カンピオーネ! 9 女神再び (カンピオーネ! シリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫 た 9-9)

【カンピオーネ! 9.女神再び】 丈月城/シコルスキー スーパーダッシュ文庫

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女神は神殺しとの戦を望む

ついに訪れた女神との再戦の時。
手の内を知られた護堂に勝機はあるのか!?

草薙護堂の前に、再び現れたまつろわぬ女神アテナ。
何でもひとつ言うことをきくという、護堂が以前助けられた際にした約束を盾に再戦を望むアテナは、争いを望まない護堂の拒否を認めない。
ついには祐理やリリアナを石化し、人質にするという強行的な手段で、護堂との戦いを開始する。
アテナが勝負を急ぐのには差し迫られた理由があり…!?
新神話第9弾は激闘の調べ!!
そうかー、そうだよなあ。アテナがアテナである以上、先の羅濠教主と同じパターンになることはなかったんだよなあ。それでも護堂さんのプレイボーイっぷりに期待した所だったのですが、実のところ護堂さんって女性に甘いという意味でのフェミニストじゃないんですよね。アテナとの初対面からこれまでの関係を思うなら、両者はどれほど互いに好意を抱こうとも、いや互いに好意を抱くからこそ「良き敵」となる以外有り得なかったんだよなあ、と改めて納得した。護堂さんの良い所は、自分のエゴを押し通す意思と気概を持つと同時に、相手のエゴを認め受け入れる度量も持っている所。あそこでアテナの誇りを認めて、納得し、惜しまず哀しまず、ただ寂寥と喪失感を胸に宿して送り出せる護堂さんは、先ずなにより「王様」なのだという事がよくわかる。
これは彼の周りに侍る女性陣に対する態度にも如実に現れていて、特に今回心底感心させられたのが、夜伽を申し込んできた恵那に対する対応。結局ここで護堂さんは恵那の申し出を断ってしまうのですが、その理由がヘタレて逃げを打ってるどころかむしろ凶暴とすら言っていい理由なんですよ。これ、護堂さんの言ってることよくみると、色々な意味で凄まじい事言ってますよ。現場についても自分が魔王である事の自覚を今までになく強く意識し自覚した発言であると同時に、将来についてはもっと凄まじい事になることを前提にしていらっしゃいますし。さらに恐ろしいのは、これだけ横暴にして自分のエゴを押し通す事を言ってのけながら、しかし健気なくらい懸命な恵那にはまったく恥をかかせずに、むしろより柔らかく包み込むように場を済ませてしまっている所である。普通、ここまでのシチュエーションになったら、恵那か護堂どちらかが傷つかずには済まないと思うんだが、護堂さんの人垂らしはやっぱりパねえっすわー。まあ、その後本番さえしなきゃいいよねー、って感じにチュッチュイチャイチャしていやがりましたが。もうそこまで行くならどっちでもいいじゃない、と思わないでもないのだけれど、今の護堂さんだとそれ以上やると歯止めきかなくなってしまうんだろうなあ。今ですら、ちょっと前と比べると随分と歯止めきかなくなってるし。もう、自分からキスすることに対して躊躇いもしなくなってきてるもんなあ。
この分だと、護堂さんの言うところの器が出来上がるのはそんなに先のことじゃないような気がする。最初の、それこそアテナと最初に戦った頃と比べても、王としての自覚が段違いに出来上がってるし。しかし、同時に変化がないのもまた護堂さんなのかもしれない。アテナも、あなたは変わらないな、と呆れながら感心してたくらいだし。変わるべきところは変わり、不変たるべきところは変わらない。良き成長をしてると言えるのだろう。まあその成長というのも、人としての成長ではなく明らかに「魔王」としての成長なんだが。
うーん、こうしてみると護堂さんって、尋常じゃない女たらし、有り得ざるプレイボーイ的な見方ばかりされてますけど、実のところあんまり描写されてないだけで護堂さんって男にもモテてるっぽいんですよね。これ、BL的な意味じゃなく。陸鷹化に対するコメントなんか笑っちゃいますよ。鷹化の人柄に対してやれ一言多いし口も悪い、無駄に挑発的で気難しく偏屈。と散々論った挙句に
だが護堂には「甥」の生意気さが微笑ましくもあった。
この人、多分性格的にヤバかったり難しかったり面倒くさい男にこそ、より慕われるたちなんじゃないだろうか。多少どころでないヤンチャでも、護堂さんなら笑ってまあ何とかしてやるよ、と請け負ってくれそうな雰囲気があるわけで。昔、キャッチャーでならしてたそうだけど、気難しい投手連中にもモテたんだろうなあ。しかし、陸鷹化ほど危険でヤバい男をして、微笑ましい、ときたもんだ。可愛い甥っ子ときたもんだ。これを「王様」と言わずして何というのやら。

