社会的には死んでも君を! 2 (MF文庫J)

【社会的には死んでも君を! 2】 壱日千次/明星かがよ MF文庫J

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首ブリッジをしたり、彼に憑いている香月に周囲を警戒してもらったりと、『ラブコメ現象』を回避するため、日夜努力を欠かさない薩摩八平。そんなある日、1日に2回しか起こらないはずの『ラブコメ現象』が4回起きてしまう。八平は呪いが強化されたのではないかと不安になる。顔に白濁した液体がぶっかかる『ラブコメ現象』を起こした魅剣柚姫を監視する香月。彼女はただの変態さんのようで、『ラブコメ現象』が増加したわけではなかった。しかし、どうやら柚姫には香月のことが見えているようで……!? 純情少年と幽霊少女が織り成す、ハートフル・アンチ・ラブコメディ第2弾開幕!!
うわぁ、切ない。やっぱり切ないよ、この話。八平以外には誰にも見えず、声を聞くことも出来ない幽霊少女香月。故にこそ、この二人のやり取りというのは傍目から見ると、脳内彼女と一人遊びしている痛いヤツ、にしか見えないんですよね。決して誰からも理解されず、認められず、受け入れられず、奇異と忌避と嫌悪の目でしか見られない宿命にあるのが、八平と香月の恋なのです。その上、八平にはラブコメ現象というラッキースケベを強制的に発動してしまう原因不明の呪いがまとわりついている。おはなしの上では笑い話で済むラッキースケベも、現実世界で起こってしまえばただの性犯罪。中学時代、将来を嘱望され彼自身青春を賭けていた野球を、この呪いのせいで辞めなければならなくなった過去を持つ八平。性犯罪者と蔑まれ、女の敵と嫌悪され、人間のクズと憎まれて、社会的に抹殺されかかった八平は、高校生になった今、非常の努力を重ね、対策を練り、日々襲来するラブコメ現象と戦っているのです。社会的に死ぬって、真剣に考えるととんでもないことなんですよね。笑ってられない。それってもう、まともな人間として扱って貰えず、普通に生きていく事すら出来なくなるということなのである。それがどれだけ悲惨なことなのか、恐ろしいことなのか。過去に実際そうなりかけた事のある八平は、そんな恐怖と毎日戦っているわけだ。中学時代と違って高校生になった今、一ツ間違えれば本当に冗談じゃすまなくなる、警察沙汰に成りかねないわけですしね。
そんな本来なら生きて行くだけで精一杯で心の余裕なんかないにも関わらず、彼は前巻で想いを通じ合わせ、恋人になった幽霊の香月を思いやり、誰とも触れ合えない彼女が喜ぶであろう事を、それこそ自分の社会的な立場と引換の綱渡りのようなやり繰りで尽力していくのである。その必死さ、健気さ、ひたむきさは見ていて涙が出てきそうなほど献身的なのだ。そんな無類の愛情を受ける香月もまた、何も彼のためにしてやれない自分の無力さに苦しみ、彼の立場を危うくするしかない自分の存在を恨み、それでも彼を愛さずにはいられない欲求に、愛して貰うことを求めてしまう事に密やかに咽ぶのだ。その切実さ、儚さ、懸命さにはこちらも涙が出そうになる。こんなにも二人はお互いに愛し合い、互いを思いやっているのに、二人を取り巻く世界は彼らに優しくしてくれないのだ。いつだって、彼らを哀しませ、苦しませようとするのだ。なんて理不尽で、悲しい事なんだろう。
なんて切ない、悲恋なのだろう。
二人の苦労も、前向きな努力もむなしく、呪いは八平をただの卑しい性犯罪者という認識を周りに広め、見えない香月の存在は八平を痛々しい脳内妄想に耽溺する異常者と皆に誤解させ、彼の社会的立場は崖っぷちへと立たされる事になるのです。幸いにも、彼のラブコメ現象の最大の被害者である鈴音が彼を擁護し、彼の行為そのものを受容する旨を皆に宣言したことで、かろうじて彼の立場は守られるわけだけれど、現実の女性が八平を救う事が香月を苦しませ、そんな恋人の懊悩も、鈴音の想いも知らないまま、八平はひたすらに香月を想い続けるのである。
初めて、第三者であり彼らを取り巻く全ての事情、あらゆる理不尽を知った柚姫の目から見た、八平と香月の逢瀬。このラストシーンを見たときの事をなんと表現したらいいでしょう。
これほど神聖にして侵しがたい、切なく美しい情景を、私は知りません。
すごいなあ。一巻の段階でもう既に悲恋たる純愛モノとして際立ったものがありましたけれど、少なくとも香月と八平のピュアラブストーリーとしては、この二巻でより純化されたような気がします。もういっそ、余計なラブコメは撤して、より濃厚に、鮮烈に、二人の物語に特化してもいいんじゃないでしょうか。

八平の頭痛や柚姫と香月の関係などからして、どうやら、気配的に次の巻で完結の匂いがしてきましたけれど、出来れば感動のハッピーエンドを迎えて欲しい。この二人が幸せになれないなんて、嘘ですよ。

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