるようだ。言わば、悪ぶって見せることで生来の善性を懸命に覆い隠そうとしている、とでも言うのか。端的に言うと、善人呼ばわりされることを虫酸が走るほど嫌っているひねくれ者の照れ屋さん、などと言ってしまうと怒られるか。ただ、彼のようにいい加減三十路近くまでなってくると、いい加減口の悪さも性格の悪さも演技ではなく充分地になってしまっているようだ。若い頃ならまだ垣間見えただろう可愛げ、というものが哀しいほど喪失してしまっている。この歳までこの性格なら、きっと老いてもこうなのだろう。その意味では、主人公の成長譚とは成り得ない作品であることは確かだ。周りの人間は彼の在り方をそういうものだと苦笑しながら受容する者に限られる事になる。旧友であるあの二人は、彼に幻想を抱くことを止め、期待を抱かず、しかしそんなミナトの内面をちゃんと把握して、その好ましさにのみ焦点を当てているのだろう。ミナト本人からすると、この二人は特に苦手な部類の人間なんだろうなあ、というのが二人へのやりにくそうな接し方を見ていると何となく伝わってくる。ただ、苦手なのと嫌いなのは全然別の話なんだなあ、というのもミナトの態度を見てるとよくわかるのが面白い。
さて、新たに彼につきまとう事となった二人の若者たち。沙耶とユウキがそんなミナトの旧友二人、叔母と保護者と同じ心境に立てるかというと、まだまだ幼く潔癖で世間知らずな子供たちにはミナトの在り方というのは我慢ならないものがあるのでしょう。ついつい反発と軽蔑を抱いてしまう。でも、それでもついついミナトにつきまとい、彼に期待を抱いてしまうのは、自分たちにないものを彼に感じているから。それは憧憬でもあり怖い物みたさでもあり、悪や汚れへの好奇心であり、自分たちと見ている世界が違う大人への関心でもあるのだろう。そして、純粋にして敏感な子供たちは、ミナトという人間の本質的な善性を感覚として捉え、信じているのだ。だからこそ、期待し夢を見てしまう。さても、ミナトからすれば鬱陶しいお荷物だ。なのだが、何だかんだと幼い彼らを見守る彼の目に、年長者としての優しさを感じてしまうのは決して勘違いではないのだろう。他者を必要としていないはずの男なのに、他人を遠ざけようと仕向けながら本当の意味で突き放す事はしない、なんとも不思議な男である。

さて、そんな男が解決するのは二つの事件。封印を破られた事によって蘇った零落した神の討伐と、呪詛の大家を襲った呪いの解呪である。面白いのは、この物語、怪異や呪術の存在を否定するのではなく、厳然と実在するものとして扱いながら、全く何の魔的な力を有さないミナトがこれらを智によって解決していく所なのだろう。
考えてみると、神だろうと魔術だろうと、実在するならそこにはある程度、現実としてのルールも通用するって事なんですよね。霊的なものには霊的なもので対処しなければならない、というルールなんぞどこにもない。それにこだわるのは所詮は思い込みに過ぎないわけだ。科学が発展し、物理法則の多くが解明されている現代は、古の昔と違って知識と技術によってこれまで同じたぐいの力によってしか太刀打ち出来なかったものにも対抗出来るようになったわけだ。でも、それは同時に古き力を有した者たちにとっては存在意義の否定にも掛かるもの。ミナトのやり方が嫌われるのは当然といえば当然なんだろうなあ。しかし、力に同じ力で抗するには限界もある。嫌われながらも彼に頻繁に依頼が舞い込むのは、有用性もまた認められているという事だ。尤も、ミナトは魔術の類を別に否定しているわけではなく、使えるのなら助手として沙耶やユウキの力も利用する事を躊躇ったりしないわけで、単に使えるものは何でも使う、というだけのことなんだろうなあ。それはそれでいやらしい、と嫌われる理由なのかもしれないが。

明らかに続きがある、という次の事件を匂わす終わり方だったので、あんまり間をおかずに続編、出してほしいなあ。面白かったですし。
それに、どうやら【9S】もあのまま放置ではなく、ちゃんと続きを出してくれるようなので、良かった。