生贄の羊と1/2アンデッド (ファミ通文庫)

【生贄の羊と1/2アンデッド】 佐々原史緒/kyo ファミ通文庫

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死生の狭間を越えるダーク・ミステリ・ロマンス第2弾!!

一度死んで蘇生した"半死人"冬哉と、死者の霊を彼岸へ送る"渡し"の那由子。ふたりは那由子の大切な「鏡」を取り戻すために奇妙な協力関係を築いていた。夜な夜な霊を"渡す"仕事に勤しんでいたある日、近隣の高校の構内に漢字が描かれ、その文字が苗字に含まれる生徒が怪我をするという事件が相次ぐ。霊の仕業と噂されるこの事件の裏に蠢いていたのは、ある女子生徒の血塗られた愛憎劇だった――。死生の狭間を越えるダーク・ミステリ・ロマンス第2弾!!
前回、冬哉の事を佐々原作品にしては珍しく芯の定まっていない弱キャラ、と書いたのですが、そう言えば前作の【創立!? 三ッ星生徒会】の向坂恵も相当なさけないキャラだったっけか。ただ、彼が粘り強い調整型のリーダーへと成長していったのに対して、こちらの冬哉が歩み始めているのは似て非なるものと言えよう。芯がない、あるいは信念が無い。つまり確固とした思想や自分の在り方というものを持たず周りに迎合することを良しとしがちだった冬哉ですが、こと霊関係に対する那由子のやり方というのはよく言えば合理的、ぶっちゃけると非人間的なところがあって、冬哉としてもそのまま受け入れるには人としての良心が耐え切れないのである。故にか、彼は食べ物で釣りながらも那由子に辛抱強くただ機械的に効率よくこの世に未練あって残っている霊たちを問答無用で成仏させるのは違うんじゃないか、という考えを諭しはじめるのだ。面白いことに彼のやってる事、やろうとしている事もある意味「渡し」と言えるんですよね。生きている人の話を聞き、死んでいる霊の想いを聞き、本来ならばもう通じることのないはずの両者の想いをつないで渡す「橋渡し」。まさに半分生きて、半分死んでいる彼にしか出来ないことだ。尤も、彼は別にそれを信念を持って行っているわけじゃない。目の前で起こる生者と死者の錯誤と誤解、すれ違う事によって大きくなっていく悲劇惨劇を目の当たりにしてしまったが故のことだ。誰だって、目の前で燃え出したボヤを無視なんて出来ないだろう。放っておけば大変なことになってしまうと分かっていて、周りにそれに対処できる人が誰もいないとき、人は何もせずに居られるだろうか。冬哉はただ、当たり前の善良な一般人というだけに過ぎない。だからこそ、思わず自分の出来ることをやってしまっているだけなのだ。でもだからこそ、なし崩しでしか無く確固とした信念の上での行為でないからこそ、彼は他人の心の領域にまで踏み込むような自分の行為に恐れのようなものを感じている。それ以上に、これまでの生き方も、生き返った事も、自分が那由子を引き止めてまでやっていることも、何の意味もない、価値もないことなんじゃないのかと、恐れている。
だからこそ、他でもない那由子が、食い物以外この世の何にも興味も感心も示さなかった彼女が、冬哉を肯定してくれた事は彼に取ってとてつもない衝撃であり、ブレイクスルーになったのだろう。死んだと同時に心の何処かでせき止めていたものが、あふれだして涙になってしまうくらい。
そう考えると、那由子の変化の傾向は微妙だけれど顕著だったのだなあ。あれだけ、那由子が自身の判断を冬哉が認めてくれなかったとき、珍しいくらいにムキになって拗ねまくっていたのは、それだけ冬哉の言や考えに重きを置いていたって事なんですよね。最後の、あなたが言うのならきっと意味があるのでしょう、という言葉を聞いて、ちょっと前の変だった那由子の様子がようやく腑に落ちたのでした。
まあ、餌付けが効いたんだろうな、とは敢えて言うまいw

しかし、また不穏な終わり方だなあ。誰が見てたのかは明言してないけど、多分あの人だろうし。となると、瀬尾っちのややも不安定で危うい雰囲気も余計に不安を煽られる。今回、彼についてはとことんイイヤツだというのをつくづく思い知らされたので、出来れば彼には報われて欲しいんだが。