そして、誰もが嘘をつく (電撃文庫)

【そして、誰もが嘘をつく】 水鏡希人/Tea 電撃文庫

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いわくつきの“青いダイヤ”をめぐる騒動と、ほのかな恋をのせた飛行船の旅の行方は!?

 巨大な豪華飛行客船「ティターン」号に乗り込む不思議な少年・アデルベールとその小さな相棒・ティッカ。
 その船には、世界を股にかける冒険商人、妖艶な女優、美しい謎の女性とその同行者である新聞記者、莫大な財力を誇る侯爵家など、個性豊かな人々が乗り合わせており皆、旅を楽しんでいるかに見えた。アデルベールも船で知り合った侯爵家の令嬢・リラとの船旅に心躍らせていたが、世間を騒がす怪盗セニンから “青いダイヤをいただく”という犯行予告が届き旅の空気は一変!? そして──。
これ、これこれこれ、これって、作者のデビュー作【君のための物語】と同じ世界観じゃないかっ。というか、あっちの登場人物が何人か登場してるし!
いや、最初まったく気づいてなかったし予想もしていなかったんですよね。カラー口絵で一人だけ顔が見切れてる人がいるのには、何でなんだろうと妙だとは思ってたんですが。それが読んでいるうちに何だか聞いたような話があるなあ、と違和感が募っていってた所で、ミュンさんが同行の女性と初めて出会ったのは彼女に襲われた時で、と語り始めた時にようやく「はっ」と気づいたんですよね。我ながら、よく何年も前の作品の内容覚えてたもんです。幸い【君のための物語】はすぐに引っ張り出せる位置に安置していたので、すぐに中身を確かめられたんですが、うははは、やっぱりだーー!
そもそも、デビュー作と登場人物たちの名前が違うんでわかんなかったんですが、なるほど彼女たちについてはそういう事だったのか。彼についても、デビュー作を読んだらすぐ名前に意味には気付かされた。でも、彼は実のところ語り部だったときとこちらとではイメージけっこう違ったんですよね。もっと野暮ったいオジさん、それこそホームズに対するワトソンみたいな人かと思っていただけに、こんなにスマートで抜け目のないしっかりした青年だとは思わなかった。
で、読んでみた感想ですが、やはりしっくりくるわー。随分遠回りしましたけど、この作者の作風ってやっぱりこんな近代化が始まったばかりの1900年代、古くて新しき良き欧州を彷彿とさせる時代背景のシックでキャラクターがある程度落ち着いている感じのものの方がぴったりですわ。出来栄え、あるいは世界観の質感の鮮やかさ、とでも言い換えたらいいか、それがある程度萌えを意識した現代モノとは全然違うんですよね。正直、あっちは随分無理してる感じがしたもんなあ。作者の「らしさ」が全損してて。
物語としての完成度や、ズンと胸の深いところまで訴えかけてくるような情感の余韻についてはやはりデビュー作は抜きん出てるんですが、この作品を読んで作者が自身の「らしさ」を失っていなかった事が確かめられてまっこと安心しました。デビュー作は本当に好きだっただけに、その後が出てこないことにすごくもどかしい思いを抱いてたんですよね。

さて、此処にて描かれるのは豪華飛行客船の上で繰り広げられる嘘つきたちの群像劇。ぶっちゃけ、本来の主人公とヒロインであるアデルベートとリラよりも、ミュンさんとエオノーラの二人が気になって仕方なかった訳ですが。彼女については一体どうなってたか気になってただけに、色々な意味で元気な侭の姿を見られて良かったというか、随分と複雑な思いを抱くことになってしまっていて「あらあら」とにやついたり、ツンデレさんはやはり見てて面白いです、うんうん。まあ彼についてはセリュエの想いを大事に抱えている以上、振り向かせるのは大変でしょうけど。そもそも振り向かせるようなことしてないしw
え? 気になってるんですよね、エオノーラ。最後のアデルベートのお節介を見る限りでは多分間違いないかと思うんだが。
事態がかなり錯綜するので、何を真実と事実と見極めたらいいのから判断せねばならぬ、だいぶ引っ張られてしまったけど、怪盗の正体についてだけはわりと早く推察がついた。こう、ガサツさがわりと似てたからなあ(笑
その分、主人公であるアデルベートの目的についてが何を考えているのか分からなくて、引っ掻き回されたわけですが。
アデルについては、なにやらあの「彼」と何らかの繋がりがあるようなので、もしかしてデビュー作と本作を連結した続き、出るんだろうか。だとしたら嬉しいんですが。アデルベートとリラについても、このままお別れというにはもどかしいものがありますしね。

【君のための物語】感想