さて、再び視点をヒロインに移してみましょう。今回はエリカさんが後半までイタリアの方に出張に出かけていたおかげで、概ね恵那嬢のメイン回と言っても良かったようで。彼女も最初に登場したときは護堂さんにも胡乱に思われていたようだけど、此処に来てポディション固まったなあ。あっけらかんとして男友達のような気安さで付き合えると同時に、女の子としては一途で健気。同じ健気な万里谷と比べて、サッパリしている分、幼いくらいの無垢さとまっすぐさがあって、この娘はこの娘で非常に魅力的なヒロインとしての出力があがってきたっ!
そう言えば、万里谷の方はなんでエリカを差し置いて正妻正妻と言われてたのかが良くまだ理解できてなかったのだが、皆との関係が成熟してきてようやくなぜ彼女が「正妻」なのか何となく実感できてきた。なるほどなあ。確かにこれは、たとえエリカが一番で第一夫人だとしても、万里谷は「正妻」だわ(苦笑
で、護堂さんの女であると同時に、戦友でもある彼女たち。此処に来て彼女たちもようやくガチンコで主と肩を並べて、あるいは主の背を守れるだけの実力を備えはじめてきた感じ。尤も、今までが足手まといだった、なんて事は全く無かったんですけどね。ホントにそういう印象全然なかったんだが、言われてみると確かに今までの彼女たちの実力では神々との闘争に介入できるまでの力は持ってなかったんですよね。持ってないにも関わらず、彼女たちはこれまでそこに勇躍飛び込んで護堂さんの力になってたんだから大したもんだわ。そこからさらに力を蓄え、まさしくカンピオーネ・草薙護堂の家臣と呼ぶに相応しい実力をふるえるようになってきたのだから頼もしい限りである。恐ろしいのは、彼女たち以上の騎士、魔法使いたちがまだわんさと居るって所だよなあ。それらを飛び越え、護堂たち魔王が存在しているんだから、とんでもない世界である。

とんでもないっちゃー、今回のアテナの暴れっぷりはまあとんでもなかった。さすがは戦女神アテナである。スケールがケタ違い。最初の戦いも相当にむちゃくちゃでしたけど、石化能力なんか笑っちゃうくらいだもんなあ。そこらへんの漫画やゲームのラスボスが束になっても敵いませんよ、これ。

恒例の薀蓄は、今回はわりと少なめ、と感じた気がしたけどよくよく振り返ってみると、アーサー王関連について結構掘り下げて書いてありましたね。しかも、今回って改めて見ると、エクスカリバーVS天の叢雲というデタラメと言っていい対決になってたんだよなあ。ともすれば有名すぎる剣同士すぎて、陳腐に成りかねないラインナップにも関わらず、それぞれ虚栄となりかねない名に対して、しっかりと実を与える、情報、歴史、伝承、神話、解釈、考察、ハッタリの積み重ねがあったが故に、栄えのある戦いになりましたね。とはいえ、どうやらまだこれは序の口。どうやらまだ真打ちとなるべき一戦が待ち受けているようですが。

とりあえずグネヴィアたちは、眠る最後の王がアーサー王という認識で疑いもしていないようだけれど、いや事実アーサー王でもあるのだろうけれど、黒王子アレクの言い様だとやっぱりただそれだけではなさそうなんだよなあ。どうやら彼は既にある程度その正体について推察が出来ているようだけれど。
あ、そうそう、この黒王子殿ですよ。この人、ダメだろう(笑
この人だけは、まだ人格的にマシなんだと思いたかったんだが、全然ダメだよ! 何が巻き込まれ型ですか。厄介ごとに首をつっこむどころか、完全に自分から厄介ごと巻き起こす方じゃないですか。ドニや翠蓮やヴォバンと何も変らないよっ。どこをどうひっくり返しても魔王でしかないよ。ああやっぱり、カンピオーネってのはどうしようもなくカンピオーネでしかないのか(苦笑

因縁の、あるいは宿命の好敵手であったアテナ。義姉となった翠蓮とは別の意味で、護堂の行く末を見守り、敵として寄り添い続けるはずだった女神。それがいなくなってしまうのは、やはり寂しい。どこか、あのウルスラグナとの戦いと別れを想起させる。そうか、護堂がカンピオーネとして得る力というのは、普通の魔王のように神から奪うのではなく、親愛を以て授けられるものなんだなあ。今はまだ眠れる力のようだけれど、アテナがくれた力はいずれ護堂にとっての最大の切り札になるような気がする。彼女は、護堂が自分以外の誰にも負ける事を許してはくれなさそうですしね。